《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》19話 帝國の思と放王子

◆◇◆◇◆◇

「────それで」

ところ変わって、エスターク公爵領。

公爵邸にて。

冷たい石造りの地下室。

一切の差し込まないその場所に、人影が三つ存在していた。

一つは、鉄鎖でけないようにと固定された〝闇夜の住人(ダークエルフ)〟と呼ばれる年。

もう二つは、公爵邸の所有者であるカルロス・エスターク。

そしてその友であるロヴレン・マグノリアであった。

「どうして、ダークエルフが帝國に手を貸しているのか。洗いざらい吐いて貰おうか」

王國騎士団副団長であるリディア・シサックが滯在していた関係で、カルロスは目の前のダークエルフから報を引き出す事が出來なかった。

他でもない、彼の存在を匿する為に。

漸く、リディアを含めた騎士団連中がエスターク公爵領を後にした事で、こうして牢に閉じ込めていた彼から話を聞く事が出來ていた。

『……話すとでも?』

挑発的な瞳は、仮に拷問を行ったところで何も話す気はないのだと言葉以上に告げていた。

「別に、事細かに話して貰えるなんて楽観視はしてねえよ。だが、これで確信出來た。なくともお前達は、帝國に首を付けられてる訳じゃねえ。ヴァンの言う通り、差し出された対価に応じているだけなんだろうさ」

──── とある人間から対価を差し出され、その対価に見合った見返りを此方も渡した。これはただ、それだけの話。

それは、ダークエルフの年がヴァンに向けて告げていた言葉。

半信半疑であったが、これでその言葉が真実であるのだと確信した。

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「そして、その対価として提示されたものは恐らく」

躊躇いなく「自」という選択肢を選んでいた事もあり、カルロスにはこの確認が必要であったのだ。

あの自は、帝國への義理立てのようなものなのか。はたまた、別の理由があってのものなのかを。

絞り込めてしまえば後は簡単だ。

外界との関わりを閉ざしていたダークエルフが、あえて手を取る理由。

普通に考えれば、そんな事はあり得ないと言えるだけあって選択肢は容易に絞り込める。

尤も、數百年という単位で引き篭もっていたダークエルフに関する知識を持ち得た〝変人〟という前提が必要となるのだが。

ダークエルフが手を貸しそうな條件。

きっとそれは、

「────〝聖〟、じゃありませんか」

ロヴレンさんの聲が朗々と響き渡る。

同時、目の錯覚と疑う程の一瞬だが、ぴくりとダークエルフの年の耳がいた。

やがて、その揺は隠し切れないものとなる。

冷えた石床に落とされていたダークエルフの視線が持ち上がる。その瞳は、何故それを知っているのだと信じられない様子だった。

「うちの王子様は、放者で有名で、王位継承の政爭から真っ先にを引いた人間だ。しかも、理由は『面倒臭いから』ってことで」

面白おかしそうに笑いながらロヴレンは言う。

普通のを持ち得ていたならば、間違ってもそんな答えに辿り著きはしない。

一國の王になれるかもしれない可能を、當たり前のようにドブに捨てる人間の神経を誰もが疑う事だろう。

そして、そんな事をしでかすラバン・ノーレッドは、世間から見れば泥舟でしかない事だろう。

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しかし、そんな泥舟にロヴレンは────マグノリア公爵家は肩れをしている。

それは決して、酔狂でも脅されているからでもない。

マグノリアは、ある種の化とも言える程の知識の塊ゆえに、放者と揶揄される事となったラバンの頭脳に惚れ込んだが故に。

そんな彼が、他の誰かの思で殺されてしくなかったから、だから、後ろ盾になると手を挙げた。

何より、魔導の一族である職人のマグノリアと、ラバンの相は面白いくらいに良かった。

「ただ、殿下の本質はそこじゃない。あの方の本質は、恐ろしい程の知識の権化である事。その膨大な知識によって裏打ちされた勘は、決して侮れない。まぁ、本人が晝行燈な態度を貫いてるせいで多方面から勘違いをされていますがね」

