《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》17話 青白い何かの噂
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「ハロー。ハロー。久しぶり(、、、、)じゃん」
ロヴレンさんから魔法學園の話をされてから────十數日後。
あれから話は纏まり、ディアナ王國へと向かう事になった私達は、妙に手際の良いロヴレンさんの取り計らいあって、魔法學園のあるディアナ王國へと辿り著いていた。
本來ならば先の一件を踏まえて厳重な警護を────という事だったのだが、真っ先にヴァンが拒絶した事。
その理由に、狙って下さいと言わんばかりに目立ってまで護衛をつける意味はあるのか。
だったら、ハクを含めた三人で靜かに向かった方が余程いいだろう。
その指摘が決定打となり、最低限の者だけ付けて貰って向かう私達だったのだが、ディアナ王國に辿り著くや否や、一人の青年と出會った。
制服────と言うにはしばかり浮いたデザインにを包む紫髪の青年。
頭には見慣れないゴーグルがつけられており、何となく、メカニックのような雰囲気があった。
ただ、開口一番に「久しぶり」と口にした目の前の青年を私は知らない。
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間違いなく初対面であった。
ならば導き出される答えは一つ。
目の前の彼は、ヴァンの、
「まっさか、お前が學園に戻ってくるとは思わなかったよ、ヴァン。とはいえ、父上から事は既に方聞き及んでる。そんな訳で、今回の一件にゃ、おれも力を貸してやるって話よ。まぁなに、大船に乗ったつもりでいてくれや。なにせ、おれは魔法學園始まって以來の────」
そう思って傍にいたヴァンの様子を伺うと、僅かな慨にすら耽った様子はなく、鼻高々にぺらぺら語る目の前の青年に対して、の変化は微塵も見けられない。
どころか、明らかに知らんぷりをしていた。
「ディアナは広い。おで、んな奴がいる。変な奴に絡まれる前に學園に急ごう、ノア」
「え? あ、うん。え、と、その、」
向こうはヴァンの事を知ってるようだったけど……というか、ばっちり名前を呼んでた気がする。
なのに、こんなにも堂々と無視をしてしまっていいのだろうか。
いやでも、私にとっての実家のようにあまりれられたくない事なのかもしれない。
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だったらここは、私もヴァンに合わせるべきであって。
……でも聲音は結構、ヴァンに対して好意的な気がするんだけど、本當に大丈夫なのだろうか。
「って、ちょ待ておぉいッ!? なぁに二人しておれを素通りしようとしてんのッ!? つぅか、二人とも事前に聞いてんだろ!? 父上がお前らに案を寄越すって話!!」
「あ」
やけくそに言い放たれる彼の言葉をそこまで聞いて漸く、思い出した。
者に扮した人員を除いて、護衛をつけない事を押し通した代わりに、そういえばロヴレンさんから條件を出されてたんだった。
たし、か、
─────……わ、分かりました。ですが一人だけ、案の人間を用意させて下さい。學園の中は安全ではありますが、ディアナが安全とは限りませんから。
護衛は必要ないと論理的に否定したヴァンに、辛うじてロヴレンさんが納得させていた過去の會話が不意に思い起こされる。
そう言えば、目の前の青年からは何処となくロヴレンさんの面影をじられる。
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ヴァンが分かるだろうからと特別、特徴等の説明はされなかったが、恐らく彼が。
私の思考がそこまで追いついたところで、知らぬ存ぜぬはもう通せないと諦めたのだろう。
態とらしい溜息をらしながら、ヴァンが立ち止まり、言葉を口にする。
「……こいつの名前は、リキ・マグノリア。マグノリアの次期當主にして、魔導に倒錯した変人メカニック。そんでもって、俺の顔見知、いや、違うな。こいつは……そう、親父殿の友人の息子Aだ」
「てめえ、今一瞬言い掛けた顔見知りより悪化させてんじゃねえよ!?」
なんというか、新鮮だった。
一方的にリキさんがヴァンに絡んでいるように見えるし、現実そうなんだろうけれどヴァンとリキさんの関係値はとても近いように思える。
