《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》ファラ・レナルーテ
父上が部屋を出ていくと僕はディアナを呼んでお風呂の準備をお願いした。
その待ち時間の間に僕は、メモリーを呼び出した。
「やぁ、リッド。お疲れ様だったね」
「うん。さすがに今回は疲れたよ」
メモリーは楽しそうに、でも優しく労いの言葉をくれた。
僕はお禮を言いながら、呼び出した目的を告げた。
「石鹸の作り方とか代用品はわかった?」
「自然界で手にる代用品は『ムクロジの実』だね。
実の皮が泡立って石鹸になるみたいだよ。
あとは、『油脂、水、灰』があれば作れるみたいだね」
ムクロジの実? 聞いたことが無いけど、何かの本か何か載っていたのかな?
あと『油脂』か。
僕はメモリーに質問をした。
「ムクロジって雑草とか? それとも木?」
「木だね、ちょっと瞼にイメージ送るね」
そう言われて瞼の裏に浮かんだのはどんぐりみたいな実だった。
僕はいつこんなのを意識的に見たのだろうか? と疑問を抱きつつも次のお願いをした。
「わかった。ありがとう。ちなみに、『油脂』ってなんでもいいのかな?」
「うん。牛脂とか豚脂が良いみたいだけど、植油でも大丈夫みたいだよ」
「ふむふむ。ありがとう、じゃあまた何かあればお願いね」
「ちょっとまって、リッド」
話が終わると珍しくメモリーからストップがかかった。
どうしたのだろう? すると、メモリーは強い言葉で言った。
「無理しちゃダメだからね⁉ 僕も中で心配していたんだからね‼ 言いたいことはそれだけ。じゃあね」
メモリーは言いたいことだけ言って、通信が終わってしまった。
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僕は誰にいうわけでもなく、その場で呟いた。
「うん。ありがとう、メモリー」
メモリーとの會話が終わると丁度、ディアナが部屋に戻って來た。
溫泉の準備が出來たらしい。
一応、抵抗はしたけどディアナは溫泉に一緒にると聞かなかった……
◇
ところ変わって本丸殿の中にあるファラの一室ではアスナが呆れたようにため息をついていた。
「はぁ……そんなに慌てなくてもリッド様はすぐ來られます。しは落ち著いてください」
「へ……⁉ あ、その、い、いえ、私は冷靜です」
今朝、ライナーからファラ宛に連絡が來た。
容はリッドが無事に意識を取り戻した。
そして、心配をかけたお詫びにリッドがそちらに伺いたいという容だった。
ファラはとても喜び、すぐに返事をした。
したのだが、その後に急に何とも言えない恥ずかしさに襲われた。
そして、なんだか居ても立っても居られないじになってしまい、部屋の中をずっとうろうろしているのだ。
アスナはその様子に呆れた様子で言った。
「……それに、ファラ様。失禮ながら耳がいていますよ?」
「へ? あ⁉」
そういうと彼は耳を両手で押さえながら近くにあった椅子に座った。
彼は好意的なが高まると耳が上下にいてしまう質だ。
ダークエルフの中でもこの質を持っているのは數だ。
意識すればかないのだが、気を抜くとすぐに合わせていてしまうのだ。
アスナの指摘に、ファラは顔をし赤くさせながら深呼吸をしていた。
そして、リッドに出會った時から、今までの出來事を思い出していた。
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◇
リッド、彼が父上に挨拶をする時に私も立ち會った。
その時に見た顔にとても驚いた。
彼は気づいていなかったが私はしっかり覚えていた。
「バルディア領にいた男の子……⁉」それはとても衝撃的だった。
私はエルティアからの教育で忙しくて特定の人としかほとんど接點がない。
それ故に、バルディア領で迷子になった時に助けてくれた男の子がとても印象に殘っていた。
そして、彼が自分と同い年と思えない、自己紹介にも驚いたが、私は別の事で頭が一杯だった。
「間違いない絶対に彼だ……」と思った時に心がとてもドキドキしてきたことを覚えている。
その時、父上がリッドに私との婚姻について質問した。
し心に小さな痛みが走った。
私が帝國に嫁ぐ話を誰もが可哀想と言って來る。
でも、私は王族だ、母上の言葉やんなことを勉強するうちに國同士の繋がりや、王の役割をある程度、自分なりに理解していた。
だから、私は自分なりに覚悟してこの婚姻に臨んでいる。
だけど皆が私を見る目は同や憐み、もしくは王としての利用価値だった。
そして、婚姻の話になると、當たり障りのない言葉だけで誰も祝辭や応援をしてくれることはなかった。
だから、きっと彼も角の立たない無難なことを言うのだろう。そう思っていた。
でも、彼は違った。
「今回のレナルーテとバルディア領との婚姻は必ず、するべきと考えております」
