《社畜と哀しい令嬢》重なり

「うっわ、智子ちゃん何その顔。ひっどいわよ」

「知ってます。朝からいろんな人から言われてるんで」

智子はげんなりと肩を落とした。結局、玲奈の婚約解消の件でほとんど寢れなかったからだ。

朝起きて鏡を見れば、そこには隈も顔も酷い自が寫っていた。化粧を濃いめにしたのだが、隠しきれておらず出會う人出會う人に心配されてしまった。

でもアホここに極まれりと思うので智子は肩を落とすしかできない。

「どうする? 調悪いなら今日やめとく?」

「いいえ! 私の話を聞いてください! そして聞かせてください!!」

これ以上お預けを食らってはたまらないと、智子は富永の肩をがしりと摑む。

「せめてハッピーエンドなのかバッドエンドなのか知りたいんです〜!!」

「おっ落ち著きなさい、智子ちゃん! どうどう!!」

富永は智子の剣幕に驚いて智子にチョップを食らわせた。

「いたっ! さん酷い〜」

「酷いのはあなたの顔よ。行くわよ」

智子を相手にもせず富永はさっさと歩き出す。智子は不満げにを尖らせながらも、おとなしく富永の後を追った。

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「で、なんだって言うのよ」

著いて早々、生ビールとつまみを頼むと、富永は智子に問いかけた。

「いやそれが、玲奈ちゃんが憲人さまとの婚約を解消されちゃって……」

「誰よ、憲人さまって」

「あれ? ご存知ない? 鷹司家のご子息であらせられる憲人さまを…??」

「知らん」

智子ははて、と首を傾げた。

そういえば富永と飲んであのドラマの話をしたのは2カ月前ぐらいで、よくよく考えるとまだ玲奈は婚約してなかった。

「あれから2カ月も経っているんですか? 先々週くらいの覚ですけど」

「奇遇ね。私もよ」

社會人になって恐ろしいのは、年々時間の経過が早くじるようになっている事だ。

ついこないだ、が半年前を指す事がザラにある。

智子は戦慄しながらも、やってきたビールとつまみを食べながら順を追って富永にドラマの続きを話した。

不思議なことに、富永は以前よりも親になって話を聞きながら、時おり智子の話を端末にメモしていた。

「ーーと言う流れで、昨日クソ親父が玲奈ちゃんと憲人さまとの婚約を解消したんです」

「それは隨分とひどい話ね」

「そうでしょう? そうでしょう? 捻り潰したいあのジジイ!!」

「でも智子ちゃんの話を聞く限り、その憲人さまが婚約解消したいなんて言うかしら。ご両親も含めて」

「そこなんですよ!! 考えられないんです。でもそうするとわからないんです。あのジジイが溺するこ生意気な里を婚約させる意味が!」

智子が顔を顰めると、富永も難しい表を浮かべる。

里は憲人さまと會ったことないんでしょう?」

「うーん…。基本的に玲奈ちゃん視點しか流れないんですよね。でも會う機會なんて……」

言いかけて智子は目を見開いた。

「沙耶さまのお葬式! 里も憲人さまも參加してました!!」

「じゃあ顔は見たってこと? そうなるともしかして…」

「え、なんですか」

「憲人さまってクオーターの年なんでしょう?」

「はい。ヤバイですよ。私が変態なら連れ去るレベルで超年です」

「智子ちゃんの変態さはおいといて、それって里の一目惚れだったりするんじゃない?」

富永の指摘に智子は目を見開いた。

同時に全ての合點がいく。

里は甘やかされて、しいもの全てを手にれてきただ。

由緒ある鷹司家のしい長男を見て、しいと願っても不思議ではない。

雅紀は里に懇願されれば何でも葉えるクソ男だ。

そのために玲奈を犠牲にする事など、躊躇いもしないだろう。

「本當に、クソ野郎じゃないですか……」

智子が怒りに肩を震わせると、富永はそうね、と呟いて智子を見つめた。

「ねえ智子ちゃん。私、ドラマの事調べるって言ったでしょう?」