限りなく、私とハクの間柄に近いような。
『隨分と嬉しそうだね』
「……そうかな?」
『うん。凄く』
どうにも、ハクにモロバレしてしまう程度には顔に出てしまっていたらしい。
このは……うん。自覚してる。
これは、私の他にもヴァンの良さを分かる人がいた事に対する嬉しさのだ。
微笑ましく思う────なんて事が言える立場でない事は、ろくに友達のいない私だからこそ理解してるけど、自分のには噓をつけない。
とはいっても、理由もなしに誰かを邪険に扱う事のないヴァンがあからさまに、あんな態度を見せている事には多なり引っ掛かりを覚えた。
「……だが、お前の親父殿はとち狂いでもしたか?」
「どうしてだよ」
「一応、護衛と聞いていたんだが、お前は明らかに護衛向きの人間じゃないだろう」
────ロヴレン・マグノリアであるならばまだしも。
半眼で見詰めながら、ヴァンはそう言葉を付け加えた。
「ああ、そうだな。お前の知るおれのままだったなら、その想が尤もだ。だが、お前が長してるように、おれもまた長してる。そういう訳さ。とはいえ、おれがこうして迎えに出向いた理由はそれだけじゃないんだがな」
「それだけじゃない?」
そこで、初めてリキさんの視線がヴァンから外れて私に向いた。
「ああ、そうだ。助ける方法────というより、何かしらの手掛かりを求めてるんだろ?」
「……?」
どういう、事だろうか。
「あんたの、姉についてだよ。ノア・アイルノーツ」
指摘をけて、ハッとする。
私の表が、文字通り凍りついた。
……どうして、その事を知ってるのだろうか。
ヴァンは勿論、ロヴレンさん達にすらその事は打ち明けていないというのに。
「ある程度は手紙で既に聞いてる。ダークエルフによって、られていた。そして良いように利用をされて────今は、意識を失ったまま目覚めていない、と」
……私達がすぐにエスターク公爵領を発ち、ディアナ王國へ使わなかった理由が、今リキさんが口にした言葉に凝されている。
私の姉であるアリス・アイルノーツは、あの一件以來、意識を失っていた。
ハク曰く、後癥に近いと言われたのだが、あの得の知れない香爐を長時間保持した事、至近距離で吸ってしまった事。
それらが影響しているのでは、との事だった。
ハクも詳しくは分からないらしい。
だから、お手上げ。
故に、どうにかする手掛かりとなるものは恐らく魔法學園にある〝大図書館〟にしかないだろうという結論に至っていた。
でも、助けると言ったらヴァン達から反対されると分かっていたから黙っていたというのに。
「だから、それも含めて〝大図書館〟に用がある事は聞いていたんだが、生憎今は、表向き(、、、)は閉鎖中なんだよ」
「……閉鎖してるんですか?」
「慌てるな慌てるな。聞こえなかったか? おれは表向き(、、、)って言ったろ」
リキさんは、ポケットからじゃらりと鍵のようなものをこれ見よがしに取り出す。
……積極的にお姉様を助けたいと思うほど、私も出來た人間じゃないし、お人好しでもない。
だけど、今回の一件はそもそも私がいなければ起こり得なかったのではないのか。
その小さな可能があると知っているから、お姉様の自業自得だからと放っておこうと上手く割り切れなかった。
だから、魔法學園に赴いた理由の一つに、お姉様の事も関係していた。
ピンポイントで暴された事に対して、知らぬ存ぜぬを通そうかと考える私だったが、ヴァンは気にした様子もなく口を開いた。
「……る程。お前が迎えの人員としてやって來た理由は、〝大図書館〟の鍵を持っているからか。まあ、無斷に複製したものだろうが」
「あ、分かっちゃう?」
「〝大図書館〟の鍵を、一生徒が自由に持ち歩ける訳がないだろうが」
悪戯がバレた子供のように、悪びれもせずリキさんは笑っていたが、その最中に珍しくハクが嘆の聲をらしていた。
『……すごいね、彼。なくとも、あの鍵は簡単に複製出來るような構造をしてないように僕には見えるんだけど』
「そう、なの? 私にはありきたりな鍵にしか見えないんだけど」
『なくとも、僕が見る限り魔法的な仕掛けが三つは施されてる。かなり繊細で、複製なんてものはもっての他だと思う。あれがオリジナルじゃない事に僕としては違和しかないよ』
コピー品と言われても未だに信じられないとハクが言う。
「そりゃそうでしょ(、、、、、、、、)。なんといっても、このおれが作ったんだから。魔導の一族、マグノリアの人間を侮ってっと痛い目みるぜ?」
