《腐男子先生!!!!!》32「友達なのに味しい、ってやつですね」
申し訳ありませんが、バイトにっていただけませんか。
巫服を著た朱葉がそう言ったなら、言われたキングは「?」と自分を指したあと、「20分待って」と秋尾とともに車に戻り、次に戻って來たときには、清楚な黒髪になっていた。
一車に何が積まれているのか。四次元ポケットなのか。
著付けは朱葉が教えるまでもなく、「仕立てがいい」「ぬぐ時製撮りたい」とぶつぶつ言っていたけれど10分で済んだ。
「出來た」
現れたキングは、長い黒髪をゆるやかにまとめた、世にも神々しい巫だった。
「ヤベー……」
朱葉が思わずあっけにとられていると、その隣で「しい」「素晴らしい」「泣ける」「神作畫」「畫像ソフト無修正」と男二人が拍手をしていた。語彙力は死んだ。
「足袋がし大きい」
そうキングが呟くと、秋尾が桐生の首をがっとつかみ、「今すぐ!!」とんで消えていった。その様子に(教育が行き屆いている……)と朱葉は心した。
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「仕事、教えてもらえる?」
「あ! はい! 今すぐ!」
駄目だ自分も教育されてしまう、と心の底から思った。キングのファンである、友達の夏が知ったらくびり殺されそうだった。
仕事といっても、仕事はお守り売りと簡単なお祓いくらいで、とりあえず、お祓いをしている間のお守り売りが任せられれば、と説明をした。
「わかった、売り子だけ」
「そう、売り子だけです」
話がはやいし、この分だと問題はなさそうだった。キングは想があるわけではなかったけれど、こんな人巫に売ってもらえるのだから、むしろそれはご褒では? と朱葉は思った。
そして二人、ストーブを背に並んで座る。
「あの……」
「うん?」
そわそわと、顔をうかがうようにして朱葉が尋ねる。
「キング……しか……お名前知らなくて……すみません……」
「ああ……」
キングはし考えて、靜かに答えた。。
「キング、でいい。二人ともそう呼ぶし、慣れてるから」
「はい!」と嬉しくなって朱葉が頷くと。
「……なんて呼んだらいい?」
むしろ問われて、朱葉はびっくりする。
「あ、えっと、なんでも、いいです……。早乙朱葉、です。すみません。名乗るのも遅くなって……」
「大丈夫。名前はわからなかったけど、ジャンルはわかってたから」
問題ない、といわれて、そうか、と思う。
(いや、そうか?)
ちょっとだけ思ったけれど、そうかもしれない、とも思う。
「桐生から、迷を被っているんだろう」
「まあ……それは……否定は……しませんが……」
ずばりと言われて、ぽりぽりと頬をかきながら。
「私としては、なんか、ちょっと面倒な、オタク友達みたいなじですよ。いや、先生なんですけどね」
その、面倒なオタク友達であること自が迷といえば迷な話なのだが。
まあ、それなりに、楽しくなってしまっているので仕方が無い。
「わたしとしては」
淡々と、お守りを眺めながらキングが言う。
「上手くいってくれるといいと思う」
え、と思って、朱葉はキングを振り返る。
「あんなクズの、面倒を、見てくれる奴は、なかなかいないと思うから」
それな、と思わず言いたなってしまう。
いや、面倒を見ているつもりはないんだけれど。
朱葉はし、ぼんやり考えて。
「上手く、って、なんですかね」
うつむいて、ぽつりと言った。
「難しいです」
その答えに、キングの手が、のびてきて。
ぽんぽん、と、頭を、なでてくれた。
(あーなんか……)
めっちゃドキドキする……。ときめく……。と朱葉が思っていると、すごい勢いよく車が停まった。
「お待たせ!! でもごめんジャストのサイズの足袋見つからなかったから! 今すぐ仕上げる!」
秋尾が駆け寄ってくると、社務所の勝手口にキングを座らせ、自らそこに膝をついて、白い足袋をはかせると、そのまま針と糸でサイズを調節しはじめた。
針を通し、くるぶしにを寄せて糸を切る。
その景に思わずくらりとして、
「鼻でそう……」
そう朱葉が言うと、いつの前にか目の前にいた桐生が、
「わかる……」
と額をおさえながら呟いた。
「え、先生は友達でしょ!?」
「いや、友達は友達なんだが。特に普段の秋尾にぴくりとくるものはまったく全然ミリもないんだが」
ぐっと拳を固めて、桐生が言う。
「二人のことはBLとして推してる」
「あー」
