《腐男子先生!!!!!》50「どうぞ、よろしく」
外では桜が満開らしい。
高校三年生になった早乙朱葉は、出かける前に、まだ軽い鞄に、「そういえば忘れてたな」と薄い本を一冊詰めた。不測の事態があっても困らないように、中の見えない袋にいれて。
先月末のイベントで、桐生から頼まれた同人誌だった。帰り際に々あったものだから、すっかり渡すのを忘れてしまった。
朱葉はともかく、桐生の方も忘れていたのだから、彼もよほど慌ただしい気持ちだったのか、転していたのか。
いつも通りに家を出て、學校に向かう。電車の中はいつもより、心なしか混んでいる。スーツの人間も多いから、社會のはじまりも予させた。
相変わらずゲームのストーリー消化をして電車から降り、學校に向かう。下駄箱から見えるホールには、人だかりが出來ている。
「あげはー!!」
その人だかりから、手をぴょんとあげて振ってきたのは、友人である河野夏で、朱葉に飛びつくと喜びを抑えきれないように言った。
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「おんなじクラスだよ! 3-3!」
「マジで? やったね」
朱葉も笑顔で言ったけれど、それほど意外ではなかった。可能的に、高いのだ。朱葉も夏も、私立文系大學を希に出していたから。
朱葉の學校は、公立高校でも中程で、進學校といえるほどではない。もちろん難関大學を目指す生徒もいるけれど、朱葉は都でいけるところがあればそれでいいかな、と思っているし、親も強くは言わない方だった。
「それでねそれでねっ」
夏はひどく浮かれた気持ちを隠さずに、を揺らしている。
「? どうかしたの?」
「もーめっちゃサプライズ! 自分の目で確かめてよ!!」
掲示板の前まで引きずってこられると、朱葉が名簿をぼんやりと眺めた。自分の名前はちゃんとあるし、あいうえお順でそのいくつか上に、夏の名前もある。「もーそこじゃなくて! もっと! 上、上!」と促されるままに、視線を上げていけば。
「…………は?」
朱葉の目が、點になった。
名簿順に座る、騒がしい教室。クラス替えとはいえ、文系クラスで半分は顔見知りで、それほど新鮮みはない。それでも、沸き立つ心があるのだけれど、朱葉はまだ、混から立ち直れていなかった。
チャイムが鳴り、ほどなく、教室の扉が開く。
「あー、あってるよな」
教室の番號を確認しながらってきたその姿に、ひゅー! と誰からともなく上がる聲があった。
「靜かに」
教壇に立つ、その姿を、朱葉は半眼で見詰める。心なしかいつもより整った髪型。きっちりとしたスーツ。そして、相変わらず涼しげな顔つきで。
「今年一年、このクラスの擔任となった、生擔當の、桐生和人です」
どうぞ、よろしく、という言葉に。
(聞いてないんですけど!?)
と朱葉は、冷たい形相。
桐生が一瞬朱葉の方を見て、気まずさを隠すように目をそらす。
「昨年まで副擔任として2組をもっていましたが、社會の小沢先生が早期退職となり、擔任をけ持つことになりました」
心なしか、挨拶も言い訳がましい。
「これから始業式になるわけだけど、式典のあとのホームルームでは、クラス委員を決めるから……」
「先生それよりクラス會やろ~!」
「親睦深めよーよ!」
調子のいい生徒の言葉に、「クラス委員がさっさと決まって時間が余ったらな」と返している。
なんだかんだと、人気なのだ。若くて顔もよくて、授業も上手くて生徒のあしらいも上手いから。子だけではなくて。本來ならば一年生から擔任にもつものだろうが、いきなり験生である三年生のクラスをもたされたのも、期待をされてのことなのかもしれない。
(そういえば前、部活の顧問もやらないかとか言われてたっけ)
それは逃げ切ったようであるのに、ここにきて擔任。しかも……朱葉の擔任になるなんて。
別に、嫌だと思ったわけではない。桐生の希してこうなったという結果だとも思っていないけれど。
(言ってくれたらいいのに)
わかってたくせに。と思った。ほんの數日前も會って、二人で話して。絶対あのときにだってわかってたはずなのに。
わした言葉を、思い出す。
(守るから)
こんなに近くに來て、どうすんだよ、ほんとに。
「……で、會えないし」
始業式になる前に、擔任に盛り上がっている夏を置いて生準備室に來たのに、鍵がかかっていた。
「職員室かな……」
擔任ももったわけだから、多分ここだけじゃなくて職員室にも機が出來たのかもしれない。忙しくもなるのだろう。
(もうあんま、會えないのかな)
擔任で毎日教室では會えるのだろうけど。
そういうことじゃないのだ。
先生と、生徒だけど。それだけじゃない、はずだったのに。二人の、放課後を、大事にしたいって。言ってくれたと思っていたのに。朱葉も、思っていたはずなのに。
(なんだかなー……)
ポケットの中でスマホをさわる。
メッセージなら送れるだろう。でも、そういうことじゃないのだ。
そういうことじゃない。じゃあ、どういうことかは、わからないけれど。
どこか肩を落として、戻っていく姿を。
離れた職員室の窓から、桐生が眺めていた。
波の新學期編!!!!!
ずっと展開を考えていたんですが、なんとか、なんとかこの方向で……。
どうなる二人の放課後は!?
しばらく続きますぞ。
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