《腐男子先生!!!!!》その5<後編>「なるほどサイミンって、こういうことですね?」

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なぜいるの、というのは愚問だろう。

ここは、來たい人なら誰だって來られる、そういう、理想郷だから。(ある意味)

なのであえて聞くとするならば。

「…………なんで一緒に來てるの?」

これ以上モモのサークルの邪魔をするわけにはいかない、と朱葉は都築を連れてとりあえずホールから出た。マリカを置いてきたのは、彼がモモと話したそうにしていたからだ。そしてその話は多分……話しているところも含めて、見ない聞かない方がいいのだろう、と朱葉は判斷した。

「姉が荷持ちが必要だから來いって~」

にしてもあっちいね、とシャツで顎の下の汗を拭く、都築の髪は相変わらず鮮やかな茶髪で、今日は太いヘアバンドをつけていた。意外だったのは、高校時代のような、強烈な日焼けはしていなかったことだ。もちろん、朱葉に比べればずいぶん小麥をしていたけれど。

大學にってからは、顔をあわせていなかった。たまに「最近のオススメ教えて」という連絡はくるけれど。もちろんBL漫畫の話だ。

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彼が高校の終わり、進路に悩む真っ最中に、BL漫畫にはまりにはまったことは、朱葉は知っている。その元兇が、桐生であることも。

同人を教えるのはやめて、と一応朱葉は桐生に言ったけれども、結局萌えを止められる人間などはいないのだ。知ってる。それは知っている。

心の底から思う。(同ジャンルじゃなくてよかった)と。それはそれでもういいので、今はとりあえず置いておいて。

ものすごく考えたあとに、朱葉が聞いた。

「…………………付き合って……るの……?」

マリカさんと。

朱葉には、関係ない話だった。どこでどうなって、たとえばそうなったとしても、構わないことだろう。桐生はどうかは、わからないけれど……。

ただ、そういうことを曖昧なまま話をすすめても仕方が無い、という気持ちで朱葉が聞いたら、都築はの薄い目をまんまるにして、言った。

「え? どうだっけ?」

死ぬほど曖昧だった。

「やー、そういやなんかいいとこまでいった覚えがあんだよね。でも結局そういうのやってないな。もともと別にそんな真剣じゃなかったけど~。まあ? 真面目にしなくても? それなりに楽しそうだし? みたいな? お互いに? 俺だって年上人嫌いじゃないし~。ってんで、家にいった時に~、なんか……なんだっけ、そう、姉んち行って、姉がシャワーるっつって……」

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なんか話が生々しくなってきた。朱葉がもういい、と止めようとするも都築の口が泊まらない。

「俺はスマホで電子書籍読んでたんだけど、そん時にさ、宅急便がきて、追い返すわけにもいかないじゃん? ハーイって俺サインしてけ取ってあけてみたら、それが、めっちゃ薄くてでもめっちゃえろい神ほ……」

