《腐男子先生!!!!!》55「おねーさま!!」

「あ、いたいた! 先生! 桐生先生!」

「お。おはよう、早乙くん」

「おはようございます、先生」

早朝、職員室に向かう階段の途中で、桐生が足を止める。

朱葉が鞄からプリントを取り出しながら、桐生に近寄る。

「これ、委員會なんとか全部埋まりました。昨日放課後會議で渡せなくて」

「ん。ありがとう」

職員室にはらず、そのまま階段で話を続ける。

「別に、ホームルームのあとでもよかったのに」

「でも、ほら今日って、學式じゃないですか」

「ああ……」

おはようございますと聲をかけながら、幾人も生徒が傍らを通っていく。

桐生はぼんやりとプリントを眺めながら、言葉なに言った。

「どう、もうひとりの委員長」

「うーん、よくサボってますけど、頼んだことはやってくれます」

「早乙くんのこと気にってるみたいだしね」

「やだな~せんせいのこともきにいってますよ~」

完全なる棒読みで朱葉が言う。橫目でちょっと恨みがましく見た。

朱葉は腕を組んで、うんうんと頷きながら言う。

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「個人的には日誌がいいかんじです。都築くんの日誌に対する桐生先生のコメントが。換日記みたいで」

人目もあるが故に、桐生が強くツッコめないと思って、朱葉が好き勝手に言っている。橫目のままで、桐生が言う。

「早乙くんの日誌はつれないよね」

「そうですか?」

「もっとご褒くれてもいいよ」

「誰に?」

「新學期を頑張ってる先生に」

「…………」

強くツッコめないのは朱葉も同じことだった。ちょっと上目遣いで睨む。

「……わかりました、じゃあ、先生×生徒の……」

「だが斷る」

即答で言われた。重ねていうが人目もある場所だ。朱葉は顔だけに雄弁に書いた。

(「でもわたしのプレゼン能力をもってすればチャラ男×堅教師の良さを桐生先生にもわかってもらえると思うんですよね」)

桐生も、顔にはださないが雄弁に顔で返答する。

(「ただでさえナマモノは沼深いのに生徒にだけは妄想であっても手が出せませんし手を出されても困るので勘弁してくださいぱぴりお先生の本気でこられたら落ちちゃう」)

どれだけ伝わったかわからないが、なんとなく、心は通じた。

無言の二人の耳に、チャイムの音が響いて。

「予鈴ですよ、早乙くん」

遅刻にならないように、と桐生が歩き出そうとする。

「先生」

ぱたぱたと、急いで駆け上がっていく生徒の靴音を聞きながら、朱葉が言った。

「今日も放課後忙しいですか」

桐生はちらりと朱葉の方を見て。

「…………多分ね」

それだけを答えて、背を向けて去って行く。それだけ、まあ、それだけだったけど。

ごめんね、と背中に書いてあった気がしたから。

朱葉はため息をついて、教室にっていった。

學式はつつがなく終わった。新場を眺めていた朱葉は、その中に、張した面持ちの、靜島咲の姿を見つけて彼のクラスを知った。

晝休みになり、早めに食事を済ませて一年生の教室へ。

教室の隅っこで、小さくなって座っている、髪の長いの姿に。

「さーくちゃーん」

と朱葉が聲をかけた。

びく! と小めいたきで咲が顔をあげ、ぱあっと顔を輝かせて、朱葉のところに走ってくると。

「せんせい!」

「違う」

即答で正す。

「ぱ、ぱぴ……」

「それもだめ」

「おねーさま!!」

「卻下!!!!!!!!!」

そういう問答のあと、おそるおそる、顔をあげて。

「……さおとめ……せんぱい……?」

そう、言うから。にっこり朱葉は笑うと。

「朱葉先輩でいいよ」

學おめでとう、と言ったら、花が咲いたみたいに咲は笑った。

晝休みだけ解放されている屋上に向かうと、春の日差しを浴びながら咲が朱葉に言う。

「朱葉先輩の擔任の先生が師匠だったんですね!」

「咲ちゃん、先生を師匠も、だめ」

朱葉が苦笑して言うと、おっとっと、と咲は口の前で指でばってんをつくった。うさぎのキャラクターを彷彿とさせた。

「先生は、先生、ですね。咲、覚えました」

「そのことなんだけど」

言葉を選びながら、朱葉が言う。

「桐生先生が、ああいう……ええっと……ああいうじなの、學校で、あんまり人に、言わないでしいんだ」

「ああいう、って?」

きょとん、とした顔で咲。

「ああいう……まあ、オタク?」

「オタクで、ぱぴりお先生の大ファンだってことですか?」

ずばっといわれて、朱葉が肩を落とす。

「まあ……そういうこと」

「言いません!! 師匠は、そりゃ、ぱぴりお先生に近しいいわば同擔で! 咲的には嫉妬の嵐ですけども! でも、尊敬すべき師匠ですから!!」

「はは……なら、いいわ……」

あまり心配はしていなかったけれど、どうやら口は固そうだった。とびきり思い込みも強そうだけれど、その思い込みが、今はいい方向に進むと信じたい。

さて桐生にはいつどんな風に伝えようかなと朱葉が思っていると。

「あの……それでですね、先輩……」

「ん? どうしたの?」

「今日、放課後伺わせていただこうと思うんですが……」

おずおずと、咲が言う。し照れくさく、でも、何か期待に満ちた目で。

朱葉にこう、告げた。

「漫研の、部室はどちらでしょうか……?」

ようやくここまできたよん。怒濤の新學期編、もうちょっとです。

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