だから、〝聖〟と呼ばれる骨董品にいとも容易くロヴレンは辿り著いていた。

〝聖〟とは、數百年近く前に存在した、聖者と呼ばれていた人間の

故に、〝聖〟。

今では経た年月があまりに長過ぎて、認知こそされていないが、世界の何処かに幾つも現存しているらしい。

そして、ダークエルフはその〝聖〟と縁のある種族であった。

「きっと、提示されたのでしょう。手を貸す代わりに、〝聖〟を譲る、などと」

『確かに、そうだよ。でも、ぼくらが手を貸してる理由はそれだけじゃないね』

であるならば、辻褄が合う。

そう、思っていた矢先に否定の言葉が一つ。

やがて、弾けるような哄笑が響いた。

くふふ、と噛み締めるような嘲笑。

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鉄鎖に拘束されながらも、ダークエルフの年は腹を揺する。

『……〝聖〟の存在を知っている事は驚いたし、帝國の人間から実際にそういう條件を提示された。でも、ぼくらは斷った。その程度の條件じゃ、ぼくらはかないよ』

ロヴレンの顔に皺が刻まれる。

その言葉は、こちらを困させる為の噓なのではないか。

一瞬浮かんだ可能

しかし、

なくとも、もっと魅力的な提案じゃなきゃ手を貸してはやれないね』

そこで、ロヴレンとダークエルフの年の會話の聞き手に回っていたカルロスの脳裏に、ある人の言葉が思い浮かぶ。

それは、つい先日まで公爵邸に滯在していた一人の騎士の言葉。

狙ったようなタイミングで帝國軍人の男を回収にやってきたリディア・シサックの発言だった。

────立場上、あまり言えないが、気を付けた方がいい。カルロス・エスターク。

今回の政爭を含めた一件の黒幕の息が掛かっているであろうリディアの言葉故に、カルロスは軽視していた。

特に、騎士である彼は上からの命令に逆らうどころか、不利に働く発言すらも出來ない。

それが、騎士道であるから。

ただ、だから尚更……と思っていた彼に、「立場上」と信用されない事を理解した上でリディアが話し掛けてきた事もあって、この事だけはよく覚えていた。

────今回の一件は、ただの政爭じゃない。下手をすれば國ごと滅ぶ可能があると考えている。だから、信じるか信じないかは貴方次第ではあるが、伝えておきたい事がある。これが直接関係しているかは分からないが、ここ數日の間に、第二王子によって寶庫からが持ち出されている。

城に存在する寶庫へは、基本的に王族しか立ちる事を許されていない。

だから、その特定はすぐに行われた。

だが、何故寶庫からを取り出したのか。

そのとは一何であるのか。

────持ち出されたものは、寶庫の目録に記されていない古びた鍵だったそうだ。

疑問に苛まれるカルロスに、リディアはそう告げた。

萬能な魔導でなく、王家に代々伝わるものでもない。

何故、目録にすら記されていない古びた鍵を持ち出したのか。

そもそも、それは一何であるのか。

不思議と、その話がカルロスにはここに繋がるような気がしたのだ。

────私は昔、同行者として寶庫に立ちったことがある。寶庫にあるまじき古びた鍵であったが故に、記憶に殘っている。そして、あれに刻まれた紋様も。私の記憶が正しければあの鍵は─────。

