《腐男子先生!!!!!》12「ロットで買うけどダブり買い取りする?」

そうだろうとは思っていたけれど、桐生は同じゲームセンターに朱葉がいたことにまったく気づいていなかったようだ。

自分の連れと朱葉が並んでいたことに首をかしげながら、階段を降りてきたが、その視線が朱葉の手に止まった。その、手に持った、キーホルダーに。

「あ! それ! しまった! 俺もとってくる!」

早乙くんちょっとこれもってて! と朱葉に丸いキャラクタークッション(やわらか)を預けて走り去ってしまう。

「……」

「……」

ガタイのいい裝男と二人きりにさせられた朱葉は、とりあえず頭を下げる。

「あのう……いつも……ご迷を……」

「いえ……こちらこそ……」

へこへこと相手も頭を下げてくれた。あの馬鹿が、という言葉を言外ににじませて。

どの馬鹿かといえば、もちろん桐生のことである。

「先生って呼んだってことは、あれだよね。桐生のとこの生徒だよね?」

「はい……」

秋尾《あきお》、と桐生に呼ばれていた人は、とりあえずというように持っていた煙草に火をつけた。ちょっと立つ位置をずらしたのは、朱葉に煙がいかないためだろう。それだけで、配慮のある人だと朱葉は思った。

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(あ、爪、きれいだな)

でも生爪ではなさそうだった。おとこのひとですよね、という問いかけを肯定したのだから、心が、というわけではないのだろう。そういう相手とは、初めて出會うので。朱葉は慎重に言葉を選んだ。

「先生とは、イベントで出會って……」

「あ、あーーーー!!!!」

大きな口をあけて、秋尾が言う。

「君か! 桐生が神サー特攻かけたら教え子で死っての!!!」

「……ぴ、ぴんぽん……」

がっくりと肩を落として朱葉が答えた。言葉にしてみれば間違ってはないが、改めて聞くと実にひどい話だった。

「いやー君ね。ごめんねじゃあマジで桐生迷かけてるよね。あいつも教職なんてはじめたんだからちゃんと毎日擬態はしてるはずなんだけどね。擬態してなかったらただのクズでしょ」

「クズですね」

クッションを見ながら朱葉が心の底から言う。

「まあ、でも、わたしも似たようなもんなんで……」

「いやー若い子はいいんだよ。若いのは。俺だってあと10年若かったらもっとやれたはずでしょ」

……」

「あ、自己紹介遅れたね。俺は秋尾誠《あきおまこと》。桐生とは長年のオタ友で、俺のジャンルは立《フィギュア》、ドール、レイヤー、それから裝。あ、これ俺のレイヤー名刺ね」

はきはきとだいぶ濃い自己紹介をされた気がする。マコト☆と書かれた名刺には、格闘ゲームの裝キャラレイヤーのコスプレ寫真が載っていた。

「嗜好はノーマルなので彼持ちです。あしからず」

わざわざきちんとフラグ(主に桐生に対する)も折ってくれるあたり、実に気配りの人だった。朱葉はさきほどはとち狂って、秋尾に対しても失禮なことを言ってしまったような気がする。改めて謝ると。「いいよいいよ」と笑ってくれた。

いいひとだな、と朱葉は思う。

格好はすごいけど。

「早乙ちゃん、だっけ。俺が言うのもなんだけど、問題にならない程度に、あのクズと仲良くしてやってよ。あれ、クズだけど。最近仕事が楽しいって言ってたんで」

早乙ちゃんのおかげでしょ、と言われて。

いやー、と朱葉が頬をかく。けっこう、真剣に、照れてしまう。

「わたしなんか、いなくても……」

ぼそぼそと朱葉が言うと、ばたばたと音を立てて桐生が戻ってきた。

「おい見てくれ! このキーホルダー、カップリングでつけたらマジ萌えるんですけど!!!」

死んだ顔で朱葉が言う。

「なんかめっちゃ楽しそうじゃないですかね……」

「まあ、それは否定しない……」

疲れたように煙草を潰す秋尾に、首をかしげて桐生が言った。

「ところで、なんで二人で話してるんだ?」

思わず二人の聲が重なる。

「「おめーがいなくなったからだよ」」

クッション投げたろか、と朱葉は思ったけれど、可哀想なので(クッションが)やめておいた。

時間があるなら遊んでいこうよ、と言ったのは秋尾だった。ええっと、と言いよどんだ朱葉の言葉にかぶせるように、「だめ」と言ったのは桐生だった。

「なんで」

「早乙くんはうちの生徒」

「え、それ理由になってなくない? 子高生、遊ぶのにセンセーの許可いるわけ?」

「お前みたいに教育に悪い奴とは遊ばせられません」

「わー、どの口が言うの?」

朱葉としては、秋尾の言葉に全面的に同意である。早乙ちゃんどう思う? と振られたので。

「仲いいんで、やっぱホモかなと思って見てました」

そう素直に答えたら、「違う!!」と大聲で桐生が言った。

「俺はもっと汚くない男の娘の方がいい!!」

「ほんとぶっ殺すぞお前。あと俺は裝の中ではキレイめだ」

すかさず秋尾がドス聲でつっこむ。

結局桐生のガードがかたく、ゲーセンもカラオケもなしになり、桐生も同伴なら、という條件つきで、秋尾が車で朱葉を送ってくれることになった。

和製ロックが鳴り響く車で、助手席の桐生がクッションをむにむにしながら、「早乙くん」と言う。

「うちの高校は日中であればゲームセンターの出りとか、うるさく言わないけど。あんまりひとりで來ちゃだめだよ」

今日は、秋尾がいたからよかったけどね、と言われ、朱葉は釈然としない気持ちになりながらも、「はーい」と返事をした。

(じゃあ先生、一緒にきてくれる?)

とか、思うけれど、言うことじゃない。朱葉にもわかるのだ。

先生と生徒はゲーセンにはいかない。

本當は送ってもらうほど遠くではないのだ。すぐに家につき、朱葉は車からおりる。

「あ、早乙くん」

助手席の窓を下げて、桐生が言う。

「俺、ダブスタ★☆のくじロットで買うけどダブり買い取りする?」

「する。めっちゃする」

先生と生徒は、ゲーセンには行かないけれどロット買いをわけあう。ここはセーフセーフ。

その様子を見ていた秋尾が、ちょっと呆れた風に言った。

「なんか、思ってたけど、お前らめっちゃ仲いいのね……」

家に帰った朱葉が、今日の戦利品であるキーホルダーを改めて見ると。

やっぱりすごく、可い顔をしていた。

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