彼の言った言葉に私はし呆気にとられてしまった。
そして、それに気づいたのか彼は私をみると、ニコリと笑顔を返してくれた。
その時、とてもがドキリとした。
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すると、彼の言葉が段々と心に響いてきてドキドキはさらに大きくなった。
彼は國同士の繋がりであったとしても、自分から婚姻したいと言ってくれた。
國や親の取り決めではなくリッド自の口からはっきりと婚姻すべきと言ってくれた。
それがとても嬉しかった。
皆が後ろ向きの婚姻に、その相手となる彼は自ら進んで婚姻したいと言う。
その姿は自信にあふれてとても心強かった。
その時、母上は心を許すなと言っていたが、私は彼に心を許してしまったのだと思う。
その後、彼は父上とノリス相手に一歩も引かずに弁論を繰り広げた。
そして、ノリスを言い負かして父上すら納得させてしまった。
その姿はとても頼もしくて、眩しくて、カッコよかった。
そして、彼に自己紹介をする順番が回ってきて、ドキドキする気持ちを抑えて平靜を裝いながら挨拶をした。
すると母上から指摘をけてしまった。
「耳がいています。はしたないですよ」
その言葉にハッとした私は深呼吸をして気持ちを落ち著かせた。
でも、その時に同時に気付いてしまった。
(私はリッド様に惹かれている……)
その後も彼の快進撃は続いた。
兄上を赤子のように扱い、アスナの剣に最後まで諦めずに挑戦をした。
その姿をみていると私のの高まりはどんどん大きくなっていった。
そして、魔法披で事件が起きた。
詳しくはわからないがノリスの酷い挑発に彼が激怒して、凄い魔法を発させたらしい。
あまりの大規模な魔法に誰もが慄いた。
でも、彼の視線の先にあるのは的ではなくノリスだった。
彼は、あの魔法をノリスにぶつけるつもりだとすぐにわかった。
その瞬間、私は彼の元に駆け出していた。
彼が何かをぶと先に駆け付けていた父上とライナー様が吹き飛ばされた。
その姿に私はし怖くなったけど、彼を止めたい一心で走り抜けた。
ふと、気付けば兄上が私の隣に來ていた。
そして、二人で目を見合わせると頷いて、彼に抱き著いて必死に説得をした。
アスナも駆けつけてくれた。
すると必死の説得に彼は頷いて、魔法を空高くに放った。
その瞬間、あたりに凄い轟音が鳴り響いてとても怖かった。
でも、彼はそんな私を守る様に優しく抱きしめてくれていた。
さすがの彼もあれほどの魔法を放つにはかなりの魔力を消費したらしい。
その後、すぐに気絶してしまった。
父上とライナー様はその場にいる面々に、彼が発させた魔法について緘口令を敷いた。
すると、急いで彼を迎賓館の部屋まで運んだ。
私も同行させてもらい、時間の許す限り彼の傍にいた。
夜も遅くなってくると、彼の部屋には私とアスナ、そして彼の護衛のディアナだけになった。
すると、部屋がノックされて、ライナー様が室された。
話を聞くと彼の様子を見に來たらしい。
ライナー様は私を意外そうな顔で見ると、おもむろに私と今ここで二人きりで話したいと仰った。
私が了承の返事をすると、アスナとディアナは一禮をして部屋を出て行った。
ドアが閉まる音が靜寂な部屋に響く。
すると、ライナー様は優しく私に呟いた。
「私の息子が心配をかけて申し訳ありません」
「あ、いえ、むしろこちらが謝罪すべきです。申し訳ありませんでした」
私は彼が寢ているベッドの橫の椅子に座っていた。
だけど、ライナー様の突然の謝罪に驚いて急いで椅子から立ち上がって返事をした。
私の言葉を聞いたライナー様は厳格な顔を崩してし優しい顔をしていた。
すると、そのままの雰囲気で私は質問をされた。
「失禮ながら、ファラ王はリッドのことをどう思っているでしょうか?」
「へ……⁉ あの、その、とても素敵な方だと思い……ます」
私は突然の質問に驚いて、必死に平靜を裝いながら答えた。
本人は気づいていなかったが、この時ファラの耳は激しく上下していた。
私の返事を聞いたライナー様は優しく言葉を続けた。
「そうでしたか、安心致しました。リッドはもし王と婚姻することになれば一杯、幸せに出來るようにすると息巻いておりました。ファラ王がリッドのことをしでも好意を持って下さればと思っておりましたが、親のお節介でございました。このことは、リッドにはにして頂きたい」
「は……はい」
私は返事をすると俯いた。
彼がそんなことを言ってくれていたことを知って、顔が真っ赤になるのをじた。
そして、嬉しくて涙があふれてきた。
父上も母上も誰も私を見てくれない。
婚姻の相手も私を政略結婚の相手としか見ないだろう。
ずっとそう思っていた。
彼のことは素敵だと思ったし、実際に心はときめいていた。
でも、どこかで彼も他の人と同じじゃないかと不安だった。
でも、違った。
