《腐男子先生!!!!!》39「ここでは先生って呼ぶのはやめよう」

偶然というには大変意図的な指向じないこともなかったけれど、朱葉は結局、桐生とコラボカフェに向かうことになった。

まずいとは思ってはいたが、共通の友人どうしが行ってこいというシチュエーションなのだから、やましさをじることがやましいことだ、と無理矢理己を納得させて。

納得さえしてしまえば、特別気が重い話ではなかった。それどころか、桐生は朱葉の目にもわかるほど機嫌がよかった。

「嬉しそうですね」

店に向かう途中、朱葉が言えば。

「カフェ系はなかなかいけない」

とにこにこしながら桐生が言う。

「意外」

金にを言わせて限定グッズを買い漁ってそうなのに、という先観はこれまでの経験に蓄積された拠がある。

しかしため息じりに桐生は言う。

「男ファンも多いコンテンツならためらわないんだけどな。男子がひとりで行くと、やっぱり悪目立ちするから……」

その言葉に、朱葉はなるほど、と思う。確かに、別に石を投げられる対象でないとはいえ、腐男子は悪目立ちする。カフェは寫真をとっている人も多いから、桐生にはリスキーな場所になってしまうのだろう。

「でも、ほとんどみんな推ししか見て無くないですか?」

「そうとも限らない」

あれ、と指さしたのは、カフェの外、オープンスペースに設けられたランダムグッズの換所だった。

「あー……」

「みんな見てる。かなり見てる。隣のテーブルの人間が誰推しなのかを。ちなみに俺は対面じゃなく郵送換派だけどそれはそれで転売廚みたいに言われるのは悲しい」

やっぱり転売屋は死すべき、といつもの過激思想で呟いた。

「ま、それじゃあ、今日は楽しみましょうね。せっかくだし」

「とりあえず推しはわけあおう。俺はこの作品黃だ」

「あ、わたし青です」

ぐ、と親指を立てて、カフェにっていく。

「はい、二名様ですね~。こちらにどうぞ!」

されたテーブル、まずそのテーブルクロスのを一瞥して。

「っしゃ!!!!!!」

あげはがガッツポーズをとった。隣の桐生は、あーーと軽く息を吐く。

コラボカフェはテーブルごとにキャラクターのテーブルクロスが置かれている。今回は朱葉の推しのテーブルに案されたようだった。幸先がいい。

「嬉しいんだけど~! えー何たべよ~!!」

まず寫メをとりまくり、メニューを開く。

「まずメインキャラの攻略はしておきたいよな。各キャラクターごはん系とスイーツ系、そして問題のランダムコースターがついてるドリンクだから、俺はごはん系メインに食べるからスイーツ系の攻略頼ってもいいか? あ、俺の希だから、ちゃんと俺が多めに支払うので」

「ガチじゃん。経験ないんじゃなかったの?」

ない中で最大の楽しみを得たい。すべての味を食べてみたい。そしてコンプしたい」

「はいはい、任せます」

先生の好きなように、と朱葉が言うと、「じゃあドリンクだけ決めて」と言われ、さくさくと注文が済ませられる。

「あと」

ちょっと一息ついたところで、桐生が言う。

「ここでは先生って呼ぶのはやめよう」

「あ」

そうか、と朱葉が思う。確かに、ここで大聲で先生というのは、いいことはないだろう。配慮が足りなかったな、と朱葉は思う。

プライベートで、オフなんだから。

先生と生徒じゃ、今はないんだから。

その事実と改めて向き合って、ちょっとだけ張した。背筋がのびた。

「俺も早乙くんとは呼ばないから」と言われて、それにはし驚いた。

「いや、でも」

いきなり、名前で? あ、ハンドルネームか、と思ったところで、桐生がを乗り出し、真剣な表で言う。

「つきましては、俺が『先生』と呼ばせてしい」

「待って」

おかしいだろ。

お前が呼ぶのかよ。

「いや、いきなりハンドルネームで呼ばれるよりかはいいけどね!? その発想はちょっとなかったかな!?」

「俺のことはよければあだ名をつけて下さい!」

「推しメンに自分のあだ名をつけさせようとする痛いファンみたい言い方するな!」

思わず全力で突っ込んでしまう。

同時に力もしてしまうが、なにかわくわくした様子なので、朱葉は呆れながらも考える。

(かずくんってのは、なしだしな……)

別に、他意はないけれど。そう言ってた相手が、他にいたから。

「あだな……あだな……きりゅう……かずと……あ、じゃあキリ……」

「ちょっとまって」

顔をおさえて桐生が言う。

「そこはまって、結構好きなスーパーチートイケメンキャラと同じ名前だからちょっと心の準備が」

「あーそーかよ」

映畫も評判いいですよね、と思いながら、相変わらずめんどくさいじの桐生を橫目で見て、もうモブとかクズでいいかなと思いながら、そう言って喜ばれるのもなんだか酌に障る。

「お待たせしました~」

そうこう言ううちに、最初のドリンクが運ばれてきた。コースターが、裏側にして置かれる。

「…………!」

「…………!」

同柄で推しなし。

「盛り上がってきたな……」

「待って!! ドリンクは飲んでからだから!!!!」

「もう飲んだ」

「はや!!!!!!!」

「俺達の戦いはまだはじまったばかりだ!!!!!!!」

呼び方も決まっていないのに、戦いばかりがはじまっていく、ドリンクファイトだった。

がんばってるのにデートにならない。

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