「……〝大図書館〟」

────ディアナ王國に存在する魔法學園。

そこに位置する〝大図書館〟に刻まれた紋様と同じものだった。

ぽつり。

リディアの発言をなぞりながら口にしたカルロスの言葉に、ダークエルフの年は二度目となる驚愕の表を浮かべた。

「……確か、ダークエルフは『魔』と因縁があった筈だな」

知識の塊であるラバン・ノーレッドについては、カルロスも接點があった。

というのも、中立を保つエスターク公爵家は基本的にどこの派閥にも肩れをしない。

しかし、早々に王位継承権を放棄したラバンに限り、その限りではなかった。

何より、馴染の関係にあるロヴレンに付き纏う変わり者の王子という事もあって、顔を合わせる機會が自然と多くなっていた。

その仮定で、々と付き合わされる事が多かった。たとえば、知識の披などに。

それもあって、カルロスもすぐに辿り著いた。

ダークエルフにとって縁のある二つ目の鍵。

『魔』と呼ばれ怖れられる魔法學園創設者にして、現學園長。

彼らと魔には、淺からぬ因縁があった。

特に、ラバンの話が本當ならば、ダークエルフが外界との関係を斷ち切った────引き篭もらざるを得ない理由をつくり出した存在こそが、『魔』ではなかったか。

「……そして、ディアナ王國とノーレッド王國(うち)は數百年と続く友好國だ。魔法學園をディアナ王國に作った理由も、側にノーレッドがあったから、なんて話も聞く」

ぽつりぽつりと、カルロスは己の知る事実を垂れ流す。

口にすればするほど、何かが繋がってくるような気がしたのだろう。

「ぃや、確か、魔法學園とは本來、別の目的で創設されたものだった……なんて殿下が言っていたな」

そうだ。

得意気にラバンはいつだったか、言っていた。魔法學園を創設した理由の一つに、次世代の魔法師を育てる意味合いは含まれていた。

しかし、本來の目的は異なっている。

魔法學園などという看板を掲げてこそいるが、本來の目的は確か────。

「魔法學園とはそもそも、大きな箱である。殿下はそういって、」

カルロスの発言に割り込んだロヴレンの言葉が、そこで止まる。

當時はその言葉の意味が全く理解出來ていなかった。しかし、ふと思う。

箱とはそもそも、何かを仕舞う為のもの。

という事はつまり、魔法學園を箱に見立てたならば本來の用途は何かを仕舞う為に作ったのではないのか。

では、何を仕舞っているのか。

何を隠しているのか。

答えは単純にして明快だ。

「────……〝聖〟、ですか」

今度は、聲音は乾いていた。

隠すというとこは、相応の理由がある筈だ。

たとえば、手に負えない代であった、など。

だが、〝聖〟とは本來、骨董品な魔導という認識に落ち著けるものだ。

そして、目の前のダークエルフの年は一度は否定した。

けれど、〝聖〟が関係していないとの否定は一度として聞いていない。

つまり、全くの無関係という訳ではない。

しかしならば何故、帝國はノーレッド王國の政爭に絡んでいたのか。

簡単な話だった。

ここで、リディア・シサックの話が繋がる。

〝大図書館〟には『魔』と呼ばれる學園長ですら手に負えない〝聖〟が封じられており、その封を解く鍵が王族にしか立ちれない寶庫に納められていたとすれば────。

數百年と友好國であったノーレッド王家にそれが託されていても、何ら不思議な話ではない。

そして、『魔』と因縁のあるダークエルフは、その〝聖〟を奪取した上で何かしらの事をディアナで起こそうとしているのではないか。

否、「ではないか」じゃなく、「起こそうとしている」のだろう。

思考がここに至った瞬間、カルロスは最早衝的と言っていい程に容赦なく手をばし、ダークエルフのぐらを摑み上げた。

じゃらり、と鉄鎖がれる音が閑散とした牢の中で響く。

「……てめえら、一何をしようとしてる。〝大図書館〟に封じられた〝聖〟を使って何をする気だ。そもそも、あそこには何の〝聖〟がある」

ぐらを摑まれたまま、見た目相応な年らしい笑顔で微笑む。

視線だけで殺してしまうのではと思わせるカルロスの圧に屈する様子もない。

寧ろ、この狀況が面白おかしくて堪らないと言わんばかりの表だった。

『キミ達が考えてる通りだよ。あそこには〝聖〟が眠ってる。それも、『魔』でさえも手に負えないものが。彼らは提示したんだ。ぼくらに、『魔』を始末すると。だからぼくらは応じた。ならば、手を貸してやると』

