王宮は確かにバタついている。

まだまだ事後処理は山積みなのだろう。

久々にやってきた王宮のレイナルドの管轄下における王庭でレイナルドを待ちながら、ファビアは遠くに聞こえる王宮で働く人たちの忙しそうなかすかに響く聲を聞きながら思った。

なにせ、秋の舞踏會が延期されたくらいだ。

それほど王宮中、いや、ガーディアンの貴族たちみながショックを隠し切れずにいる。

王妃が國王の命を狙っていたことが明らかになったのだから…。

最初はことを表ざたにはすまいとレイナルドは思ったらしいが、國王が異議を唱えた。

きちんと王妃を糾弾すべきだと。

國王と王妃のもかなり深かったのだろう。

こうして、王妃の悪事が明るみへ出された。

國王の食事へデーゼを盛り続けていたことについては、フロレンティーナ王の護衛騎士とあるひとりの給仕がすべて自白したことから、王妃の罪は確定となったようだ。

王妃の計畫としてはやはり思っていた通り、レイナルドを廃してフロレンティーナ王に王ときて君臨させようということだったらしい。

まずは目の上のたんこぶである王を亡き者とし、後ろ盾を失ったレイナルドを滅し、その後に自分の実家である純信仰のバリトン公爵家を後ろ盾にフロレンティーナ王を王とする計畫だったようだ。

裁判は先日行われ、王妃の処刑が確定した。

今、王宮の北に位置し、日當たりの悪い場所に位置するライラックの塔に幽閉されておられる。

かつてファビアが幽閉されていた場所だ。

実家のバリトン家も斷絶となる。

フロレンティーナ王はどうなるのだろう？

前世では、今年の秋の大舞踏會でデビューし、そのあとすぐにミルアー帝國の第六皇子へ嫁いだ。國王陛下が自分の死期を悟り、レイナルドの地位を守るために最後に力を振り絞ってフロレンティーナ王の王位継承権を奪った形にしたのだけれど…。

「ファビア嬢。」

枯れ葉とともに秋の風邪がサーっと吹いて、レイナルドのサラサラの銀糸の髪がふわりとなびく。

キラキラ太のに輝くその髪とそのさわやかな笑顔をファビアはしいと思った。

かつてした人。

とても好きだった人。

「レイナルド殿下。この度はお招きいただき…。」

「いいよ。堅苦しいのは。し寒いね。暖かいお茶を早く用意させよう。」

香りのよいお茶を飲みながら、ファビアはやっぱりレイナルドはしいと思った。

「すっかり首の傷も見えなくなったね。よかった。」

傷自が淺いことはわかっていたが、跡が殘ると大変だとみんなして散々心配されたが、今では綺麗で跡形もない。

「王妃の処刑が1週間後に決まったよ。」

「そう…ですか。」

素早い。

「舞踏會が2週間後にあるからね。それまでにきれいにしておきたいと陛下が決斷された。」

「フロレンティーナ王殿下はどうなられるのですか？」

「彼は何も知らなかったとはいえ、追放は免れないだろうね。おそらく修道院送りになるだろう。」

修道院。そこは一度るとなかなか出てこれない場所だ。

罪を犯した貴族がよく修道院送りになるが、還俗できないよう、その者たちには修道の中でも一番上位の位を授けられる。二度と還俗できない高位の修道。

その者にとっての墓場みたいなものだ。

「何ともいえませんわね。」

王妃も王もファビアを見れば必ず卑下の視線を向けて來た。

純信仰でしでも平民のが混ざっているものが王宮にいること自が許せなかったのだ。

レイナルドにも平民のがまざっていることを王妃が知っていたかどうかはわからないが、レイナルドに対しても同じような視線を向けていたことは確かで、レイナルドもあの視線を常にじていたのだから、2人にいいを抱いているわけはない。たとえが半分つながっているきょうだいとは言えど。

「そうだね。貴族も今揺れている。」

純信仰の基盤となっていた王妃が失墜し、王妃の実家であるバリトン公爵家も斷絶。

純信仰はこれから生きていきにくくなるはずだ。

おそらくレイナルドが王宮の閣僚も徐々にれ替えていくだろう。

「陛下や殿下のこれからの気苦労を思うと…とてもおが心配ですけれど…。」

ここから數年はかなり大変だろう。

けれど、ここが踏ん張りどころだし、レイナルドならうまくやるだろう。

「心配かい？」

「ええ。これから數年は王宮を一新されるのでしょう？とてもパワーのいることですわ。」

「そうだね。あのね。ファビア嬢。」

「はい。」

レイナルドがまっすぐにファビアを見つめている。

そのしく澄んだ菫の瞳にドキリとする。

「ずっとキミに手紙を送っていただろう。」

「はい。」

レイナルドから何十通も送られてきた手紙はすべて、を気遣うものだった。

「キミは僕の手をとってくれないだろうか？」

「え？」

「キミを初めて見たときからずっと…キミに憧れていた。」

「わたくしに…ですか？」

レイナルドは真剣な目をしている。ウソじゃないみたいに…。

「王宮にって、僕を支えてくれないかな。」

「え？」

それってどういう？

王太子妃になれと…言ってるの？

「照れ臭いけど、ちゃんというよ。」

レイナルドがファビアの手をとった。

「僕はキミが好きだ。だから僕と結婚してしい。」

え？

ちょ、ちょっと待って！

「いや、あの…。」

「すぐに返事くれなくてもいいんだ。僕はキミの意見を尊重したい。きちんとキミに好かれないと意味がないとわかってるから。だから、キミが正直に選んでくれたらいい。しでもいい。考えてくれないかな。」

「おそれながら、」

「他にふさわしい人がっていうのはなしだよ。僕はキミがふさわしいと思ってる。けど、それはキミの気持ち次第だ。キミが嫌なら無理強いはできない。だから舞踏會までに答えを聞かせて。OKだというなら僕にエスコートの役目をほしい。」

舞踏會までに…？

「はい……。かしこまりました。」

ファビアはそういうことしかできなかった。

なんてこと…。

わたしを王太子妃に…なんて。

何を…。