「え、はい。それ! どうだったんですか!?」

唐突な話題変換に一瞬反応が遅れた智子は、意味を理解してテーブルに手をついた。

対する富永と言えば、どこか躊躇ったように首を傾げている。

「あのね、結論から言うと、智子ちゃんの言ってるドラマの報はどこにも無かったの」

「え……?」

智子はピシリと固まった。

「そんなはず…何かしらあるんじゃ…」

「でも智子ちゃんも見つけられなかったでしょう? 私の知り合い、そういうのほんと得意なんだけど、やっぱり無かったのよ」

智子は富永の言葉に唐突に不安を抱く。

存在しないドラマに真剣に悩む29歳と思われたらどうしたらよいのだ。

「でも、でも本當にあるんです! 作り話なんかじゃ……」

「落ち著いて、わかってるから」

富永はどうどうと智子を軽くいなす。

「本題はここからなのよ。ちょっとこの寫真見てくれる?」

そう言って富永が見せたのは、一人の男の寫真だ。

見た瞬間に怒りが沸いた。

「クソ野郎…!!」

畫面に映っていたのは、玲奈の父、宮森雅紀だ。

さん、こいつですよ! 玲奈ちゃんの父親! ってどこでこの寫真を!?」

「それ、本人よ。ちゃんとこの世界に、現実としているの」

「え? ん? どういう意味ですか??」

「だからその男は、役者でもなんでもないのよ。この日本で現実に「宮森雅紀」として存在してるの」

「はあっ!?」

智子は思わず聲を上げた。

「そして、宮森沙耶もいる。いえ、いた。一月前まではね」

「ひ、さん、なにを言って…」

「宮森雅紀は妻を表に出す事は無かったから寫真は無いの。でも確かにいたわ。そして三條家もね」

智子はごくり、と唾を飲み込んだ。

ツと、頬に汗が流れる。

「そのドラマ、西暦とか出るの?」

問われて、智子は思考を巡らせる。

「……最初は今から4年くらい前から始まってました。玲奈ちゃんの長に合わせて、今の年代に近付きましたけど、別に珍しいことじゃ無かったので気にしてませんでした…」

現代の設定だから、違和は無かった。今年と同じ年號がテレビや新聞に映ってても、そういうものだ、という認識しかない。

智子がドラマで沙耶の葬式を見たのは一週間前だった。

けれど、「ドラマ」の日付はーー今から一月前だった。

ぐらり、と世界が奇妙に歪んだ気がした。

ドラマだと思っていた…いや、今でもドラマだと思っている玲奈の世界。

それが、ここに存在する?

わけがわからない。

「れ、玲奈ちゃんの、ことは?」

「宮森雅紀は財界ではまあまあの位置だから出はあるけど、流石に子供の報は出回ってないわね」

「じゃあ、私が観てるドラマはなんなんですか?」

「それは私にもわからない。でも今日聞いた鷹司家も調べたらもしかしたら……」

言葉を切った富永に、智子も固まった。

(ドラマじゃない? そんなはずない…)

だってカメラワークは固定されたものなんかじゃない。基本的に遠巻きだが、玲奈に合わせていているのだ。

(でも、現実にドラマは存在しないで、クソ野郎は存在する……?)

ハッピーエンドがきっとあると、信じていた。

だって玲奈が主人公のドラマだから。

でも、もし現実なら?

現実に、ハッピーエンドなんか無い。

がむしゃらに生きて、自分の人生を築くしか無い。

じゃあ、玲奈は?

智子はを噛んだ。考えて首を振る。

不安に押しつぶされそうになって、何杯目かわからないビールを煽る。

さん、ありがとうございます。とりあえず今日は飲みましょう」

現実逃避だという自覚はある。しかし智子は飲まないではいられなかった。

素面ではとてもじゃないが、れられない。

「ま、そうね。酔えばどうでも良くなるかも」

対する富永も軽く答えると、2人はベロンベロンになるまで飲み続けた。

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