《腐男子先生!!!!!》14「課金してるんじゃない。課金させていただいてるんだ」
大前提として。
現代において隆盛を極めていると行っても過言ではないパソコンやスマートホンによるソーシャルゲームには、いわゆる「ガチャ」という、「レアアイテムを出すため」の課金と、「イベント」という期間限定のコースを攻略する(俗に言う「走る」)ための課金との、二種類がある。
もちろんイベントにも限定のガチャはつきものであるし、レアキャラはいればいるほど有利には働くのだが、イベント攻略において最後にものを言うのは、そのゲームにかけられる「時間」である。走るための課金は、それこそ時間を金で買っていると言っても過言ではない。
そして、早乙朱葉は現役高校生であり、休日でなければ晝間の時間をゲームにつかうことは難しい。課金できる財力も限られているので、というわけで、ただひたすら夜にゲームをプレイしなければならないのだが……。
「だってうちの學校って基本的にスマホ止じゃない? 授業中にってるのばれたらまず取り上げだし、休み時間にトイレに駆け込んだって、1曲プレイが限度だもん!」
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スマホとともに差しれされたホットスープの缶を飲みながら、朱葉は保健室のベッドでゲームをすすめている。
その隣には、タブレットをさわる桐生が丸椅子に座って、神妙に説教をたれていた。
「だからって寢ないでゲームして學校來てたら倒れるのは想定の範囲だろ。若さを過信しすぎ。力を擔保にしすぎ。一度壊れたっていうのはそうやすやすとは戻らないし、今した無理が十年二十年後にどんな形でおそってくるかもわからないんだから。なくとも、寢られないときの方がきちんと食べる。ちょっとずつでも休養をとる。長丁場の現場の基本のはずだろう」
「やったーーーーーフルコンボでた!!!!!」
「おめでとう俺の話聞いてた? ねえ聞いてた? 先生渾ですごくいいこと言った気がするんだけど聞いてた?」
「聞いてました聞いてました聞いてたけど學生には時間と効率が命、一分一秒が貴重なの!! 先生だって若い時からやりこんでたんじゃないの!?」
「やってた。そりゃめっちゃやってた。俺の學生時代はMMORPG先駆けの黃金時代で豪速のタイピングはそこで培われた。ああ忘れがたき24時間耐久チャット。あの時俺はオフラインでもオーラを発していた。お、俺もフルコンった」
「そんなひとのお話はきーきーまーせーんーっていうかほんとマジでこんなに今回のイベント走る気なかったんだよ!! このイフこと『I《アイ》F《エフ》~アイドルファンタジー~』だって事前登録の特典目當てというか一応もしもハマりだったときのための保険にはじめておいただけだけったのに!!」
「今回のイベント後半追加キャラはずるいよな」
「そ、れ、な!!!!!!」
ばん、と朱葉が保健室のベッドを叩いた。
「ほんとハマるつもりじゃなかった走るつもりじゃなかったこれまであ、ちょっと可いかな~って思ってたコイツのこの二面はなくない!? ちょっとなくなくなくない!? こうなったらストーリーも最後まで集めなくちゃだしどうしてもランキング特典だって狙いたくなっちゃうじゃない! ボイスつきエピがランキング1000位までなんて鬼だよお~~寢ないでやっても3000位の壁絶対こえられないんですけど!!」
「わかる。あ、CHANCEタイム」
二人黙々とゲームを進める音だけが響く。朱葉の調は最悪だったはずだが、萌え話している間にどこかに吹き飛んでしまった。
萌えはにいい。科學的にも証明されるはずだ。
「ねぇ」
CHANCEタイムというボーナスタイムが終わって、ちらりと朱葉が桐生の方を見る。同時にはじまったはずの、CHANCEタイムがまだ、持続している。
ドスのきいた聲で、朱葉が言う。
「先生、課金してるでしょ」
「…………」
丸椅子に座った桐生が、タブレットの畫面を隠すように背中を向ける。
「おい、聞けよ」
「違う」
華麗にフルコンボをキメながら、桐生が言う。
「課金してるんじゃない。課金させていただいてるんだ」
「あ"ぁ!?」と朱葉が子らしからぬすごい聲を出した。
「経済を回しているなんておこがましいことは言わない俺が回してるのは自分の熱でありリビドーであり味わわせていただいてるのは課金が出來る喜びである!」
「うるせえ!」
「孝行したい時に親はないように、課金をしたいときにすでにコンテンツはないかも知れない! 今! ここで! 課金が出來る喜び! 出會い! それは奇跡! たとえガチャが悪い文明だとしても! 俺はこの悪さえする!」
「じゃあなんですか!! 課金の出來ない子供はお呼びじゃないっていうんですか!!」
「そうは言ってないが」
くるりと振り返り、タブレットが見せられる。
「ここは俺に任せて子供は寢てなさいってことだ」
──現在ランキング31位。
驚愕の二桁。間違いない。こいつはガチだ。
くらり、と朱葉が貧ではないめまいを覚えた。
「ボイスつきエピソードはいつでも見せてあげるから安心してくれていい」
その言葉に、わーん!!、とひと聲をあげて、朱葉はベッドに潛り込んだ。寢ないでやったのに。フルコンだっていっぱいキメたのに。重課金兵には敵わないというのか。大人ってずるい。ずるすぎる。ていうかいくらつぎ込んだんだ。
心折れてた朱葉を、ぽんぽんとシーツの上から叩く気配がして。
「まぁ、それはジョークとしても、俺は好きなものには末永く課金したいんで」
優しい聲が、降ってきた。
「くれぐれも、元気でいてくださいね、早乙くん」
ちょうどよく、保険醫が戻ってきた音がして。桐生は「今日はすぐ帰るように」という言葉を殘して去っていってしまう。
「くそ……」
朱葉は思わず毒づく。
子は大変なんだぞ。子供だって、すごく大変なんだ。
「くそくそくそ~~!!!」
そんな口汚い言葉を、シーツの中で思わずこぼしてしまうけれど。
冷たかったはずの指先は、なんだかぽっかりあたたかかった。(多分、半分くらいは、攜帯のタップのしすぎだけれど)
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