《社畜と哀しい令嬢》決めたこと
富永の時間はあまりない。
長くなりすぎてもダメだろうと、智子は出來るだけ簡潔にこれまでの経緯を話した。
そして智子が話し終えると、富永はボトルにれたコーヒーを飲んで難しい表を浮かべる。
「話は分かったわ。結論から言うと、たぶん鷹司家の連絡先は調べられると思う。私が忙しくてちゃんと確認出來てないけど、前に向こうも面白がって鷹司家を調べてみるって言ってたから」
「本當ですか!?」
「でも玲奈ちゃんに聞けばいいんじゃない? こんな回りくどい事しないで」
富永の指摘に智子はああ、と苦笑をした。
「念のための保険です」
「保険?」
「はい。鷹司家の人たちは恐らく玲奈ちゃんを思ってます。だから協力してくれるとも思います。でも萬が一今回の婚約破棄に同意してたら、玲奈ちゃんが悲しむと思って」
「ああ、なるほどね」
智子の言葉に富永は納得したように頷いた。
玲奈に鷹司家の連絡先を聞けば、智子が彼らに連絡を取ることが分かってしまう。
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そうすると何かがあった時にすぐに知らせなければならない。それが良い容でも、悪い容でも。
智子はどんな結果になっても、玲奈の傷を最小限にしたいのだ。に進めればある程度コントロールが出來る。
「玲奈ちゃんは聡い子で考え方が大人ですが、私は彼を子供として扱いたいんです。出來る限りの配慮をしたいと思います」
「その心がけはいいんだけどね。1つ気になるんだけど、玲奈ちゃんを家から出した後どうするつもりなの?」
富永の聲音はい。智子は聞かれるだろうと思っていた質問に、無意識にを噛んでから答える。
「一応、二つくらい考えてます。私が引き取るか、三條家の養子になったもらうか」
智子の言葉に富永は目を見開いた。
「引き取るってのは言いそうだと思ったけど……三條家って、玲奈ちゃんのお母さんの実家よね」
「はい」
「でも玲奈ちゃんのお母さんは三條家と連絡を取ってなかったんでしょう?」
「はい。事は分かりませんが全く取ってなかったと思います。葬儀に出てたかも分かりません。あの部分はあまり全が見えなくて……」
玲奈の語は、見たいと思うものを見せてくれるわけではない。
雅紀に接していた何人かの男やはいたが、三條家だという確証は無かった。
玲奈とも敢えて三條家の話をするのを避けた。信頼してもらう前に聞けば、玲奈を傷つけるかもしれないと思ったからだ。
「じゃあどうして? 私はてっきり引き取る一択だと思ったのに」
「鷹司家との家格を考えたんです。もちろん私は玲奈ちゃんを引き取りたいですけど、憲人さまと結婚するなら華族の三條家じゃないとバランスが取れませんし」
「なるほどね。納得したわ。でも三條家の養子になりつつ智子ちゃんと暮らすのが理想よね」
「そうなんです。……って、なんで私が引き取る事には肯定的なんですか……? 絶対反対されると思ってたのに」
自分で言ってても荒唐無稽な話だと智子は自覚している。
なのに富永は平然と答えた。
「だって智子ちゃん稼ぎがあるもの」
「いや、お金とかじゃなくて! あるじゃないですか! 子育てなめるなとか! 無茶言うなとか!」
「玲奈ちゃんはいい子で手がかからない、智子ちゃんは稼ぎがある。それが可能かは置いといて、別に一緒に暮らすのに問題ないんじゃない? 智子ちゃん結婚考えてないんだし」
「だから余計ダメなんじゃないですか! 最高の環境を與えられるわけじゃないんですよ」
なぜか肯定的な富永に、智子の方がそれで良いのかとまくし立てる。
誰にも言わず決めた事に後悔は無いが、世間的には無謀だと知っている。だからこそ反対される覚悟はあった。
それをあっさり、いいんじゃない別にと言われれで戸ってしまうのだから、人間とはかくも複雑な生きである。
「いやあ、これが「あたし、子供大好きなんですぅ、だから可哀相な玲奈ちゃんを引き取りたいんですぅ。お金は結婚するから大丈夫ですぅ」とかいう相手なら毆って止めるけど、智子ちゃんだもの」
「なんですかそれ」
「智子ちゃん、基本的に人が好きじゃないじゃない。……ちょっと違うか、好きな人間以外、懐にれないじゃない。しかもれても一線引くでしょ。そんな人間がだよ、一緒に暮らす覚悟を決めてるわけだから、楽観的に考えてるわけないもの」
「いやそれは……そうなんですけど」
「経済的にも問題無いし、玲奈ちゃんは自分で考えられる子だしいいんじゃない? これが3歳の子供とかなら正直難しいと思うけどね。この會社にいながらはやってけないから。智子ちゃんはその分別がついてるでしょ」
「それはそうですけど……」
富永の言葉に智子はしぶしぶ同意する。
これが手のかかる子供であれば、引き取るだなんて覚悟するのは難しかっただろう。
行には責任が伴う。誰かの人生を背負う覚悟なんて、面倒臭がりの自分が出來るわけはない。
けれど玲奈なら話は別だ。お互いにお互いの生活環境を見つつ、話し合いながら解決出來るだろう。そう思ったから決斷できた。
「ならいいじゃない。反対するのは他の誰かに任せるわ。私は全面的に応援する。もちろん、タダじゃないけどね」
富永はにやりと笑った。それが頼もしくて智子も自然と頬が緩む。
決めたのは自分だからと懸命に己を鼓舞していたが、味方がいるというのはこんなにも勇気が湧くものなのか。
(玲奈ちゃんにとって私もそんな存在になれてるといい)
「ありがとうございます!」
「いいの面白いから。ってもう時間切れだわ。知り合いには鷹司家の件伝えとく。智子ちゃんのいう通り、報酬についても聞いておくから。
何か補足があればメッセージちょうだい」
「はい! ありがとうございました!」
時間を見た富永は急ぐように席を立て作業室から出て行った。智子も一呼吸置いて、脳みそを切り替える。
(中學校コラボの件もあるし、ハイスピードで仕事終わらせよう!)
拳を握った智子は鼻息も荒く仕事に戻った。
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