《腐男子先生!!!!!》45「あなたにとって、俺はなんですか?」
「先生! これ! 通っていい道なの!?」
「大丈夫大丈夫俺の対イベント用のショートカットだから通れることは実証済み」
「それ実証してるだけだよね!?」
高速道路からおりると、私有地にも見える道路を桐生は走していた。
「後ろ、ついてきてるの?」
「んー今のところはないと思うけど」
さて、どうしたものかね、と運転の手は緩めずに桐生は言う。
「スペースに変なメモを殘したり、いきなり話しかけてきた変な男がいたわけだ。見覚えは? 客として來たこともない?」
「あとにも先にも男客は先生だけです!! 見覚えは……ないんだけど……」
「心當たりは、ある?」
「ある、っていうか」
朱葉はすでに、今日あったことは桐生には話していた。けれど、まだ話していないことがあった。最初に言おうとはしたのだけれど、ためらいが、どうしても、強くて。
何にこんなに抵抗があるのかもわからなかった。おそれ、なのだろうか。
でも、黙っていることも出來なくて、覚悟を決めて口を開く。
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「SNSで、メッセージ送ってきたひとだと思う」
數日前に。
「わけわからないけど、同じメッセージだったし。誰だかわかんなかった。ブロックした。……ただ、相手、わたしのこと、知ってると思う」
顔をそらして。のりだした外を見ながら、朱葉は言う。
「わたしのこと、っていうか、……本名とか、學校とか」
「は?」
ここまで強くものを言うということをしてこなかった桐生が、思わず、という風に言葉を返した。
「……言われたんです。本名と、高校名」
「その、男に?」
「ていうか、最初に、SNSで。外から見えないメッセージだったけど。誰だか知らないけど、相手はわたしのこと知ってて、わかってて、もしかしたら、」
息がしにくい。絞り出すように言った。
「もしかしたら、先生のことも」
そうか、と思った。
先生のこと、が。
ばれるかもしれないって、ばれているのかもしれないって思ったのだ。それが、怖かったんだと、言ってはじめて、朱葉は気づいた。
と、急にブレーキがかかった。
「あいたっ」
思わずつんのめると、ぱっとかばうように腕がのばされて。
「いやいやいやいやいや」
桐生が近くの駐車場に車をれながら言う。
「逃げてる場合じゃないだろ」
真顔だった。「へ?」と朱葉が呟く。
車を一旦停めた桐生が、手を出して。
「攜帯ロック外して貸して。他を見られたくなかったらそのメッセージ畫面だけでいいから。すぐ探す。今探す」
「探すって……」
「今時SNSが安全だなんてフィクションにしたっておめでたすぎるし、思っちゃいないだろう? 子高生のアカウントから隠してる本名割り出して學校も特定するなんて完全にストーカーだし間違いなく犯罪。直接法律に抵していなくたって、その予備軍として対応してあたりまえ」
「え、でも」
朱葉が真顔で言う。
「先生も出來ますよね?」
「俺はメッセージで送ったりしないから無罪」
いやいやいや? と思ったが、言われるまま、攜帯を渡す。
桐生は畫面を見て今度は自分の端末を高速でかしながら言う。
「メッセージ來たってことは相互でつながってたってことだよな。いつも発言もない、他にフォローしている相手もいないっていうアカウント、フォローした覚えあるか?」
「ない……と思う。一応、直接の面識がなければ、挨拶してからつながってるし……」
「あ、発見。フォローしたのちょっと前みたいだな。ちょうど、このアカウントと、このアカウントをフォローした間。覚えは?」
桐生が提示したアカウントを見ながら、朱葉が言う。
「どこかの……イベントかな……。わかんないけど……」
「じゃあとりあえず、一度とったアカウントを切り替えてるっぽいな」
作業を続ける桐生に、朱葉が片手をあげる。
「先生、ちょっと待って」
「何か思い出したか」
いや、と朱葉が冷たい顔でいう。