わかる。ここまでくると、次元とか友達とか別とか関係ない。
「友達なのに味しい、ってやつですね」
妙に納得して、しみじみとそのありがたい景を眺めていると、
「ところで早乙くん」
「はい」
「これ」
「なんですか」
渡されたのは、既製品の、一枚の。
──年賀狀、だった。
「え、なにこれ」
「今買ってきた」
「え、だから何ですか?」
「年賀狀下さい」
「いやいやいやいや」
「出來れば直筆で」
「強じゃない? いきなり新年から煩悩まみれじゃない?」
「お願い俺にお年玉を」
「おかしくない? 先生が生徒にお年玉せがむのおかしくない?」
「住所は書いておいたから」
「ガチかよ」
個人報を知ってしまった、と思うよりも先に引く。どうやら今年も、桐生は桐生のようだった。
「できた」
そうこうしている間に、早業でキングの足袋が仕上がって。
「はいじゃあ撮影りまーす」
いきなり撮影會がはじまった。
「えっ!?」
「大丈夫! 迷にならないようにするから!!」
魔法のように一眼レフが出てきて撮影がはじまった。わけがわからないが、町會の人もほほえましく見ているのでまあ、いいか……と思っていたら、「よかったら早乙ちゃんもって!」と言われて慌てて首を振る。
「わたしは! 無理です!」
「何が無理?」
即座に聞いたのはキングだった。
「いや、ええっと、だってそんな、キングと寫真とか、ええっ」
桐生に助けを求めるように見るが、目をそらされた。
(あの野郎!)
秋尾は止めるくせに、キングは止めない。わかりやすい。でもわかる、と朱葉も思って、赤い顔を背けながら。
「いや、そんな、顔じゃない、し……」
「顔。OK」
「うそーーー何がOKなんですかあああああ」
即座に出てきたメイクボックス(なんかごつい鞄みたいやつ)に捕まる。視界の端で桐生が合掌しているのが見えた。「お客來たらいいま~す」と秋尾もノリノリだった。
「いや、ぎゃーーー!!」
あれよあれよという間にメイクを直されて、髪も結びなおされ、かためられた。いつもの、朱葉のプチプライスの安いメイクじゃない、顔が変わってしまう、と思うし。
(ぞくぞくする)
ちょっとだけそう思うから、ヤバイどころの騒ぎじゃなかった。
「一丁上がり」
そして豆腐のように仕上がってしまった。怖くて鏡もろくに見られないけれど、「神業」「最高」「上手い」「別人」「いける」と男陣が拍手してくれたので、恥ずかしいことにはなってないと思いたい。でも拍手されるのは恥ずかしかった。
「おうい巫さん、鈴祓い頼む~」
そこで聲がかかったので、朱葉があわてて、拝殿の方に向かう。
「おや、こりゃ、人な巫さんだな!」
參拝客のおじさんに褒められて、照れてしまう。もしかしたら、ただのお世辭じゃないかなと思うから。
もちろん、キングのリアル畫像修正技のおかげだけれど。
しゃんしゃんと鈴を持ってお祓いをして、軽く神酒をついてあげたら、次にまたお祓い希の參拝客の姿。
「「お願いします!!」」
秋尾と桐生だった。帰れよ、と心の中で思いながら。
「祓ってしいものあったら出しておいて下さいね」
と神主の手前もあって、営業スマイルで言う。
スッと、ふたりとも元から攜帯電話を出してきた。
絶対福袋ガチャだな、と心から朱葉は思った。
結局夕方まで、秋尾と桐生にもつきあってもらうことになった。
本人達はめちゃくちゃ楽しそうだったから、いいのだが。
巫服をいで、たたんでいると。
「さっきは、ごめん」
ぽつんと、聲がかかった。
え、と振り返ると。
キングは、とても神妙な顔で。
「君達は、今でも、上手く、いってると思う」
そう、言ってくれた。一日、朱葉と桐生を見て、そう思ってくれたのだろう。
「いえ」
朱葉は軽く、苦笑して。
「今日は、ご一緒できて嬉しかったです、キング」
そう、心から言った。
そうして、寫真を送るための連絡先換をして(キングとの間であれば、やはり桐生は何もいわなかった)
そうして新年から、破天荒な一日は終わった。
「あと、は……」
家に帰った朱葉が、ぴらぴらと眺めるのは、一枚の、年賀狀。
幾帳面な字で、住所とそれから。
今年もよろしくお願いします、の文字。
はいはい、と呆れて思いはしたけれど、せっかくなので。
もらったボールペンで描いてやるかと、ローズピンクの、ペンをとった。
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