《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》新たな役目

「ディアナ、お前にやってもらいたいことは『カペラ』の監視とリッドの『お目付け役』だ」

父上の言葉を聞いた僕達は、お互いの顔を見合わせて呆気に取られていた。

その中で、まず口を開いたのはディアナだった。

「……カペラという者は先程部屋から出て行った者でしょうか? それはなんとなくわかりますが、リッド様のお目付け役とはどういうことでしょうか?」

「……それは僕も聞きたいです。父上」

その後、父上は詳しい説明をしてくれた。

まず、ディアナにカペラの事を伝える意味も含めてザックと父上の関係とやりとりを教えてくれた。

まずは「ザック」というより「リバートン家」がレナルーテにおける諜報機関のトップに君臨している華族。

その現在の當主は「ザック・リバートン」つまり、彼がトップだということだ。

父上は彼らとは一部協力関係ではあるが、すべての報を共有しているわけではない。

お互いに利害が一致した時に手を取り合う仲らしい。

ディアナには伏せているが、実際は約による上下関係が存在している。

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立場としては「バルディア」が上なのだろうが、気を付けなければ寢首を掻かれかねない相手ということだろう。

父上はし険しい顔をしながら言った。

「殘念ながら、バルディア家には國が持っているような諜報機関は無い。レナルーテが本気になれば、報戦や暗殺などでは勝てないだろうな……」

「……それほどまでの組織なのですか? 恐れながら、バルディア騎士団は戦闘以外にも學ぶことは多くあります。帝國でも報戦は強い部類だと認識しておりますが、それでも全く敵わないのでしょうか?」

ディアナの返事はバルディア騎士団としての自負から出ただろう。

父上はその言葉にゆっくりと首を橫に振った。

「殘念ながら勝つのは無理だろう。ダークエルフは「闇の屬素質」を種族的に多く持っている。その屬魔法を活かして闇に溶け込みながらの諜報活。対象の影に潛む魔法などによる報収集。他にも獨自の魔法も使うと聞いている」

ディアナはし悔しそうな顔で話を聞いている。

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僕は闇魔法にそんな使い道があるとは知らずに驚いていた。

ゲームの世界では攻撃魔法のイメージしか無かった。

だが現実の世界となると、発想によって様々な使い道があるということだろう。

僕達の顔を見ながら父上は話を続けた。

「戦闘力に関しても、のない平野での戦いなら我らが勝てるだろう。だが、ダークエルフが得意とする森林やの多い場所で戦えば知らずに全滅というのもあり得る。それほど、彼ら個人の戦闘力は油斷ならんのだ」

「……それほどの実力者が多數いるのであれば、何故バルスト事変でダークエルフは勝てなかったのですか?」

父上の話を聞いていた僕は、気が付くと疑問を質問していた。

ダークエルフがそれだけの戦闘力や諜報能力があるのであれば、バルストに勝つことも出來たのではないだろうか?

僕の質問に父上はおもむろに答えた。

「……それはダークエルフの出生率が大きく関係している」

「出生率ですか?」

思わぬ言葉が出てきた。

戦爭に何故、出生率の問題が出てくるのだろうか?

疑問に答えるように父上は説明を再開してくれた。

「彼らは諜報戦や暗殺などで相手を圧倒することは出來るが、正面同士の野戦で大勢の死傷者を出す戦い方はできない。何故なら、人口を取り戻すのが人族より時間のかかるダークエルフがそんなことをすれば、その時は勝てても次の戦爭では負けるだろうからな」

「つまり、減った人口と戦力を取り戻すことが出來ない。というわけですか?」

父上は僕の言葉に頷くと説明を続けた。

「そうだ。今のダークエルフが國として繁栄出來ているのは、立地的に他國からの侵略がない上に、人口が大きく減るような戦爭をしなかったからだ。もし、レナルーテが他國に攻め込むような大きな戦爭を何度もすれば、ダークエルフは種族として滅亡していたかもしれんな」

なるほど。

人族ではあまり考えられない理由だ。

出生率が低いということはそれだけ人口が増えないことに直結する。

大量の死傷者を出す戦爭をしてしまえば、その減った人口を取り戻すのにダークエルフはどれぐらいの年數が必要になるのだろうか?

その點を冷靜に考えれば攻め込むような戦いは出來ない。

相手を圧倒して、犠牲者がなく済む戦いでない限りダークエルフは戦爭を出來ないということだ。

そこで僕は思い出した。

「……だからバルストは戦爭時、レナルーテに攻め込まなかったのですね?」

「その通りだ。ダークエルフの諜報能力や戦闘力が優れていても、バルストが攻めてこなければその能力を発揮できない。攻め込もうとすればバルストはいくらでも替えが効く、奴隷を出してくるわけだ。それに、暗殺も予めわかっていれば対策もできる。レナルーテにとって、バルストは相の悪い相手だったというわけだ」

父上の説明を聞いて、僕は改めて凄い世界にいるとじた。

前世の記憶で何となく戦爭を知っている気がしていた。

だが、実際にこの世界で起きた戦爭の狀況を聞くと恐ろしいものがある。

バルストは攻め込まなかった。

ダークエルフの種族的な問題點を理解していたということだ。

つまり、バルストは戦爭になっても勝てると算段を付けてダークエルフの拉致を繰り返したのだろう。

実際、戦爭になればバルストは塩を止めた。

こうなると、レナルーテが攻めて來るのをバルストが狡猾に待っていた構図が見えてくる。

拉致も実際にはバルストの挑発一つだったのかも知れない。

僕は思案してから呟いた。

「……國同士の爭いとは恐ろしいものですね」

僕の言葉を聞いた父上は、咳払いをして話題を変えた。

「ゴホン……話が逸れたな。私が言いたかったのはダークエルフの諜報員はそれだけ優れた存在というわけだ。それも、諜報機関のトップであるザック殿が認める部下だ。意味や意図もなくリッドの従者になるわけがない」

「……それを私が監視すれば良いのですね?」

ディアナが父上の言葉に靜かに返事をした。

の言葉に父上は頷きながら話を続けた。

「その通りだ。カペラだったか。彼を監視して怪しいことがあればすぐに私とリッドに報告しろ。幸い、リッドが私の前で従者としての誓いを立てさせたおかげで、私にも処分できる口実ができたからな」

父上は僕を見ると、ニヤリと笑みを浮かべていた。

僕はその笑みに「アハハ……」と乾いた笑いで返事をしていた。

その様子を橫で見ていたディアナは父上に頷きながら力強く言った。

「ダークエルフの諜報員。カペラの監視はしかと心得ました」

「騎士よりも大変な勤めになるだろうが、よろしく頼む」

の力強い返事に、父上は信用した様子で返事をしていた。

僕は二人のやりとりが終わったのを確認してから、怪訝な表をしながら質問した。

「……父上、ディアナが僕のお目付け役というのはどういうことでしょうか?」

「うむ。その件だが……」

話題は僕の「お目付け役」に移っていく。

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