時は遡り、レーネが馬車でベールヌイ公爵の元へ向かっている頃。

正當な後継者を失ったアーネスト家の薬草菜園の前には、二人の親子の姿があった。

レーネの父であるアーネスト伯爵と、義妹のカサンドラである。

「今日からこの薬草菜園は、カサンドラのものだよ」

「ありがとう、パパ。よ(・)う(・)や(・)く(・)手にれることができたね」

これまで幾度となくレーネのものを奪い続けてきたカサンドラだが、本當にしかったものをようやく手にれることができ、笑みがこぼれていた。

「何でも言うことを聞くお義姉さまだったけど、ここだけは絶対に譲ってくれなかったのよね」

「祖母の死をけれられず、薬草にしがみつくことでしか生きられなかったのだろう。哀れな娘だった」

「でも、そのおかげで大金が手にったし、ようやく私たちの夢も葉うわ」

「そうだな。パパはこの日が來ることを、今か今かと待ちんでいたよ。カサンドラが聖(・)(・)と証明される、この日のことを！」

喜ぶカサンドラの姿を見て、アーネスト伯爵はニヤリッと不敵な笑みを浮かべる。

「この國には、疫病が流行ったり、魔が大繁したり、薬草が不作続きだったりすると、必ず聖が現れて窮地をしている。レーネが薬草を不作にしたことで、カサンドラが聖になる舞臺が整ったのだよ！」

華やかな未來をつかみとったと確信するアーネスト伯爵は、喜びが堪えきれていない。レーネを売り払った大金を手にしたこともあり、もはや目の前の薬草が道にしか見えなかった。

一方、カサンドラは違う。悅に浸る父を前にして、大きなため息を吐く。

「もう……その話は聞き飽きたわ。私みたいに可くて、もあって、っぽいの子が聖に決まってるじゃない」

「もちろん、パパはカサンドラが聖だとわかっているが、世間には気づかない輩が多いのだよ。でも、それもここまでだ。さあ、今こそカサンドラが聖であると証明しようではないか！」

「任せて。お義姉さまのマネをするだけでいいんでしょう？」

いつもレーネが水をやっているように、カサンドラは手のひらに小さな水球を作り出す。そして、それを上空に放り投げると、カサンドラの魔力が込められた水の雨が降り注いだ。

その瞬間、薬草が魔力を吐(・)き(・)出(・)し(・)、の粒子が綺麗に舞い上がる。

「おお……！　これが本來の薬草のあるべき姿か！　薬草が神々しい魔力を放ち、カサンドラを迎えれているではないか！」

「私が正真正銘の聖なんだもん。歓迎されて當然だわ」

幻想的な景を目の當たりにして、気分を良くした二人は、薬草の異変に気づかなかった。

カサンドラの魔力が葉に浸して、葉が黒ずみ始めていることを。溜め込んでいた綺麗な魔力を放出する代わりに、禍々しい魔力を作り始めていることを……。

これが薬草による拒絶反応であることを、二人が知ることはない。

正統な後継者を追い出し、伯爵の地位を完全に掌握した優越に浸り続ける彼らには、綺麗に輝くの粒子しか見えていなかった。

「お義姉さまはいつも友達みたいに薬草に話しかけていたのに、最後まで認められなかったのね。だって、お義姉さまが水をやっても、こんな風に歓迎されなかったんだもの」

「仕方ないだろう。何年も不作で結果が殘せず、多くの薬草を枯らしているんだ。薬草たちに嫌われるのは、當然のことだよ」

「あ～ぁ、お義姉さまが可哀想だわ。誰からもされることなく、化け公爵に食いつぶされるのね」

「罰が當たっただけだ。それに本當に可哀想なのは、今まで育てられていた薬草の方だろう。カサンドラが魔法の勉強をしている間、ずっとレーネにげられていたんだからね」

「パパの言う通りね。お義姉さまに同して損しちゃった。せっかくなら、この景を見せつけてから追い出したかったわ」

ちょっぴり後悔するカサンドラだったが……、すぐに興味が別のことに移る。

どうでもいい義姉のことよりも、自分のことの方が大切だからだ。

「ねえ、パパ。もうそろそろドレス屋さんが仕立てに來る頃よ。薬草なんて放っておいて、新しいドレスのことを考えないと」

「もうそんな時間か。もうしこの景を眺めていたいが……仕方ない。せっかく大金が手にったことだし、今日はお祝いだ。カサンドラに相応しい魅力的なドレスをデザインしてもらおう」

「ありがとう、パパ！　大好きよ！　私ね、前から妖艶な聖になりたいと思っていたの。ちょっとセクシーなものでも大丈夫かしら。今どきの聖は、民衆を魅了するくらいじゃないと……」

楽しく話す二人を見送るように、薬草は魔力を吐き続ける。しかし、誰もそのことが異常だと気づくことができなかった。

アーネスト家がけ継いできた薬草の異常をじられる者は、もうこの地にいないのだから。

『あとがき』

ひたむきに薬草と向き合うレーネが幸せの道を歩み、アーネスト家が破滅の道へ向かい始めたところで、第二章は終わりになります。

第三章は飯テロ回が増えますので、お気を付けを……！

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