《腐男子先生!!!!!》63「つまりこの白は特殊裝丁なわけですよ」

朱葉が所屬している漫畫研究同好會は、積極的に活しているのが朱葉と一年生の靜島咲くらいなので、必然的に朱葉が部長ということになる。

ないながら備品もあるため日中は施錠されている。一応、放課後の活中は鍵をかけないという決まりはある。

どんなに後ろめたい活をしていても、だ。

その日放課後しばらくたってから、同好會のドアをあけた桐生は、機の上に山と積まれた薄い本になからず驚いた。

「なんだなんだ、狩りの果か? 品評會か? まーぜーて?」

「いーいーよ、って、いや、そういうわけじゃないんですけど……」

ひとり殘って薄い本を読みふけっていた朱葉が顔を上げて言う。

「咲ちゃんと昨日、特殊裝丁の話で盛り上がってて、お互いのこの特殊裝丁がスゴイ本を持ち寄ろうってことで」

「どうしてそういう楽しい行事に俺も呼んでくれないんだ! 丸つけサボってくるのに!」

「先生は仕事してください!!」

そうなんですけど~俺の寶庫だって火を吹きたいわけで……と桐生が椅子に座って薄い本を眺める。

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「おお、すごい。これ前のコミケで印刷所が出した変態裝丁見本だ。よく買えたな」

「あ、その辺咲ちゃんのです。わたしなんていつもフルカラーにクリアPPかけるだけで、そんなに裝丁フェチでもないんですが、咲ちゃんかなりそっちも好きらしくって」

見てるだけで面白いですよ、と朱葉。

朱葉は本作りにそれほど予算があるわけではないので、フルカラーの表紙が刷れれば十分、スタンダードにクリアカバーをかけ、気が向けば遊び紙や、表紙用紙にこだわるのが関の山だった。

「大丈夫俺はぱぴりお先生が大學に行ったら絶対分厚い再録集特殊裝丁で出してくれるって信じてるから」

「いきなり重い信頼を預けないでくださいますか?」

「なんなら印刷費は俺がもつから!!!!!」

「なんでもお金で解決しようとしない!!」

朱葉が叱るが、慣れたじにけ流される。

「でもないの? ぱぴりお先生的に。湯水のようにお金があったら使ってみたい裝丁」

「湯水のようにないからあんまり考えたことないですけど……。ハートのホログラムとかですか?」

「においのする表紙とか」

「それはあんまりいらないかな? 端のレースカットとかでしょうか……」

「あ! 角丸加工いいじですよ。ぱぴりお先生の絵柄的に」

「そうかな……。そこまでいかなくても、使ってみたい特殊紙はありますよね。……先生的には? してみてしい加工ってあるんですか?」

「そう改めて言われますと。あー……ぜひ。今すぐ。これからでも……」

「なんです?」

「蛍ピいれてください!!!!!!!!!」

お、おう、と朱葉が返事をする。蛍ピとは蛍ピンクので、通常のインクに蛍ピンクを追加することによって、主にピンク系の発が鮮やかになるのだ。

決してるわけではない。

「そんな……いいもんですか……? 蛍ピ……」

「絵柄にもよると思いますがほら見てみてよこの本が蛍ピ差し替え、この本は蛍ピ差し替えなし。けのが明らかによくなっている。あと背景のピンクも映える。ここまでやらないと蛍ピを生かした絵柄といえないと思う」

「いつもそんなこと見て同人誌買ってるんですか……?」

「誤解はやめてしい! 同人誌はあくまでも中! 信念! 魂! ただし第一印象もまた大切! 一期一會の出會いであるからして! 特に蛍ピは俺のようにロートルな人間にはに迫るものがあるそう今でこそ特殊裝丁が一般化したけれどそれ以前には蛍ピこそがあこがれだった! そして忘れてはならないあの悲しい震災を製紙會社が倒れ蛍ピンクが不足した日のことを!!!!!!!!!」

「あ、このコマめちゃかわ」

「え、どれどれ~!」

オタクの長話を止めるには萌えが一番よく効く。

「…………でもそう考えると、裝丁って、人間の見た目みたいですよね」

散々萌え散らかしたあとにしみじみと朱葉が言った。

「魂とか格が一番だけど。ぱっと見の印象に殘るのは裝丁とか、外側なわけで」

「…………」

「先生?」

何かを考え込んだ顔をした桐生に、朱葉が言う。

「…………ああ、いや……」

し息をついて、桐生が言葉を選んで言う。

「なんか、俺もそういう風に言われたことがあったなって。本の裝丁は気にするのに、自分の見かけは気にしないのか、って」

「…………マリカさんですか?」

その名前は、やぼったいオタク男子だった桐生を、見られる見た目にコーディネートしたという、……元カノ、の名前だった。

桐生は曖昧に笑う。でも、否定はしなかった。

朱葉は、詳しく聞きたいような、聞いたらし、寢りに悶々としてしまいそうな、複雑な心境だった。

「……先生の、その、オンの姿って、マリカさんの趣味だったりします?」

でも、聞いてしまった。聞いてからちょっと、後悔したけれど。

「どうだろうな、學生時代のオンの服は、社會人になってからほとんど著てないし」

マリカは相変わらず俺のオフの姿はダサいといやがったし、ということは、思ったけれど言わない桐生だった。

「だいたい今は、俺の趣味かも」

そっか、と朱葉は思った。それ以上も、以下も、想はなかった。

「つまりこの白は特殊裝丁なわけですよ」

「めっちゃドヤ顔でいわないで」

聞いてないし。

キメ顔されても困るし。

うんざりしたじの朱葉を眺めて、桐生が言う。

「……制服も、普通に特殊裝丁だと思いますよ、早乙くん」

その言葉に、ちょっと目を丸くして、ここはどんな顔をすべきなのか、わからないまま、ちょっとだけ警戒するように、朱葉が言う。

「趣味ですか?」

「さぁ?」

高校教師、制服趣味だと、まずいんじゃない? と思ったけれど、そのつっこみをいれる前に。

「俺はまぁ、ぱぴりお先生の出す本なら、裝丁はこだわらない、かな」

真意の見えない、そんな言葉を言われたので。

「…………」

居心地悪く、目をそらしたら。

「でもコピー本はまじやめて。人類の損失だから。買えない人が可哀想すぎだから」

マジなトーンでまたそんなことを言ってきたので、だからいいから仕事してください、と朱葉は上手く照れを隠して、言うことが出來た。

きいてくださいよ。

書籍版蛍ピなんですよ記念。

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