《腐男子先生!!!!!》13「わたし、きょうせんせいのことめっちゃきらいなひです」
だいたい、今日は朝から最悪だったのだ。
明け方まで起きていたから寢坊をしてしまった。學校には間に合ったけれど、朝ご飯を食べる暇もなかった。その上出さなきゃいけない課題を忘れていて、なんとかお目こぼしをもらって晝休み中に提出したから、晝食を食べる暇もなかった。
極めつけに。
(最悪……)
子トイレの個室で朱葉は心の底からため息をついた。
貧めいていると思ったのだ。用意はあったけれど、だからといって気が滅るのは仕方がない。
は生きているだけでを流す。まったく理不盡だ。
(こんな時は、推しキャラ化生理妄想することぐらいしかすることがない)
そう思ってしまう程度には、まだ元気だった。その時までは。
最悪なことに、午後一の授業は生だった。
「じゃあ今日は、前回の続き。生態系のメカニズムから……」
いつものごとく白を著て教室に現れた桐生和人は、涼しい顔をしていた。普段はいけ好かないなあ、と思うだけのその顔が、今日はいやに……かんに障った。
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(嫌いかも)
朦朧とする頭で、し思った。
(わたし、先生のこと)
嫌いかもしれない…………。
そんなことを思いながら、ずるずると頭を落とし、機に突っ伏した。起きてなきゃ、とは思ったんだけれど。
「…………」
あ、意識、落ちる。そう思った時だった。
隣を通っていく桐生が、朱葉の肩に手を置いた。
びくっ、と朱葉の肩が揺れる。見下ろす桐生と、目があった。どこか怒ったような顔をしている。
(何……)
イラッとした。顔にも、出ていたと思う。桐生はそのまま、冷たい聲で言った。
「調子悪いなら、保健室に行くように」
ぐっと持っていたペンを握った。自分にもっと力があったら折っていたかもしれない。
(どの口で言うんだろ)
こんなのは八つ當たりだ。もっといえば、寢不足で、あと周期的な問題で、神経もつらくって。貧で。だから、桐生は悪くない。
悪くないけど、ばーか、と、心だけで朱葉は思った。
生の授業はなんとか終わり、本日最後の授業は、育だった。最悪中の最悪だけれど、それでも座學よりはマシといえたかもしれない。なくとも、冷たい風に吹かれて外を走っている間は、眠気を忘れられる。
(と、思ったんだけど……)
ちょっと、まずいかも、と思ったのは、秋空の中のマラソンが、はじまってすぐだった。
(お腹痛い)
あと、めまいがする。指先が冷たくなる。
「先生」
育教師の加藤は、生徒に走らせておいて、自分は校舎のそばで見張りをしているだけだから嫌いだ。
「ちょっと、保健室行ってもいいですか」
なんだ? と加藤が言う。
「早乙、お前、サボりじゃないのか」
こんな時に、の先生だったら、生理だからとか言えただろうか。いや、きっと言えなかっただろうなと、頭の隅で思った。言い訳するのも、もう、めんどくさい。いっそこのまま、ここで倒れられたら。そう思った時だった。
「加藤先生」
校舎の窓から、聲がかかった。育教師が振り返ると、そこにいたのは。
「桐生先生」
まだ、白を著たままの、桐生その人で。
「そいつ、前の授業から調子が悪そうだったんです。保健室行くように勧めたのは俺ですから、連れていきますよ」
桐生の言葉で、ようやく育教師もサボりの噓とは思わなくなったらしい。
「じゃあ、桐生先生頼めますか」「はい」という會話を、どこか他人事みたいに朱葉は聞いていた。下駄箱に戻ると、桐生が立っていて。
なんだかほっとしてしまった。
そのことに、また腹が立って、うつむいて。
自分の靴のつま先を見ながら、朱葉が言った。
「せんせい」
「はい」
「わたし、きょうせんせいのことめっちゃきらいなひです」
「はい」
「あとすごいおなかいたい」
「はい」
「くそねむい」
「はい」
桐生はただ、淡々と聞いた。それから。
「わかったから。おいで」
それだけ言って、朱葉の肩をつかんで、保健室まで同行してくれた。
並んで歩く授業中の廊下は靜かで、別世界みたいだった。
保健室に著くと、保健醫に朱葉を引き渡し、桐生はさっさと出て行ってしまう。保険醫から処置をうけて、ベッドに寢ていてもいいと言われ、朱葉は橫たわりながら、自分の無力に、ひたひたと沈んでいた。
カーテンの向こうで、誰かがってくる気配。
保険醫に対し、何事か伝言を伝えている。「あとは俺が見ていますから」と言っている聲は、聞き覚えがある。
保険醫が保健室を出て行くと、カーテンの端から、桐生が顔を出す。
「おーい」
にょきっと生えた手が、握っていたのは朱葉の鞄。
「お前のスマホ、持ってきてやったけど」
その言葉に。
「!!!!!!!!!!!!!」
ガバッと音を立てて、朱葉がを持ち上げる。必死になってつかんだ鞄を、しっかりと桐生が握っていて。
「早乙くん」
お互い渾の力で鞄を取り合いながら、冷たい目をして桐生が言った。
「やっぱりお前、その寢不足、スマホゲーのイベント走ってるせいだな?」
ばれたか。
朱葉は、心の中で、盛大に舌打ちをした。
次回、桐生和人渾のお説教タイムVS課金兵黙ってろ早乙朱葉 ファイッ
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