《腐男子先生!!!!!》9 もしもこの人が、先生じゃなかったら。
応援上映は、控えめに言って神だった。
エンドロールが終わるまで、誰ひとり椅子を立ち上がることはなかった。いや、最前列に座っていた朱葉は確認出來たわけではない。見えないけれど、たとえ立ち上がったひとがいたって、その人だって、最後の一瞬まで座っていたかっただろう、と思える、いい時間を過ごした。
そして、エンドロールの終わり。
出るはずだった、最後のテロップは──出なかった。
真っ黒な畫面、そこに。
白い流麗な文字とともに。
《そして、輝きは終わらない──》
『だよね? 星屑ちゃんたち!』
アイドルの聲が響けば、ギアアアアアアアアアアアアと映畫館が歓聲に包まれる。
振り切れた。頭の管が切れる、神が焼き切れるかと思った。それくらい興した。
そしてそれは隣の桐生も一緒だったことだろう。隣にいるだけで、それがわかった。
──てゆうか隣も完全に泣いていた。マジかってちょっとだけ思った。思ったけど、思った朱葉も泣いていた。
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そして、特報が流れた。來春。劇場版新作。
それから、まさか、まさかの新曲披。
ラストシーンは、みんなが大好きな俺様のキャラクターが、ニヒルに笑って。
『MontBlanc《モンブラン》でも食べて待ってるんだな』
そんな風に、煽るから。
「「待ってるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」
劇場が一になった。
上映は終わり、燈りがつく。
夢から覚めたような気持ちにはなったけれど、まだ全然、心がリアルに帰れていなかった。
「…………」
「…………」
やはり放心している桐生とともに、亡霊のように立ち上がると。
「モンブラン」
「食べなきゃ」
顔を見合わせ、頷く。
そして二人、同じ歩幅でザッザッと映畫館を出ると、そのまま地下の奧まった喫茶店にる。
注文はモンブラン。
モンブラン一択だ。
當たり前だ。
「メッセージって書けますか!?」
「花火!! 花火もつけてください!!!」
そして映畫パンフレットのモンブランキャラのページを開くと「新作決定おめでとう★☆」とプレートに書かれたモンブランを激寫し、泣きながら食べる。
今日はじめて會ったはずの二人だが(あくまで設定上のプレイの話である)話すことは決まっている。一秒の沈黙さえもったいない。それくらい、今日の特別上映は素晴らしかったのだから。
とはいえお互い神経が焼き切れているので、
「神」「やばみ」「作畫が」「新規カットが」「昇天する」「クズになりたい」「クズになる」「もうクズだから仕方ない」
と単語だけの會話だ。(ちなみにクズというのは今作のファンの通稱だ。決して蔑稱ではない。メインアイドルがファンのことを星屑ちゃんと呼ぶことに由來する)
また、同時に公式サイトも更新されて二人の心は撃されっぱなしだった。
「今ここで死にたい」
「春まで死ねない」
そんなことをしているうちに、時間はあっという間に過ぎた。
「あ、やば! もうこんな時間!」
最寄駅からの最終バスを乗り逃したら親に叱られる。慌てて立ち上がった朱葉と一緒に、桐生も立ち上がる。
──送っていくとは、言わなかった。
「今日はありがとうございました」
ただ、そう、改まって、桐生が言う。どこか聞き覚えのある、イベントで初めて會った時のような、丁寧な口調で。
「一緒に見られて楽しかったです」
それから朱葉が返事をする、隙も與えず。一息で言った。
「ぱぴりおさんの描く漫畫のファンです。だから譲渡記事見たとき、ぱぴりおさんに渡したいと思いました。お譲りできて嬉しかったです。これからも頑張ってください」
その言葉を、茫然と朱葉は聞いていた。
そして、何度言うんだろうな、と朱葉は思った。
何度言うんだろう。この人は。
好きでしたって。
好きです、って。
別に朱葉のことじゃない。朱葉自のことじゃないけど、朱葉の創作は、二次創作だけど、朱葉が一番大切にしている、心の削り片であることは確かだ。らくがき、でも、それだけじゃない。
それを、好きだと、「彼」は言うのだ。頑張ってくださいと。これまでも。たぶん、これからも。
泣き笑いみたいに、朱葉が言う。
「はい」
その返事が正しいのかはわからなかった。そう、正解なんてわからない、と思う。正解なんてわからない。
プレイとか。カモフラージュとか。本當の姿とか、立場とか、常識とか、もうそんなの全部、わからなくなる。
なんだかおかしな顔をしそうになって、深々と、朱葉が頭を下げた。
「こちらこそ。チケット譲渡、ありがとうございました」
それで、終わり。
シンデレラみたいに、魔法が解けるみたいに、相手と別れた。ガラスの靴なんてない。追ってくるわけもない。
一瞬、ほんの一瞬だけど、考えなかったといったら、噓になる。
もしもこの人が、もしも、もしもこの人が。
先生じゃなかったら。
先生じゃなかったら、わたしは?
考える。考えるけれど。
そんな『もしも』はないから──この問いには、最初から、答えなんてないのだ。
だから、意味もなく走って帰って。
新作おめでとうの絵を急いでアップしよう。
その絵に一番最初にイイネを押す人が、誰かはわかる、と朱葉は思った。
まあ、それはそれ。それはそれだったのだけれど。
翌日の生準備室で、その絵をタブレットの壁紙にしていたのには、
「やっぱ結構キモイです。先生」
思わず真顔で言ってしまったのだった。
応援上映編でした。
とってもたくさんの想、ブクマ、評価、本當にありがとうございました。
うれしかった気持ちを忘れずに今後ともゆるゆる頑張っていきたいと思います。
フラグは折ってらせるもの。そんな二人の今後やいかに。
お聲かけは、想でも、活報告でも、Twitter(@TAKIKotoha)でもお気軽にどうぞ。私もかる~いじで返事をさせていただきます。
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