そして、その呟きに対して、當たり前のようにリキさんは返事をした。
「特にだな。おれの場合は微細に散らばった魔粒子の組み替えが専門であって────」
……し驚いたけれど、そうだった。
ロヴレンさんだって、ハクの存在に気づけていたのだ。
だったら、同じマグノリアの人間であるリキさんが気付けない道理はない。
「────つまり、複製といった魔法及び、魔導の投影については寧ろ、父上をおれは既に超えてるとも言える。なにせ、あの〝ビハド〟と呼ばれる魔導をつくり出したのは他でもないおれで────特にあれの魔対値150を生み出すのにおれがどれだけ極要素を────」
……ただ、ヴァンが倒錯しているというだけあってしだけズレている気はする。
訳のわからない単語が飛びっているせいで、全く以て理解不能だが、私達が理解しているしていないに拘らずリキさんはまだまだ話を止めようとはしていなくて。
呆れたヴァンが、強引に會話を遮った。
「……そんなことより、閉鎖中ってのはどういう事だ。あまり長くは通っていなかったが、なくとも俺がいる時は〝大図書館〟が閉鎖される、なんて話は聞いた事がなかったんだが」
「……ごほん。そりゃ、お前がいた頃は何もなかったからな。閉鎖の理由は単純にして明快だ。面倒事が起きやがったんだよ」
「面倒事、ですか」
「ああ。それはもうとんでもねえ面倒事でな。常に厳重な警備制が敷かれていた〝大図書館〟が閉鎖される程の面倒事だ」
「で、その面倒事っていうのは」
「それはだなぁ……アレがな、出たんだよ」
「……アレ?」
何処か彼方へ視線をやりながら、リキさんは言う。まるでそれは、その現実を直視したくないと言っているようでもあった。
「〝大図書館〟の中で、複數の生徒が言ったんだ。『青白っぽい何かを見た』ってな。そして、その日を境に、一部の生徒が気を失った狀態で発見される事も」
怪談でも語るかのように、それっぽい雰囲気をつくりながらリキさんは言う。
「人がいなくなり、靜まり返った學園の中で、アレはよく見掛けられるらしい。実際、見たって生徒はもう數十人にものぼるんだぜ」
「……ぁ、アレってもしかして」
あまりその手の話が得意でない私だから、すぐに答えに辿り著いた。
というより、靜まり返った場所で、白っぽい何かで、あからさまに作り出されたこの空気。それがもう答えを言っているようなものではないか。
「そう。そのもしかして、だ。そして、目撃したが最後。そいつは目撃者に取り憑いて、生気を吸いやがるんだ。丁度、こんな風に幽霊がな────!!」
「わぁぁぁぁぁあ!?!?」
「……ってのは噓なんだが」
脅かすように、「うらめしや」のポーズで突然、リキさんが聲を上げながら迫ってくるものだから反的に驚いてしまう。
……こ、この人最低だ……。
「……歯ぁ食いしばれリキ」
「ちょ、まて。おいヴァン。お前何、魔法をおれにぶっ放そうとしてんの!? それ灑落になんねえから!! 歯を食いしばってもしばらなくても冗談抜きでおれ死ぬから!! 悪い!! 悪かった!! だからそれはやめろ!?」
タチの悪い所業を前に、ヴァンがリキさんを懲らしめようとしていたが、流石にそれは拙いと理解してか、リキさんの謝罪を聞いてから収めていた。
「……ぜぇ、はぁ、ぜえ。危うく死ぬところだった……。ま、まあ、さっきのはおれが悪かった。でも、噓とはいったが実際のところ、『絶対』に噓とは言えねえんだこれが」
「そう、なんですか?」
私の中でのリキさんの信用はほぼゼロ。
底辺を這っている狀態だ。
半眼で、本當かよと言わんばかりに訝しむ私だったが、今回は本當の事らしい。
「『青白っぽい』何かを見たってのは本當の事だし、意識を失った生徒がいるのも本當だ。そんでもって、最近じゃ失蹤した生徒もいる」
だから、閉鎖されているのだと締めくくるリキさんの言葉に、私達は閉口した。
「正直なところ、それだけ(、、、、)なら何も問題はなかった」
「まるで問題があるような言い草だな」
「ああ、ある。特大の弾があるぜ。それがなけりゃ、父上からの手紙にこうして頭を悩ませる必要は何もなかったってのに。だが現実、厄介な事になっててな。問題なのは、その失蹤者の中に、レオン・アルバレスがいる事だ」
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