彼は本當に私の事を最初から見てくれていた。
そう、思った時、涙が自然と溢れていた。
ライナー様は私の異変に気付いていたようだが、ずっと黙っていてくれた。
私は気持ちを落ち著かせる為に深呼吸をして、涙を拭うとライナー様に言った。
「……まだ、どうなるかわかりませんが、婚姻することになれば私も一杯、リッド様を幸せに出來るように頑張りたいと思います」
私の言葉を聞いたライナー様は嬉しそうな顔で微笑んでくれた。
でも、言った後に私は母上のことを思い出し、し不安を覚えた。
すると、ライナー様が心配そうに言った。
「……どうかされましたか? し不安な顔をされておりますが?」
「あ、すみません」
相談して良いのだろうか? 私はし悩んでから、意を決するとライナー様に言った。
「……実は、母上は私に帝國の皇族が結婚相手であると日頃から申しております。なので、仮にリッド様とのご縁を頂けても母上は納得してくれないのではないかと……」
「そうでしたか。ですが、今回の婚姻は國同士の決まりです。そこに、失禮ながらエルティア様の意思は関係ありません。そこまで深く考える必要はないでしょう」
ライナー様の言葉はもっともだった。
だけど、母上には私の婚姻を祝福してほしいという願いが私の中にあったのだと思う。
私は返事をせずに俯いていた。その様子にライナー様は言葉を続けた。
「ふむ…… これは親としての言葉ですが一度お気持ちをエルティア様に言葉で伝えてみてはどうでしょうか?」
「……どういうことでしょうか?」
私はライナー様の言う意図がよくわからずに聞き返した。
「の反対は無関心という言葉があります。ファラ王はエルティア様に厳しい教育をけていると伺っております。ですが、何故そこまで厳しくするのでしょうか?」
「……それは、政略結婚のためでは?」
私の言葉にライナー様は小さく首を橫に振った。
「確かに政略結婚の為に教養は必要です。ですが、伺っているファラ王の教育容は度を越えております。そこまでの教育を施すということは何かしらのエルティア様の意図があると存じます。」
「……それはつまり、あえて私に厳しい教育をしていたということですか? しかし、そのようなことをする理由がわかりません」
母上の言すべてになにかしらの意図があったのだろうか?
私はいくら考えてもわからなかった。
困った表でライナー様を見ると咳払いをして彼は言葉を紡いだ。
「ゴホン……親のというのは何も優しくすることだけではありません。時には厳しく。心を鬼にしなければならない時があるものです。例え、子供に嫌われようとも、親は子を大切に思うものです。それが『親の』だと私は思っております」
「それは……」
ライナー様は目を細めながら優しい目で寢ているリッド様を見つめていた。
その言葉を聞いて私は、今まで母上に思っていたことに対して疑念が生まれた。
私は今まで、母上や父上に認められたいと思ったことはある。
だけど、二人の立場でものを考えたことはあまりなかった。
私が思案気な顔をしていると、ライナー様が私を見て言った。
「今日はもう夜が更けました。リッドも醫者の話では遅くとも明日には目を覚ますそうです。目が覚めましたら、ファラ王の所に訪問するように言っておきますので、本日これにてお引き取り下さい」
「……はい。わかりました」
私はライナー様の促されるまま、迎賓館をアスナと後にした。
そして、本丸殿に戻ってくるなり母上が呼んでいると兵士に言われ、すぐに母上の部屋に向かった。
向かう途中、ライナー様と話した容が蘇り、不思議な気持ちになっていた。
◇
「……來ましたか。アスナ、あなたは席を外しなさい」
「……承知致しました」
私とアスナが部屋にると、母上は早々にアスナを退室させた。
アスナは一禮すると、私に心配そうな視線を送るとそのまま退室した。
部屋には私と母上の二人だけで、どことなく重い、張がある雰囲気になっていた。
すると母上はいつも通り冷たい口調で言った。
「こんな夜更けまで、どちらにいたのですか?」
「……寢込んだリッド様に、付き添っておりました」
私の言葉に母上は目を鋭くして吐き捨てるように言った。
「あなたは皇族と婚姻するです。なのに、『常識外れの化け』にこんな夜更けまで付き添いとは、立場を考えなさい」
私は初めて、母上の言葉に憤りをじた。
リッド様のことを『常識外れの化け』扱いするなんて、母上でも許せなかった。
「母上、失禮ながらリッド様は仮にも私の婚姻候補者です。そのような、失禮な言いはおやめください」
「……ファラ、あなたは私に意見出來る立場とお思いですか? 子は黙って親の言うことを聞けばよいのです。あなたが婚姻すべきは帝國の皇族です。あのような『化け』はあなたに釣り合いません。私から陛下に何とかして頂くようにお願いするつもりです」
ライナー様、母上の言葉のどこに『親の』があるのでしょうか?
