一週間後。スイート野菜を作ることになった私は、マノンさんと一緒に裏山に足を運んでいた。

屋敷の裏庭で薬草と一緒に栽培できたらよかったけど、薬草菜園を圧迫してまでやることではない。かといって、急に市街地で作り始めるわけにもいかなかった。

スイート野菜を栽培した経験のある私が行き來できる範囲であり、広さも十分に確保できることを考慮してもらった結果、裏山に落ち著いたのだ。

もちろん、領地に関わることなので、旦那さまの許可が必要になる。そのあたり、マノンさんに確認したところ、

「ん？　知ってるよ？」

と、キョトンッとした顔で首を傾げられた。

どうやら私に旦那さまの報はってこないが、私の報は旦那さまにるらしい。嫁いできて一週間も経っているのに、まだ顔合わせもしていないため、妙な不安が芽生え始めている。

もしかしたら、見た目がタイプではなく、嫌われたのではないか、と。

なんと言っても、魔がはびこる危険な裏山に、マノンさんと護衛をつけずに二人だけで訪れているのだ。大事にされていたら、もっと護衛騎士を付けてくれるだろう。

その事実に気づいたときには魔が現われ、窮地に立たされた……はずだったのだが。

「ん？　また餌を求めてやってきたか。愚かな魔め」

そう言ったマノンさんが森の木々にを向けると、大きなウルフが姿を表す。

「がおーー」

「キャヒンッ」

マノンさんが得意とするライオンの威厳ポーズで、あっさりと魔を追い返してしまう。

なぜ魔が怯えて逃げるのかはわからない。あまりにも可くて逃げたと言われた方が納得できる。

しかし、一つだけ確かなことは――、

『ガサガサガサ』

『ドシンドシンドシン』

思っている以上に魔に囲まれていたということだけ。以前、マノンさんに危険があると言われ、高い服を買ってもらった言葉の意味をしていた。

「フッ、やはりライオンこそ最強」

魔を追い払ってドヤ顔するマノンさんを見て、私の乙心はコロコロと揺れいている。

やっぱり旦那さまに好かれているのかもしれない。絶対に魔に襲われないラブリー侍、マノンさんを専屬侍にしてくれているのだから。

「私は一生魔とわかり合えない気がします」

「魔は雑食だから、仕方ない」

「そういう意味ではないですけどね」

どうやらマノンさんはし天然がっているみたいだ。そこがまた一段と可らしい。

＊＊＊

安全に裏山を登り続けると、し開けた場所が見えてきた。

隨分前に魔同士で爭いでも起きたのか、木々がなぎ倒されていたり、地面がくぼんでいたりと、荒れ地になっている。人の手が加えられた形跡はなく、ちょっとしんみりとした場所だった。

「目的地に到著。ここでスイート野菜を作りたい」

「屋敷を出てから、ちょうど三十分くらいですね。このくらいの距離なら、農作も馬で運びやすいと思います。でも、魔に荒らされる心配はありませんか？」

「元々、この周辺はうちの縄張りだった。問題ない。魔が來ても、騎士団が何とかする」

他力本願かな。それぞれに與えられた役目を果たすという意味では、間違っていないけど。

「晝間ならともかく、夜間の警備も必要になりますよ」

「夜行の獣人もいるし、警備は萬全」

「そこまでして、スイート野菜を作る価値は……？」

「ある」

あるんだ。コストと苦労が割に合わないような気もするものの……、売買を目的としたわけではないから、深く考えなくてもいい気がする。

スイート野菜が高騰して手にらないなら、自給自足するしか道はないのだ。

問題があるとすれば――、

「まさかここまで広い土地を提供されるとは」

思っていた以上に期待されていて、後に引けなくなっていることだろう。趣味でやるレベルを軽く超え、事業レベルの土地が提供されている。

どれほどみんながスイート野菜を食べたかったのか、人族の私にはわからない。獣人の死活問題に、安直に踏みってしまったことを自覚した。

安請け合いするには、リスクが高すぎる。嫁いできたばかりで、こんなに大きな仕事を引きけるべきではないだろう。

今からでも遅くない。もっと規模を小してもらうように旦那さまに伝えてもらおう。

そう思っていると、マノンさんが私の服をチョイチョイと引っ張った。

「もう準備は終えている。人手も集まった」

不穏なことを言われたと同時に、私たちが登ってきた山道から大勢の人たちが歩いてくる。

それは鎧を著て警備を努める騎士団と、畑を耕す準備萬端と言わんばかりに鍬を擔ぐ領民たちだった。

「スイート野菜が育てば、うちの子の學費も楽になるのかねえ」

「どうだろうな。近年は専屬農家でも不作なほど難しいと聞いているぞ」

「仕事がもらえるだけでもありがてえべ」

取り返しのつかない事態に陥っていることに気づいた私は、心の中でぶ。

思っていた規模と違うんですけどー！