《腐男子先生!!!!!》74「結婚しよう」

紙切れ一枚で、進む道なんて決めたくない。

……なんて、教育テレビの青臭いドラマみたいな臺詞をぼんやり思った。

6月の半ば、朝一番に教室に配られた、「進路希」のプリント。

「期限は月末まで。個人面談のあとには三者面談も控えてるからな。腹をきめて、ちゃんと保護者とも相談して書くように」

擔任である桐生はそう言って何食わぬ顔で去っていった。

その涼しい橫顔には、「進路相談めんどくさい」なんて言っていた面影はひとつもない。

桐生が去ると、わっと教室がざわめきを取り戻した。

「みおちゃーん。なんて書くのー?」

「俺ホストかな~」

聲のでかい委員長であるところの都築水生が、そんなことを言っては教室をわかせている。

かと思えば他の生徒が、「あたし先生と結婚って書こうかな~」とわいたついでに話しているのが聞こえた。

「マジで? 呼び出しされるよ?」

「その呼び出しでの告白されるかもじゃん!」

もちろんジョークではあろうけれども、これじゃあ先生じゃなくたって大変だな、と朱葉は思う。

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朱葉としては、家から通える範囲でいくつかの志校を出し、安全圏を親と先生と探っていく、というつもりだった。

みもしないかわりに、あんまり苦労もしたくないな、というのが正直なところだ。

桐生の言ではないけれども、楽しいことは、すでに朱葉も見つけてしまっている。夏が過ぎたら模試等も増えるし、一応、同人活も休止するつもりだった。一応のつもり、ではあるけれど、実としてはいまいち沸かない。

部活としては、秋の文化祭まではきちんと活したいと思っている。それまでに、咲も學校になじんで、他の部員が増えればいいと思っている。だめだとしても、それはそれで、一年だけの同好會でもいいと思っていた。

未來のことは、ただ、うっすらぼんやりとしている。

その中で、プリントの日付を見ながら、朱葉がひとりで、ぽつりと呟いた。

「結婚、か……」

自分にはまだ遠い響きの言葉に、思いを馳せながら。

「ウェディングといったら純白のドレスって相場が決まってるんじゃないか?」

「待って! 先生待って! でも! 白無垢の純和風、神前式のよさが、捨てきれないんですよ……! だって、真っ白な角隠しに真っ赤な杯で三三九度ですよ!? いいと思いません!?」

「良さしかないな」

「でしょう~~!! 妄想とはいえ決めきれなくて!!」

「早乙くん頼む。一生のお願いだ。どっちも著てしい」

「簡単に言いますけど、簡単じゃないんですからね!?」

「あ、待って待って、俺達は大事なことを忘れてるんじゃないか? ちょっと基本に立ち返って考えてみないか? ほら、これはどう思う?」

相変わらず、放課後の部室。

盛り上がる朱葉に桐生が、タブレットの畫像を見せる。

「ダブルタキシード」

その男二人の畫像に。

「っかーーーーーーー!! 最高!!!!!!」

朱葉はシャーペンを握る拳をかため、ビールを飲み干したサラリーマンのようにんだ。

今更説明をするまでもないけれど説明をしてしまうと、朱葉がせっせと參加している、推しカップリングのワンドロ(一時間でひとつの作品をあげるSNS上の企畫)の、今夜のお題が「ジューンブライド」なのだった。

というわけで本日のお題は、推しカップルにはこんな結婚式をしてしい。

「最高! 最高だけど!!! やっぱりの子のドレスや白無垢は浪漫なんですよね~~裝に限らず」

「ウェディングドレスと白無垢とダブルタキシードを描けば良いのでは?」

「だからワンドロだって言ってるでしょ! ラフを仕上げる一時間だけど! それでも無理です!」

「ぱぴりお先生の! ちょっといいとこ! 見てみたい!」

「おだてても出ません!!」

「テーマパーク結婚式もいれよう」

「え? 來ちゃう? 二人の結婚を祝いに世界的マスコットが來ちゃう? はーやっぱり最高かな?」

推しには百回でも結婚してしい二人だった。

ざくざく朱葉がラフを切り、桐生が資料を調べながら、梅雨の長雨もなんのその、二人の不な(本人達にはこれ以上有意義なことはない)會話が続く。

「結婚式ももちろんいいですけど~個人的には、分厚い結婚報誌とか、買って帰る攻めてとか可いなって思うんですよ」

「それな~! 指を決めたり」

「最近公式から撃があったりする指ですけどね、ああいうのもいいですし、本當にシンプルなやつも素敵ですよね~」

「あと婚姻屆が必要。この際日本の法律には目をつむってもらおう。否、法律で制限をけるからこそ盛り上がる。そしてどう考えてもアツイエピソードしか生まれない!! ──結婚式の証人!!!!!」

「証人……!! エモい!!!!!」

朱葉のラフが炸裂し、桐生に提示される。

「これでどう!!!!?」

「神かよ。結婚しよう」

「え?」

「え?」

顔を見合わせ二人が思う。

(今勢いで求婚した気がする)

(今勢いで求婚された気がする)

ちょっと考えたけれど。

「ちなみにこの素敵な結婚式にはこんな式場があうと思うけどどう思う?」

「えーやばない? めっちゃやばないー?」

々思うところもないことはなかったけれど、とりあえず何事もなかったかのように話を進めてしまった。

「えー、ほんといいなー。すごく可いし。普通に、こんなところで結婚出來たら幸せでしょうね」

背景のラフを追加しながら、朱葉が言う。その姿とイラストを、ひどく微笑ましい目で桐生は眺めて。

「あら、もうこんな時間。先生じゃあ、また明日~」

「今夜のワンドロお待ちしてます!」

そんな風に、別れたら。

桐生は自分のタブレットをもう一度見て、呟く。

「ま、一応」

ぽん、と結婚式場のホームページに、お気にりの星をつけ。

「……いつか參考にするかもしれないしな」

さて、俺も戸締まりをして帰るかと、ゆっくりと桐生が立ち上がる。

6月の半ばの、夕暮れの話だった。

わたしは……書籍化発売日に何を……書いているのか……?

いや、せっかくだからおめでたい小説を書こうと思った……気がする……。6月だし……。

おめでたい……とは……?

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