なくとも厄介極まりない〝聖〟である事は間違いない。

そしてそれは、下手をすれば一國を焦土と化せる威力を有したものである可能もある。

であるならば、王になる可能だけある王子を傀儡にするよりずっと魅力的だろう。

鍵を得る為だけに使い潰してもお釣りが來る。その〝聖〟で國を支配すればいいのだから。

ダークエルフの年がここまで話したという事は、既にどうしようもないところまで來ているのだろう。

エスターク公爵家を襲った理由も、萬が一を考え、カルロスに邪魔をされないようにする為と考えれば辻褄が合う。

「……不幸中の幸いは、ヴァン達を向かわせておいたって事か? いや、ここでは不幸って言うべきか?」

だが、時間稼ぎのようにエスターク公爵家に滯在したリディアの行理由が分からない。

邪魔をする目的であったならば、寶庫の件を口にする理由はない。

王家直屬の騎士団である彼の行は、矛盾を孕んでいる────どちらが本心だ。

そこまで考えたところで、一つの可能が浮上した。

言葉選びに彼が殊更に気を付けていた事がヒントだったのだ。

もし仮に、帝國の人間を招きれた第二王子が何らかの形で人質のようになっているならば。

その場合、リディアは従わざるを得ない。

何より、あの時目にした彼の部下の多くをカルロスは見た事もなかった。

こんな有事の事態において、団員をれ替えるなど正気の沙汰ではない。

ならば。

ならばならばならばならば。

「……ロヴレン。オレ達は今から王都に戻る」

「カルロス?」

話の流れを汲むならば、ここは何が何でも〝大図書館〟のある魔法學園に向かうべきだ。

しかし、王都に戻ると口にするカルロスの考えをロヴレンは理解出來なかった。

「第二王子が危険な狀況にある可能が高い」

如何に與していない派閥の頭だろうと、ロヴレンとカルロスはノーレッドの貴族。

どれだけ愚図であろうと見殺しにするという選択は出來ない。

「……それは分かるけど、でもそれだとヴァン君達が」

「あっちは、まだどうにかなる」

心配である事には変わりはない。

だが、彼らの能力に信を置いている以上に後回しに出來るだけの理由がもう一つあった。

「〝聖〟は、ふざけた力を有しているが、その力を好き勝手に使える訳じゃねえ。殿下はそう言ってた筈だ」

代償なしに大きな力を使える程、この世は甘くない。

特に、強大な〝聖〟になればなるほど、相応の〝何か〟が求められる。

たとえばそれは、膨大な魔力であるだとか。

「……確かに、そういえばそうでしたね」

ならばまだ、時間はあると考えていい。

何より、ヴァン達がいる。

事態を理解すれば時間稼ぎもしてくれる筈だ。

「たく、ただの政爭の筈がどうしてこんなにも面倒臭え事になるかね」

ダークエルフの年のぐらを、苛立ちに任せるように暴に放し、踵を返す。

「無駄だとは思うが、ヴァン達に連絡を取って貰えるか」

ロヴレンの持つ魔導さえあれば、彼の息子であるリキに連絡が取れる筈。

しかし、カルロスの考えとは裏腹に、ロヴレンは首を橫に振る。

「……〝魔法學園〟は『魔』のテリトリーですよ。魔導での通信も、律儀に遮斷されてます」

「……そうだった」

暴に、がりがりと髪を掻きむしる。

どうにかして伝える方法はないか。

そんな事を考えていたカルロス達の下に、急報が屆いた。

それは、地下には誰もれるなと言いつけておいたカルロスの命に背いてまで即座に伝えなければならない容であった。

「────ごっ、當主様ッ」

駆け付けてきた使用人に、視線が集まる。

その手には、封蝋付きの手紙が握られていた。

「先程、こ、これが屆きまして」

その封蝋には見覚えがあった。

第三王子が好んで使う風変わりなもの。

そこでカルロスとロヴレンの頭に嫌な予が過ぎった。

半ばぶんどるようにその手紙をけ取り、暴に中を確認。

するとそこには、簡潔に一行。

場をこれ以上なく掻きす一文が記載されていた。

────ちょいと〝魔法學園〟に行ってくる。

ここで、カルロスに同行しろとロヴレンに告げていた第三王子のもう一つの思が明らかになった。

カルロスの危機を察していたから同行させたのではなく、単に見張りであったロヴレンの目を無くす為に同行させたのでは。

そんな可能と、これ以上なく危険な場所に向かったとこのタイミングで伝えてきた第三王子へのロヴレンとカルロスの怒りが発した瞬間であった。

「あんの、放王子だけは……!!!」

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