《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》薬草

「心當たりがあるのですか⁉」

「……ちゃんと話してやるから、落ち著け」

僕はニキークの「心當たりがある」という言葉に目を見開いて、彼に近づいて質問をしていた。

そんな僕を橫目に調合していた作りかけの薬をニキークは片付け始めた。

片付けが終わると彼は立ち上がり、店の出口付近にある乾燥した薬草を一つ取って來た。

そして、おもむろに薬草を僕達に見せると言った。

「これがその、心當たりのある薬草だ。わしは魔の森でしか見たことがない。だからこの國ではレナルーテ草って呼んでいるけどな」

「……レナルーテ草」

ニキークが持ってきた薬草を僕は興味深く見つめた。

乾燥しているから、原型はわからない。

でも、これならバルディア領に持って帰って試すことが出來る。

でも、何故これだとニキークは思ったのだろうか?

僕はじた疑問を質問した。

「失禮ですが、ニキークさんは何故これだと思ったのでしょうか? 疑っているわけではありません。ただ、心當たりということだったので何かしらの拠があると思うのです。今後の為にお聞かせ願えないでしょうか? お願い致します」

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僕の言葉を聞いたニキークは睨み付けるように僕を見てから言った。

「……嬢ちゃん、おめぇはなんで魔力枯渇癥の特効薬に拘るんだ? 隠し事は無だ、お前の正を含めて全部話せ。そうすれば、わしも知っていることを全部話そう」

ニキークは目を細め、怪訝な表をしながら返事をしてきた。

僕は深呼吸をしてから、母上の病気のこと、自分の正など話せることは全部話した。

話を聞き終えたニキークはため息を吐いてから、クリスを見ながら言った。

「はぁ……クリス、おめぇの後ろ盾は大した玉だな。まさか、母ちゃんを救うためにここまでするとは大した奴だぜ」

「……そうですね。でも私もリッド様のお母様が魔力枯渇癥とは存じませんでした」

「お恥ずかしながら、私も存じ上げませんでした」

ディアナとクリスは二人とも僕の口から母上の事を聞いて、驚いた様子だった。

皆に僕は「ここだけの話にしてほしい」と伝えた。

ニキークは僕を繁々と見ると呆れたように言った。

「しかし、嬢ちゃんじゃなくて坊ちゃんだったのか。世の中、面白れぇな」

「う……そのこともここだけのにしておいてしいです」

彼は僕の言葉に苦笑してから、表を真顔に変えて僕を見據えた。

「おめぇさんの事はわかった。わしもこの薬草、いやレナルーテと魔力枯渇癥について知っていることを話そう」

ニキークの話はとても興味深いものだった。

彼はダークエルフでも高齢にる。

長い期間、薬師としてレナルーテにいた彼は他國で時折話を聞く死病。

魔力枯渇癥の発癥がレナルーテでは、ほとんどないことにある時ふと気が付いた。

その後、興味本位で知り合いからも報を集め、個人的に調べてみたらしい。

結果、なからずともレナルーテ國においては魔力枯渇癥の発癥がほぼ無いことがわかった。

その時點では「ダークエルフ」が魔力枯渇癥にかからないのか、レナルーテに特有の何かがあるのかの判斷が付かなかった。

だが、それは思いもよらぬことから判明することになる。

他國に拐もしくは、國外に出て行ったダークエルフ達の間でごく一部だが魔力枯渇癥を発癥して亡くなった者達がいることを知った。

そのことを知った時に、「ダークエルフだから掛からない」という考えは無くなった。

ニキークは「レナルーテにしか存在しない、かつ日常的に人々に影響を與える」を地道に調べることにした。

時間のかかる調査だったがダークエルフの壽命のおかげもあり候補を絞り上げることができた。

彼が調べた結果の最有力候補として殘ったのが「レナルーテ草」だったのだという。

