《腐男子先生!!!!!》96「今、他のの話するのは、ナシじゃないですか?」

忙しい。

その一言につきる。とにもかくにも、高校三年生、最後の文化祭。クラス出しでは委員長としてクラス意見をまとめて、漫研では部長として記念部誌と展示の用意、もちろんここには後輩である咲の原稿指導もっているし。オタクトピックスは毎日を容赦なく追い立てる。アニメの放送クールも夏から秋にかわっていくし、忘れがちだけれど一応、験勉強だってしておかないといけない。忘れがちだけど。一応。

「委員長~店の看板のことなんだけどさ~」

「うーん、じゃあ、デザインだけわたしがパソコンで打ち出してくるから、それ拡大して看板に出來る?」

放課後朱葉が教室でそんな會話をしていると、通りがかった都築がやわらかく笑って言う。

「面倒見いーよね。委員長」

「都築くんの世話役ほどじゃないよ」

「でも、無理しない方がいいよ」

くい、と親指の腹で、目元の下をぬぐうように言う。

「隈つくると、可い顔が臺無し」

言われた言葉にびっくりして、思わずきを止めて、朱葉は思う。

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(今のBLならすごい萌えるな……)

でも自分はBL要員ではないので特に萌えないのであった

そんなことを自分でナレーションしながら、朱葉は部室に歩いていく。部誌用の原稿が広げられている機に座って、ひとまずのため息をつく。

(別に、無理はしたりしてないけどね……)

これが無理だというなら、前ギリギリ稿のあとに突発コピー本作った時の狀況は無理以上の無謀だ。

(でもまあ、……疲れはしたかな……)

ふわ、とあくびをしながら、しばらく作業をしていたけれど、そのうち作業道をかきわけて、機に突っ伏した。

しだけ、と自分に言って、目を閉じる。ほどなく、放課後の喧噪の中で眠りに落ちていった。

夢も見ずに、どれくらい眠っていたのかもわからない。これといった刺激もなく自然に目をあけたら、する、と肩から何かがすべりおちる気配がした。

軽い薬品めいたにおいがして、が詰まった。自分の肩を改めて見れば、れたのは白だった。

し驚いて、頭を上げる。そのまま時計を見たら、どうやら一時間半ほど眠っていたようだ。

ここは、部室で。今は、放課後で、だから、まあ、眠っている自分の肩に白がかかっていたら、それは、誰のものかなんてわざわざ考えるまでもなかったけれど。

「…………」

覚醒したての頭をまわして、あたりを見たら。揃えて並べた機の、ちょうど端の誕生日席に、桐生が座っていた。

座って、は、いたけれど。

「………………」

じっと、黙って見てしまう。

桐生は、いつものスーツで、白は眠っている朱葉にかけてくれたようだけれど、自分もそのうち眠ってしまったらしい。腕組みをしたままで、寢息もたてずに目を閉じている。

(案外、レアだな……)

最大限、部活にもクラス出しにも協力してくれることはわかっていた。コスプレ中華喫茶にだって、なんとか參加させようと都築が攻めていることも(いらない妄想をするので朱葉にはあまり教えてくれない)。

漫研で朝活するのにいつも以上に早く出ているようだし。時間外労働の概念のない教師は本當にブラックだといつも言っている。

あと、最近々大変そうだ。

朱葉にはよくわからないけど、過去からの亡霊がとか再アニメ化とか先生ちょっと薄くて四角い雑誌を買ってくるとかよくいている。

特に作だった夏アニメからまた本命の多い秋アニメに移行する今がにくるらしい。

まあ、よく、わからないけれど。

眠れるうちには寢ておいたほうがいいよね、と白を返し、座り直して作業を再開する。

しばらく黙々と集中していたら、突然ガクッと肩を揺らして桐生が目を覚ました。

「あ、おはようございます」

朱葉が言ったら、桐生はまだ寢ぼけているのか半眼で、眼鏡を押し上げるような仕草をする。

「お疲れですか?」

「あー……」

しまった、とかいうようなことを、もごもごと桐生が言う。

「眠かったらまだ寢てていいですよ。今どこかソシャゲイベント走ってるなら別ですけども」

「いや……スタミナは……まだ……大丈夫……」

ぼそぼそと桐生が言う。

まだ眠そうだなあ、と朱葉が思って。

「膝貸しましょうか?」

そう尋ねたら、もう一度がくっと桐生が肩をずらした。どういうずっこけなのかな、と思いながら、

「インク落とすかもしれませんけど」

と誤魔化す。「それは、勘弁……」と桐生が言う。

それからもまだぼんやりと、機に頬杖をついて、朱葉の作業を見ながら桐生が言う。

「……マリカが」

いきなりでてきたその名前に、(お?)と朱葉が手を止める。桐生は手元を眺めるままで、朱葉の顔を見ずに続ける。

マリカ。

それは、桐生が大學生時代につきあっていたという、の名前だった。

ろくな付き合い方をしていないと桐生は言っていたけれど、どんな風なお付き合いだったのかは、朱葉は詳しく聞いたことはない。

「……こういう風に、俺が居眠りしたりするの、烈火のごとく怒る方で……」

ぼそぼそと、言う。

まだし夢うつつで。

へえ、と朱葉は思う。わかるとも思うし、なるほどとも思う。なんて返すべきなんだろう。

(わたしは違いますよ、とか?)

別に寢ててもいいし。先生だって、私が寢ててもいいと言うだろう、と朱葉は思いながら。

なんとなく、の奧が、ふんわりとざわついて。

その正をさぐってから、ああ、とひとりで納得して、言った。

「今」

手元は止めないで。し意地悪い気持ちで。

「他のの話するのは、ナシじゃないですか?」

放課後の靜かな教室で。

まどろむような時間に。

朱葉の言葉に、桐生が眉をあげて、虛を突かれた顔をした。その肩から、白がすべっておちていく。

しばらく二人の間に、沈黙がおりて。

ふっ、と桐生が笑って、言う。

「他の男の話は?」

その言葉に。

「んーーーーーーー」

朱葉はとびきりためるフリをして。

「アリかな!!!」

そう言って、二人、笑う。他の男の話も他の男の男の話もアリだ。まあべつに、桐生とするの、の話だって、つまらない話だったことは、ないんだけれど。それからあれこれたわいもない話をして、すっかりが落ちる。

二人、後片付けをして、カーテンを閉めようとした、桐生が言った。

「早乙くん」

し雲の多い、空を指して、

「月が綺麗だよ」

折しも、日付は中秋の名月。その言葉に、どれくらいの意味があるかは……朱葉も、わからないわけではなかったけれど。

「……50點」

隣に立って、あくまでいたずらっぽく、朱葉が言う。

「もうちょっと、BLで萌えるみたいに言って」

都築くんは上手でしたよ、と言ったら。

桐生は、苦蟲をかみつぶすような顔をした。その顔に、ずいぶん笑って。

それから、どんなことを言ったかは、……まあ、緒にしておく、ことにする。

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