《腐男子先生!!!!!》5「ホテルに行って社會的に殺してやろうか!?」
「先生バイバーイ~!」
「気をつけて帰りなさい」
「先生さようなら!!」
「はいサヨウナラ」
遅くまで殘っていた生徒もいい加減に家路につく時間だった。かけられた聲に淡々と答えながら、桐生は職員用の玄関から駐車場へと出る。
「……」
なぜか後部座席のドアをあけると、柱のにひそんでいた影が飛び込むようにっていった。
何事もなかったかのように、運転席に乗り込む桐生。
ドアが閉まると、同時に。
「うおおおおおおおめっちゃ張した!」
「グッジョブ」
見つからないよう教師の車に乗り込んだ朱葉が後部座席に橫たわったまま息を吐くと、運転席で桐生が親指を立てた。
ギリギリになった同人誌の直接稿をするために車で送ってもらうことにはなったが、腐っても(まさに)相手は教師であるので、人目につけば問題にならないとも限らない。
「頭伏せてろ」
布もないので、ジャンパーをいで後部座席に投げてくる。車は掃除が行き屆いているようで(もしくはあまり後部座席に乗る人もいないのかもしれない)足下にしゃがんでも汚れなさそうだったが。
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「近くまで行くから、寢てていいぞ。昨日も寢てないんだろ」
そう言うので、おとなしくジャンパーをかぶって後部座席に橫になる。暗いの制服は、闇にまぎれるには好都合だと朱葉は思った。
(お父さん以外の、車だ……)
あんまり乗ったことがないな、と朱葉は思う。しだけ、どきどきした。走ったせいだろう。それか、危ない橋を渡っているせいだ。校門を抜け、信號を渡って、街頭が頭上を流れて行く。
後部座席に橫たわっていると、桐生の、無駄に整った橫顔だけがぼんやりと外のに照らされている。
(はぁ……寢ちゃお……)
疲れてるのは事実だし。寢てないのも本當だ。脳の機能が低下しているから、おかしなことを思ったり、口走ったりしないとも限らない。
うっすらと開いた視界の中で、桐生の長い指が、カーステレオをっているのが見えた。
子守歌のように、音楽が流れ出す。
~~♪
「「Go! CHANCE!!!!」」
突如流れ出したアイドルソングに、桐生と朱葉の聲が重なり、朱葉が後部座席から転がり落ちる。
「え、なんでかけた? なんで今かけた?」
ジャンパーをかぶったまま亡霊のように運転席にしがみついて朱葉が言う。
桐生がカーステレオでかけたのは、現在驚異的に流行っているアイドルアニメのドルソンだった。擔當がいてもいなくても、これが歌えなかったらそれは今期のアニメをサボっている証拠だ。それはそう、それはそうなのだけれど。
「今日発売日だよねその曲!!」
「いやーいい時代になったものだよな! 日付が変わると同時にDL販売! ふはははははは」
ものすごく得意げに笑われた。
朱葉はずるずると力しながら音楽にを任せようとし、ガバリと起き上がると言う。
「え、でも円盤にコンサート先行シリアルついてませんでしたっけ」
オリコンチャートも駆け上がる、地上派音楽番組も秒読みと言われている文句なしの人気聲優が揃ったアイドルソングなのだ。コンサートは激戦中の激戦で、円盤にシリアルをつけるのが常套になっている。ふっと笑うと桐生は言った。
「問題ない。通販で25枚積んである」
「汚い!! 大人って汚い!!!!」
心の底からんだ。
「仕方ないなぁ早乙くんにもシリアルコードを抜いたら一枚プレゼントしよう」
「くれとは言ってねえよ! わたし夏からもらうし!」
夏とは、朱葉の友達の聲優オタクだった。彼もCDは積んでいるはずだけれど……もちろん、戦力が違う。火力が違う。
これだから世の中から爭いはなくならないのだ。
「あーあ……」
ぐったりと後部座席に橫たわって、けない聲をあげる。
「もーやめて、止めて……聞きたくない……大人って……大人ってこれだからよお……」
「そうさ。大人は汚くて狡い」
オーディオをとめながら、かすかに後ろを振り返り、にやりと笑って桐生は言う。
「一度やったらやめられないよ」
その言葉を、ジャンパーの下で橫たわりながら朱葉は聞いていた。
一応これでも朱葉は今をときめく高校二年生で、今は楽しいけれど將來には不安があるし、はやく大人になりたいと思う気持ちとともに、大人になんてなりたくないとも思う。
その一方で、クラスメイトのの子達は、若いうちにしか価値がないと言う。
でも、そんなこともないのかもなと、朱葉は思う。
大人が、一度やったらやめられないなら。これからの人生は、ずいぶん楽しそうだなって、朱葉だって思うのだ。
~♪
オーディオをいじる桐生が、今度はめちゃくちゃマニアックな(それでいてオタクはみんな知ってる)ミュージカルドラマ型の曲を流し始めた。
「ねえねえ、俺が男聲パートやるから聲パートやって」
「寢かせてくれよ!!!!!!!」
「──そう、その日、予言者達は気づいてしまったのだ!!!」
「語りからるのかよ!!!!」
車の防音をいいことに、好き勝手かましてくる桐生に頭が痛くなる。
桐生はノリノリだ。
「あーなんか盛り上がってきちゃったな。このままオールでカラオケいかない?」
「ホテル行って社會的に殺してやろうか!?」
そういうホテルにカラオケがあるというのは、BL小説で読んだことがあるから知っている。
そんなこと言ってる間に、車は印刷所に著いて。
一応だけど、「ありがとうございました」とお禮を言って、おりる。
「帰りもくれぐれも、気をつけて」
寄り道はするなよ、とそんな時だけまるで教師みたいなことを言って走り去っていく、車を見ながら。
(疲れた……)
疲れた、と思う。けど。
(彼氏があんなだったら、退屈しないかもなぁ……)
そんなことを、思って。
(……先生が、彼氏?)
ねーわ、と心の中で呟いて。よい子の通常稿のために、朱葉は印刷所の事務所にすべりこんで行った。
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