《腐男子先生!!!!!》79「ぎゅってして」
2話連続更新の2話目です。最新話を読みにきている方はお気をつけください。
結局朱葉が呼ばれたのは、モデルとしてではあるが、どちらかといえば舞臺裝置としてのモデルだった。
「顔は絶対出さないから安心して」
キングはネームバリューもあるしシンパも多い。合わせといえばいくらでも一緒に撮りたがる人がいるけれど、今回は夏コミあわせの個人寫真集ということもあって大きい金銭がくし、顔なしでの撮影でも、自分がキングと撮ったと「言いたくなってしまう」という人間が多いのだという。
「その點あげはちゃんはそういうの、ないでしょ」
「まあ……そんなの怖くて言えませんけど……」
「あとね」
これはこっそり、耳打ちで教えてくれた。
「リアルJKのやる主人公、めっちゃたぎる」
本人としてはそんなことも言ってられないのだが。
(……なんとなく……わかる……)
と思わず思ってしまった。
秋尾とキングが何度も裝替えをしながらゲームのキャラクターを演じ分け、その背景裝置として、キャラクターが傅く主人公のシルエットがり、後ろ姿がり、象徴的な手と指先がる。
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最初は気後れしながら立っていた朱葉だったが、秋尾とキングがあまりにガチなので、いつの間にか居住まいも正しくなってしまった。
「朱葉ちゃんあと三センチ! 三センチ肩をあげて! はいそこ!」
センチからミリ単位で修正がる。秋尾かキングが撮ることが多かったが、スリーショットの時は桐生もカメラを持った。
(先生に撮られるの、変なじする)
恥ずかしいというか、張すると、いうか。
しかし桐生の撮るテイクは撮り直しが多いので(まあつまり、個人の、腕の問題だ)途中からちょっと可哀想になってきてしまった。
「はー、向いてない……俺絶対向いてない……そもそも手が震えるんだよ……まともな神力じゃ撮れない……」
「お、おつかれさまです……」
「早乙くんも、はい」
渡されたウィダーインゼリーがに染みた。立ってるだけなのに、ずいぶん神経を使う。
次の裝が手が込んだものだということで、朱葉と桐生は休憩だ。
「でも、良かったんですかね」
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「何が?」
「このゲームの主人公って、男バージョンもあるじゃないですか。そっちの方がスタンダードな気もするし、わたしでよかったのかなって」
「あー、それは、あれだ」
ちょっとだけ考える間があってから、桐生が言う。
「男のゲストをいれるのは、キングが嫌がるからな」
「そう……なんですか?」
「うん。元々キングは他人と付き合うのもあんまり好きじゃなかったんだよな。製の腕はピカイチだったけど。初めて會った時も、コスプレはもうやめようと思ってたみたいだった」
昔の話だった。そういう話を聞くことは、とても珍しいことだった。朱葉は黙って聞いている。
「それを、キングにしたのは、まあ秋尾なんだよな」
オタクの早口でも、教壇の言葉でもなく、飾らない口調で、桐生は言う。
「他人に合わせたり、気を遣ったり、マウンティングをはじめとしたあらゆる外的な意思から彼を守るために、秋尾は彼を孤高《キング》にしたんだ」
言ってしまえば一口だけれど、それはなんだか途方もないことのような気がして、朱葉は嘆しか出ない。
「……すごいですね」
「いや、実際素晴らしいことだと思うよ」
目を細めて、桐生が言う。
「秋尾とはまあ付き合いが長いけど、そういう面では、俺はあいつを格好良いと思うし、キングと一緒にいる姿に至っては、本當に特別に思う」
本當に、特別に、と前置きをして。
「當時は本當に俺の神カプだった。今もだけど」
結論はまあ、臺無しだったけれど。まあ……わからんでも……ない。
「他の男と絡むのが嫌っていう點では、秋尾の方こそそうなのかもしれないな。あいつの獨占は、そうと見せる前に発するわけだけど。いやあ、俺もいろんなものを推してきたけど、三次元の友人にこんなにハマるとは思わなかった。二人合わせて俺の神推しだから、そばで見られてて、本當に嬉しい」
桐生のその言葉に。
「……先生って」
朱葉が、思わず口を開く。
(たくさん、神様が、いるんですね)
その言葉は、聲にはならずに。
「おまたせーーーー!!!」
ばーん、と現れた、秋尾がその腕にキングを抱えている。
「はい!!! 今回の一番手がかかった新作裝だぜーーー!!!!」
抱えられた、キングはキラキラしていた。
長い髪に、足下のギミックは歩けないほどの大仰で、まとう空気は清純で、ロマンティックで、サディスティックで、裝は最高にエロティックだった。
「「神かよ…………!!!!!!」」
朱葉も桐生と一緒に思わず聲をそろえて言ってしまった。もう同罪だ。
最後の撮影、エロティックなキングとの絡みの寫真をとりながら、ぽつりとキングが聞く。
「アゲハって」
突然名前を呼ばれて、びっくりする。
「え、あ、はい!」
「………好きなカップリングって、けに萌える方? 攻めに萌える方?」
めちゃくちゃ綺麗な顔をして。
(結構ディープな問いが來たな)
とは思わなくともなかったけれど。
「え、えー……ど、どうだろう……。どっちも好きなんですけど……」
「じゃあ、あえて言うなら、けをでたい? 攻めにでられたい?」
あなたの好きな、あのカップリングで。
「……………………けを、でたい……!!!!」
すごく考えたけれど、は迷わず口をついて出た。
「OK」
キングがぼそっと返事をする。
(OKって……なんだ……?)
