《社畜と哀しい令嬢》破壊
本日二回目の更新です。
お稽古事を終えた私は離れの自室へと向かった。
終わるのはいつも19時を過ぎるため、辺りは薄暗い。すると不思議な事に、離れに燈りがついていた。
私以外誰もいないため、いつもなら暗い建が私を出迎える。こうして燈りが燈っていることはないはずだ。
私はごくりと息を飲んで建の中にった。
不審者かとも思ったが、警備の人もいる中でそれは考えにくい。いるなら家の関係者だろう。
玄関を開けると廊下も燈りがついており、目で辿れば自室が開いていると分かる。燈りのれる自室からガタゴトと音がすれば、無意識にぶるりとが震えた。
「……どなたかいらっしゃるんですか?」
勇気を振り絞って聲をかけると、部屋からガタンと驚いたような音がした。
すぐに逃げられるように、靴はがずにそろりと廊下に上がる。
「私の部屋で何をしてるんですか!」
恐怖を押し込めて聲を出すと、部屋から誰かが姿を現した。
「ーー里」
そこには剣呑な目つきの里が立っていた。
里がこの離れった事はない。口まではついてくるが、中にはろうとしないのだ。曰く、穢れるからだという理由で。
その里がなぜ、この建に、よりにもよって私の自室にいるのか分からない。
部屋の中に彼がしそうななんてない。
「貴、ここで何してるの」
「なんなのよ」
「ーーえ?」
言い返されて私は眉を顰めた。何なのだと問いたいのは私の方だ。
しかしよく見ると、里は手に何かを持っている。目を凝らしてよく見れば、私の端末だった。
しかし繋がらない端末を、どうして里が持っているのだろう。
「里、それは私のものよ。返して。それにその端末は繋がってないの。持ってても意味なんかないわ」
「うるさい! なんであんたなの? なんであんたは返事がもらえるのに、私はダメなの!?」
里が何を言ってるのか分からず私は困した。逆上した里は怒りに目をらせて私を睨みつける。
私をよく罵倒する里だが、ここまでを剝き出しにする事は滅多にない。常軌を逸した様子にが竦んだ。
それでも、私にとってあの端末は掛け替えのないものだ。このまま渡すわけにはいかない。
「何を言ってるの? お願いだからそれを渡して」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
んだ里は端末を思い切り床に叩きつけた。
里もまた靴をいでおらず、いローファーで何度も端末を踏みつける。バキバキと嫌な音が響いた。
「やめて!!」
慌てて里を突き飛ばすと、里はキッと私を睨みつけた。
「あんたなんかもうすぐこの家から追い出されるんだから! そしたら憲人様は私のものよ! お父様も、この家も全部!!」
里が何かをんで走り去ったが、私の耳にはってこなかった。踏み付けられた端末の事しか考えられない。
掬い上げた端末はボロボロで、どこを押しても反応しないかった。
どう考えても完全に壊れている。
「いや、いや…!!」
(だって今日は、智子さんに言おうって!)
聞いてほしかった。今日の出來事も、私がどう思ったのかも。
そして決意した事を伝えたかった。
でもこの端末が無ければ、何も出來ない。
二度と智子さんには會えないのだ。
「そんなのいや……」
気付けば私は端末を抱きしめて泣いていた。
憲人さまとの思い出も、智子さんとの邂逅も無くなった私は立つ力を失って泣き続けた。
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