「レナルーテ草」は魔の森で取れる多年草の山菜で、ほぼ毎日に近い覚でダークエルフ達は食べて摂取しているという。

さらに昔からこの國の言葉で「魔の森の山菜あれば、醫者要らず」という諺もあった。

恐らく、先人達は魔力枯渇癥がレナルーテ草により予防できる事になんとなく気付いていたのだろう。

そこまで説明をしてからニキークは言った。

「……確証はない。だが、魔力枯渇癥がこの國で発生していないことに加えて、食文化や言い伝えなどの様々な報を総合すれば恐らく間違いはないとわしは思っとる」

「……すごいです。良くここまでお一人で調べられましたね」

僕は彼が見せてくれた資料や説明してくれた知識に驚愕していた。

クリスもここまでニキークが詳しいとは思っていなかったようで驚きの表をしている。

彼は僕達の表を見ると釘をさすように言った。

「……だがな、わかっているのはここまでだ。魔力枯渇癥に対して本當にレナルーテ草が効くかはわからん。何せ、この國では発癥している者がおらんからな。治療に使えるかどうかはおめぇさん達で試してみな」

「……わかりました。大切な報をありがとうございます」

僕はお禮を言いながら頭を下げた、僕を追うようにディアナとクリスも頭を下げていた。

そんな僕達の様子を見ていたニキークは低い聲で言った。

「頭は下げなくて良い。だが、二つおめぇに約束してしい」

「僕に出來る事でしたら」

彼は返事を聞くと僕の目を鋭く見據えておもむろに言った。

「一つは、おめぇの母ちゃんが治せたら教えろ。一つは、治療法がわかったらちゃんと誰でも治せるように報を開示しろ。この二つを約束出來るなら、わしも可能な限り力を貸す」

「……わかりました。お約束致します」

ニキークの目と言葉にはまるで魔力枯渇癥を仇とでも思っているような、そんな印象を僕はけた。

そもそも、彼が國で発生していないことに気付くことになったきっかけはなんだったのだろうか?

そう思った時、ニキークは「あ⁉」と聲を出して、額に手を當てると俯いて言った。

「……しまった。一つ、問題があったのを忘れとった」

「どうしたのですか?」

僕がその様子に怪訝な顔をして尋ねると、彼は困ったように言った。

「この辺を仕切っている、マレインっていうくそ野郎がいるのだがな。わしがそいつに、睨まれていてあまりけんのだ。さっきは力を貸すと言ったのにすまん……」

ニキークは非常に悔しそうな表をしていた。

だが、マレインという名前を聞いて僕達はクスクスと失笑してしまった。

彼はその様子に呆気に取られたが、すぐ顔を赤くして怒鳴り聲を上げた。

「おめぇら、マレインを甘く見るんじゃねぇ‼ やつは國の中樞にも繋がりがあって、あくどい手を使ってもお縄にならねぇんだ‼ あいつの手にかかって悲慘な目にあったやつぁ多いのだぞ‼」

そうか、マレインはやはりエレン達以外にも酷い事をしていたようだ。

ニキークは必死の形相をしている。

そんな彼に、僕は咳払いをしてから言った。

「ゴホン……その點に関しては問題ありません。マレイン自とその繋がりがあったであろう者は昨日今日で失腳しています。恐らく今後はその影響もないと思いますよ」

「は……? 坊ちゃん、何を言っているんだ?」

ニキークは僕の言葉に目を丸くして理解が追い付いていないようだ。

それを、補足するようにクリスが彼に説明を始めた。

マレインやノリスが失腳した事実を聞くとニキークは信じられない様子で、何度もクリスや僕に聞き返してきた。

そして、事実なのだと納得すると、大聲で笑いだしてから言った。

「ワハハ‼ マレインのやつ、ざまぁねえな。坊ちゃん、あんたは最高だな‼」

「……坊ちゃんはやめてくださいよ」

僕の返事にニキークはさらに笑い出して、それからしばらく彼の笑い聲がお店の中に響いていた。

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