混しながら撮影を終えて、軽くだけ整えられた化粧を落としていると、キングの著替えを手伝い終えた秋尾が
「あげはちゃん、もうちょっとだけ、いい?」
とメイク道を片手にわくわくと寄ってきた。
「は、はぁ……」
疲労もあったし、恥心はすでにどこかに行っていたので、なんかもう、なんとでもどうぞ、という気持ちでを任せていたら、
「うお、すごい! やっぱJKが違うな~」
秋尾の楽しげな聲と、
「あんまり余計なこと言いながらるとキングにチクるぞ」
桐生のドスのきいた聲が聞こえた。それはそれとして、このメイクはなんだろう……? と思っていると、そのうちあまり奇抜ではないのウィッグをかぶせられ。
「どう?」
終わったらしい秋尾が、朱葉ではなく桐生に聞く。
「……」
桐生が無言で親指を立てると、秋尾も指を立て、
「はいじゃあ朱葉ちゃん、次これ著てね~あ、これも特別著方に困る服じゃないと思うけど、ごめんだけど下著じゃなくてのサポーターもつけてね。それじゃーよろしく~!」
そんなことを言って、別室に放り込まれた。
(サポーター? え、この、服って???)
ばさ、とおろしたてのの服を広げて。
「…………………!!!!!!!!!!!!!!!!!」
朱葉は聲にならない悲鳴をあげた。
「え、ちょ、ま……あの……これ……!!!!」
著替えのための部屋には鏡が持ち込まれていたので、自分が「何」であるのかはもう完全にわかっていたが。
半泣きになりながら部屋を出た朱葉が、そこにちょこん、と座っていたキングの姿に、
「○×▽□◇◇◇×××!!!!!!!」
いよいよ言語を無くした。
「は~い一日朱葉ちゃんおつかれさま~! キングから、本日のお禮で~す」
にやにやしながら秋尾がシャッターを押しまくっているし、その隣では桐生がタブレットで畫を回している。おいこらてめえ。
ちなみにタブレットを持った桐生本人は泣いている。ガチで。
『本日のお禮』ことキングは、もう絶対それしかないでもまさか、のことだけれど。
……朱葉の、一番の推しジャンルの、推しカプの、け、の年、そのままの格好をしていた。
そして、もっと言うなら、恐ろしいことに、朱葉自が……その、攻めの姿、そのままで。
いつもより何倍も可く仕上げたメイクのキングが、朱葉(その姿は推しカプの攻め)に両手を広げ、言う。
「ぎゅってして」
………………殘念ながら、それ以降の記憶は、朱葉からは吹っ飛んでいる。
夕飯までに家に帰す、というのが最初からの約束だった。でも多分、その約束をとりつけたのは桐生だろうと、おぼろげながらわかっていた。
帰りの車では、キングは車に乗って秒で寢落ちたし、桐生もある程度はとった畫や寫真でひとしきり盛り上がっていたが、ある時を越えると急に靜かになった。まあ、寢てないのだから、當たり前だろう。
秋尾だけが、疲れていないわけでもないだろうにしっかりとハンドルを握っている。
「今日は本當にありがとう」
靜かになった車、改めて秋尾が朱葉に言えば。
「いや!!! むしろ!!!! すごく!!! めちゃくちゃ! 貴重な験させていただきましたから!! 役得でした! 本當にすみません! ありがとうございました!!」
まだ興冷めやらぬ調子で朱葉が言う。
「寫真集、仕上がりお楽しみに」
「めっちゃ楽しみです! 買いにいきます!」
「ばか。買わせないよ。お友達の分もしかったら、何冊しいか言っておいて。あと、結構な重さになるからそれは気をつけて。なんなら郵送でも配達でもするから」
秋尾はやっぱり、気遣いの人だった。
「すごい売れそう!」
思わず朱葉が即的なことを口走れば。
「すごい売りま~す」
秋尾がすがすがしく答える。
「來年は、打ち上げも一緒にしようね」
そんな風に続いた、秋尾の言葉に。
「あはは……どうでしょう……」
朱葉は、曖昧に笑った。
秋尾が、今度はサングラスのない目で、ミラー越しに朱葉の顔を伺う。その視線に、朱葉は気づかずに。
「ほんと、楽しかったです……」
シートにを埋めて、満足げに笑いながら言うのだ。
「ずっとこんな日が続けばいいのになぁ」
すごくすごく幸せな思い出を、何度も思い返す顔で。まだ夕焼けの落ちきらない外を見ているうちに、いつの間にか、朱葉も眠ってしまっていた。
一番最初に朱葉を車から降ろす頃には、キングはまだ寢ったままだったけれど、桐生は目を覚ましていて。
それから秋尾と桐生は、夕飯をどうするとか、今日は楽しかったとか、あのショットがよかったとか、そういう會話をいくつもしながら。
秋尾がひとつ、問いをり込ませた。
「お前はさ、あげはちゃんと今のまま、ずっとこんな日が続けばいいとか思う?」
秋尾の問いは唐突だったけれど、桐生は小さく笑って。
「いや」
そっと言った。
「ずっとは困るよ」
その返事に、々思わないわけではなかったけれど。
へぇ、とただ、秋尾が言った。
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