私にはわかりません。
私は初めて母上の言葉に怒り、怒気のこもった聲でんだ。
「母上‼ その言い方はあまりに酷すぎです。私はライナー様から伺いました。リッド様は、政略結婚でも私との婚姻が決まったら一杯、幸せに出來るようにしたいと申していたと」
「……その言葉が本當だと思っているのですか? 帝國貴族は強かです。あなたの心をわす為の発言と考えないのですか? 淺はかですね、我が子ながら恥ずかしい」
母上は私の言葉を聞いて呆れた様子で言った。
私は怒気のこもった聲で続けた。
「淺はかなのは母上です‼ 國同士の繋がりに、母上が父上に申し立てたところで何も変わりません。先刻のノリスが良い例ではありませんか‼ 私は、私は……」
「私は……なんですか? 言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさい」
母上の言葉に私、涙を浮かべはっきりと告げた。
「私はリッド様をお慕いしております‼ もし、婚姻できるのであればこれほど嬉しいことはありません‼ ですから、先程の言葉は取り消して下さい‼」
「……愚かな、の赴くままに発言するなど王としての資質が問われますよ」
母上の言葉に私は怒り心頭だった。
私自、自分にこんながあるなんて知らなかった。
でも、母上の発言は許せなかった。
私の怒りの雰囲気が消えない様子を悟ったのか、母上は呆れた様子でため息は吐いた。
そして、冷たく突き放すように言った。
「はぁ……そこまで言うのであれば、好きにしなさい。ですが、私と親子の縁は今日で終わりです。私は金際、あなたには関わりません。ファラ王、あなたも私の事を他人と思い、忘れなさい。いいですね?」
私は母上の言葉の意味をすぐに理解できなかった。
だが、それほどまでにリッド様のことを認めたくないのか?
と思った時に自分の中でまだ母上に期待しているのだと気付いた。
母上に「リッド様との婚姻が進むといいですね」と言ってしかったのだ。
それが葉うことはないのだろう。
リッド様と本當に婚姻できるかはまだわからない。
それでも、好きになった人を貶されるのは許せなかった。
私は深呼吸をしてから言った。
「……わかりました。エルティア様。私もあなたに金際、関わらないように致します」
「……それで良いのです。もう話は終わりです。出ていきなさい。ファラ王」
「はい。失禮いたします」
私は、エルティア様に一禮をして部屋を出て行った。
そして、外で待っていたアスナに抱き著いて大聲で泣いた。
悲しかった。
とても悲しかった。
その後の事は覚えていない。
◇
次の日の朝、起きると顔が酷いことになっていた。
そして、起きると心配そうな顔をしたアスナがおずおずと話しかけてきた。
「姫様、ご気分は大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。アスナ」
私は心ここにあらずと言った様子で返事をした。
だが、アスナが言った次の言葉ですぐに正気を取り戻すことになった。
「ライナー様から連絡がありました。リッド様が起きられたそうで、訪問の連絡が來ておりますが、お斷りいたしますか?」
「へ⁉ 訪問⁉」
そうだ昨日、確かライナー様がそんなことを言っていたことを思い出した。
そして、自分の狀態を確かめると、アスナに言った。
「い、急いでだしなみを整えて準備します‼ アスナ手伝って下さい‼」
「承知致しました」
し元気をとり戻した様子のファラにアスナはし微笑んでいた。
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