「今のどうやって調べた? わたしのフォローリストだよね? ブロックしちゃったから、前後のフォロワーさんとかわからないはずだよね?」
「急事態だからそれは今は置いておこう」
「そうですね……、って言うと思ったか!!!! ねえ! ちょっと!! 怖いんですけど!! 先生わたしのフォロー把握してない!? よく相手しか見てないはずの返信にもお気にりがつくなって思ってたけど!! おかしいよね!? わたしのフォローしたひとフォローしてるんじゃない!?」
「大丈夫だ!! リストにいれてるだけ!!」
「大丈夫じゃねえよ!!!!」
お前も有罪だよ!!!! と朱葉が心からぶ。
桐生にはすみやかに黙殺をされた。
「俺が代理でメッセージ送ってもいいんだけど、さっきのタクシー調べた方が早いな。タクシー會社とナンバー覚えてるから、聞いてみる」
「聞いてみるって……」
慌てる朱葉に、桐生はためらいもなく言った。
「直接會う」
朱葉は驚きを持ち上げようとして、シートベルトにはばまれた。
「だ、だめだよ!! 危ないよ!!」
「危ないよ。危なかったし、今も危ないんですよ、早乙くん」
低い聲で語られる言葉は、靜かだった。
「だから、その不安を俺が潰して、何がまずいの?」
「だって……」
もしもばれてしまったら。桐生と自分のことが。
眉を下げてけない顔をしている朱葉に、桐生は深々とため息をつく。
「あのね。早乙くん。確認しよう」
桐生が、運転席から朱葉の方を向いて、まっすぐ目を見て言った。
「あなたにとって、俺はなんですか?」
朱葉にとって。
桐生は。
なにか、と聞かれたら。
呆然としたように、朱葉が答える。
「めんどくさいファン……」
桐生がこけてクラクションがなった。「ちょっと! 先生!」「悪い! 違う! 違わないが!」とやりとりをして。
「先生でしょう」
呆れたように、両手でハンドルに突っ伏すみたいにして、桐生が答える。
「俺は、先生で、早乙くんは俺の生徒でしょう。生徒が不審者においかけられて、インターネット上でも特定されてつきまとわれたら、それを相談されたら、心配して、手を打つ。おかしいことありますか?」
「……ないかな?」
まだ、半信半疑で朱葉が言う。
「ないです」
そう、きっぱり言われたら。そう、かもしれない。ゆっくりと朱葉がシートに沈んでいく。そうか、相談して、対処してもらうのは、何も変じゃないのか……。拍子抜けしたような気分だった。もちろん、個人的に車で迎えにきたりとか、そういうことは、おかしいかもしれないけれど。
何か、が、あるより、よっぽどいいもんな、と朱葉も納得することが出來た。
桐生はタクシー會社に電話をいれながら、呼び出し音の間にぼやく。
「っていうかそういうことがあったらほんと先に俺に言ってくださいよ。マジでこれでぱぴりお先生のペーパーが一枚でも落ちたとしたら俺は犯人をちょっと車ではねてからバックで念に息のを止めなきゃ気が済まないんだから」
(やっぱりめんどくさいファンでは?)と思ったけれど、電話がとられたようで、口をつぐむ。桐生は自分の立場をすぐに延べ、社のタクシーで生徒が悪質なつきまといをけたようなので詳細を知りたい、守義務があるのならこのまま警察に行く、と落ち著いた、けれど強固な姿勢で言った。
しばらくの間があって、桐生がし、外の景を見てパーキングの名前を言うと、電話が切れる。
固唾をのんで見守っていた朱葉が、何か言うより先に。
「今から來るそうだ」
と桐生が言う。へぇ、と返しそうになって、「へぇ……ええ!?」と変な聲が上がる。
「まだ當人達が乗っているし、説明と謝罪をしたいって言ってるから、言い逃れはしないとは思うけど。早乙くんは、念のため車から降りないように」
淡々と言われて、朱葉は眉を寄せながら、一応、念のため、怖いので、言った。
「……轢かないでね……?」
その答えとして、「どうしよっかな」と桐生が呟いた。細められた目はあんまり、冗談では済まされなさそうだった。
一番つらいところは抜けた気がする。もうちょっとですよ。
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