《腐男子先生!!!!!》59「惚れ直した?」
去り際、車のキーを渡す九堂は、朱葉と桐生に謝罪と謝を延べ、それから、足を止めてしだけ長い話をした。
「お二人の言葉で目が覚めました気がします。靜島先生も、奧様も、俺も、結局なんにもわかっちゃいなかったんでしょう。學校に行けと口にはしますが、俺自、學校にいい思い出なんかひとつもありませんでした。今はこうして靜島先生に拾っていただきましたが、それまでは、それこそ、人間のクズにもならないような生活をしていました。だから、學校になんて無理に行く必要はない、勉學さえ家庭教師で済んでいれば、それでいいじゃないかと言われたら、そうかもしれないと思ってきたんです。そんな中で、去年、お嬢が、はじめて學校に行きたいといいました。行きたい高校があると言いました。本當に、本當に、この件に関しては申し訳なく思っていますが……」
朱葉の通っている學校を、必死になって調べたのだという。
この人と一緒の學校に行きたい、と咲が言ったので。
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「でも、それも、もしかしたら正しくなかったのかもしれません。甘かったのかもしれません。それでも……。お二方と同じ學校に行けることを、今日、一番ありがたいと思いました」
先生と、奧様に代わってと、改めて九堂は深々と頭を下げた。
朱葉は桐生と顔を見合わせ、これといってきのきいたことを言うことは出來なかった。
「結局」
帰りの車で外を見ながら朱葉が言う。
「萌えはと心にいいって話でしたっけ」
「異論はないけど雑なまとめだな。楽しいオタ活のためにリアルも頑張りましょうって話じゃないか?」
雑だと言った桐生も負けずに雑なまとめだった。朱葉はちょっと笑うと、シートにを沈めて冗談めかして言う。
「でも、意外でした。先生、なんかすごいちゃんと、先生みたいなこと言うんだもん」
桐生は運転席でふっと笑うと、前を向いたままの橫顔で言った。
「惚れ直した?」
ん? と朱葉は固まり、それからしばらく考え込むように沈黙して。
「今現在、わたし先生に惚れてるって設定でしたっけ?」
直球で聞いた。返事は
「噓です。調子にのりました。その設定はないです。多分登場人紹介にも書いてないしこれからも書かれる予定はない」
まるで見てきたようなことを桐生は言う。それから、変な話題の振り方を誤魔化すように桐生は言った。
「でも、俺は、ちょっと心配だったよ」
前を向いたままで。普通の聲で。
「早乙くんが、あんまり出來たことを言うから」
意外なことを言われて、朱葉はさっき惚れ直した? と問われた時より、心の置き方に迷った。なんなら、「惚れ直しました?」と聞き返そうかと思って。
「子供は、別にそんなに、出來たこと言わなくてもいいんだよ」
そう、言われて。
頬をかく。
「いや、わたしも、別にそんな出來た人間じゃないんですよ」
考えながら、ぽつぽつと言う。
「でもね、出來た人間でいたいって思っちゃったんですよ」
咲の顔を思い出しながら。
「なんだろ。咲ちゃんも、わたしのこと、すごく好きだから。それこそ、すごく、好きでいてくれるのが、わかって、せっかくだもん。そういうの、大事にしたいって、思っちゃう」
保のような、自己のようなものだろうと、朱葉は自分で分析していた。
「だから、こう言うべきだろうっていうことを、言えたら一番いいかなってことを、言ってるだけで……。言えてるだけのことを、出來てるかっていうと、別の話ですよね」
朱葉の言葉を、黙って聞いていた桐生は、赤信號で車を停めながら、ハンドルにを預けるようにして、言う。
「やっぱり、負擔?」
なにが? と首をかしげると。
「あがめ奉られるの」
と言われたので。
「奉られたこたーないですけど……」
多分。今のところ。
…………自分の知っている範囲では。
好きに、なってもらえるの。神様みたいに言ってもらえるの。
負擔か、と言われたら。
「絵描きの承認求なめないでくださいよ。めちゃくちゃ褒められたいし尊敬されたいし萌えられたいしあわよくば落ちてしいし生産もしていきたいしひとにも生産されたいですよ」
朱葉が一息に言う。半分は照れ隠しだったけど、本音といえば、すべてが本音だ。
「だから、神様のままでいたいと思うけど……これから仲良くなったら。咲ちゃんも、もっと普通にいろんな話出來るんじゃないかと思うんですよね」
「それでも、ぱぴりお先生は神様ですよ」
桐生がぽつりと呟く。
「俺には、ずっとね」
朱葉はなんと返していいかわからなくて、小さく口をとがらせたけれど。
別に、そんなに、悪い気分はなかった。
気を取り直すように、明るい聲で桐生が言う。
「さて、學校のモンダイに、遅くまでつきあわせてしまったわけだけど、何かご希でもありますか?」
突然問われて朱葉が面食らう。
普段はこんなことを言わないんだけど、今日は學校の用件で、朱葉は先生につきあった、という立場であるらしい。だから多分、何かをおごるとか、そういうことを想定していたのかもしれないけれど。
「じゃあ、先生。せっかくだから、ちょっと、わがまま言ってもいい?」
上目づかいに朱葉が、いたずらっぽく笑った。
「ここーーー!! めっちゃ來たかったのーーー!! 出來たばっかりだって聞いたからー!!」
桐生に車を走らせて連れてきてもらったのは、郊外の大型畫材ショップだった。
「見て!!!!! この!! 特殊紙の棚!! やばい!!」
「おっ斷裁もしてくれるんだって。いいのでは?」
「めっちゃいいでしょ。たぎる~~」
「でも早乙くんの部數でコピー本は鬼では? いろんな意味で」
「先生が言うほどは出てませんよ。突発本イベント売り切りなら……」
「やめて行けないファンが泣くやつ」
「先生あげるってば」
「そういう問題ではないのです」
わいのわいのと店舗の中を楽しく見ながら、買いを済ませる。
と、とある棚の前で朱葉が苦悶する。
「あーーーー」
お、なんだなんだ、と近くを見ていた桐生が近寄ってくる。棚に張り付き朱葉が言う。
「トレース臺新しいのめっちゃしい……」
「持ってないの?」
「持ってる……でも古いの……重くて……熱くなる……」
おさがりで近所のおねーさんからもらったものだった。
「買えばいいのでは?」
大人はすぐそういうことを言う。
「しい……けど、絶対いるってもんでもないんですよね……。たまーに書き直しの作業の時に使うぐらいだし、カラーはもうアナログ塗りしてないし……今困ってるわけじゃないし……」
あとやっぱり、安くないので気軽には買えない、と朱葉が言う。
桐生からすれば高くはないかもしれないけれど。
同人誌が十冊以上買えちゃうなあ、と思うと、朱葉にしてみればやっぱり、安くはないのだ。
ふむ、と桐生が頷いて。
「──合法的に、これ、ただで手にいれるような提案、聞く?」
そんなことを、朱葉に持ちかけた。
第二章最終話、このまま日付変更線後に更新予定です。
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