ばしーーん!! とそこで、都築の後頭部が折りたたみ傘で毆られた。

「なんの話をしてんのよ!!!!!!!」

「いってえええええ!!!!!」

スペースから戻って來たマリカが、都築のぐらをつかみ引き倒す。

「これ以上あたしのプライベートなこと喋ったら、ほんとに殺すわよ。二度と鍵つき棚の本読ませてやらないから見てらっしゃい」

「ああ! 姉それだけは~~!!!!」

すがる都築を蹴り上げるようにして、マリカがモモの分厚い本を一冊都築に渡した。都築は「ひゃっほー!」と言ってしゃがみこんで開く。

犬みたいだな……と朱葉が眺めていると、

「久しぶりね」

一杯、とりつくろった聲で、マリカが言った。

「はぁ……」

お互いに、沈黙。それからマリカが、苦蟲を噛むようにゆがめた顔で。

「…………………今日、ここに來てたこと、カズくんには」

言わないで、という前に。

「いいじゃん言えば~~」

足下から聲があがった。都築は『実用本』から顔を上げず、

「マリカマジでそういうの考えすぎなんだよ。別に腐っててもマリカが人なのはかわんねーじゃん。俺に見せたみたいにきりゅせんとも一緒にマラソンすりゃいいじゃん」

マラソンとは、アニメのことだろう。まず、間違いなく。

「あたしは!! と、『これ』は、わけて楽しみたいのよ!!!」

マリカが思わず上げた聲に、朱葉の方も、思わず。

「いや、わけて楽しむには……相手が先生は、無理では……?」

言ってしまった。マリカも、そのことは、重々承知でいるらしく。

「……そうね。その通り」

でも、今更カズくんとこういう話をしたいわけじゃないから、やっぱり言わないでいいわ、と呆れ気味のの言葉。

「カズくんと趣味あわないし」

なるほど……と朱葉が深く納得していると、足下からまだ余計な聲が上がる。

「俺にしとけよマリカ~。いや俺も今更マリカとはそういうのなくてもいいかなってじなんだけど」

「アンタもさっきからなにどさくさに紛れて呼び捨てしてんのよ! さんをつけなさいこのエロクソガキ! あたしだってもうアンタはその範疇にってないわよ!!」

言い合う二人をみながら、朱葉が思わず笑って、言った。

「仲良し、なんですね」

多分、なんだか、朱葉が思ったり、心配したりするより、ずっと。ウマがあったんだろう。それは、もしかしたら、人を見つけることみたいに、いや、もしかしたら、マリカにとっては、人を見つけることよりも、大事なことだったのかもしれない。

「……まぁね」

ため息まじりに、小さな聲で、マリカもそれに同意をした。

そして。

「あんたたちも、仲良くしてる?」

ようやくいつもの調子を取り戻したように、上段から見下すように言った。

朱葉はぽりぽりと頬をかいて、

「はぁ……ぼちぼち、です」

と曖昧な答えをした。ふぅん、とマリカが言って。ぱしん!! と朱葉の腕を叩いた。痛みよりも音にびっくりして、朱葉が直していると。

「いつまでも、『先生』じゃないでしょ。しっかりしなさい」

それだけ言って、「行くわよ」と都築を蹴った。慌てて朱葉が呼び止める。

「え、あの、……呼ばなくていいですか?」

先生を、とは、言わなくても伝わったようで。「え! 俺會いたい!」と都築は聲をあげたが。

「やめときなさい。今じゃなくてもいいでしょ」

そんな暇ないわよ、とマリカ。

「これからアンタには企業も回ってもらうんだから。時間がないの! いくわよ!」

それから、一度朱葉を振り返って。何かを言おうとして、ぐっ、っとこらえ、ちょっとだけ頬を赤らめ、ほんのちょっと、怒りをこらえきれない、そんな顔で。

「momoさんに、よろしく……」

それだけ言って、都築を引きずりながら歩いていった。

(よろしく……)

言う相手が、もう先生じゃないんだなぁと、朱葉はあっけにとられながら、そんなことを、思ったのだった。

お互い任務を終えた桐生と朱葉が合流をしたのが午後三時過ぎ。渋滯に巻き込まれる前にお臺場を出する。

帰りの車で一応、會場でマリカと都築に會ったことを話したが、「最近學校も遊びにこないと思ったらそんなことに……」と呆れていた。

「気になります?」

マリカさんのことも、そうだけど、よくよく考えたら、桐生と都築は朱葉の萌えでもあったので、その意味もこめて聞いてみたら、「ジャンルがかぶらなければご勝手に」との返事。

「俺の大事な生徒に手を出すな! とかないんだ」

「生徒は生徒でも元生徒ですし。いい年ですし。すべては自己責任ですし」

そんなことを言いながら二人が時間つぶしにったのはカラオケボックスだ。

もちろん歌うためではない。

「はーーーーーーーー?? すごい、今回のペーパーやばい!!!!!」

開催されたのは、戦利品の宴である。

「わかる。そのペーパー俺ももらった。文化産として殘すべき人類の寶。額にいれて玄関に飾りたい。むしろこのサークル様には常日頃からペーパーだけを集めたオフ本をつくってしい。つくるべき」

桐生も眼鏡を押し上げながら熱弁する。基本的に桐生と朱葉は好みが似通っているので、同じ本を買っている場合も多く、また互いの本を見合うことも多い。

「あっえっこの本買ったんですか!? え、買えました!?」

「ふふふ……開場直後にこれだけ買わせてもらってきたのだ……」

「えっ全然気づかなかったわ」

戦利品をひっくり返しながら読む方も七転八倒していると、ふと桐生がとある本で手をとめた。

「あれ、これは?」

青く綺麗な表紙のそれに。

「ああ、えっと……モモ、の……」

朱葉がぼそぼそと答える。

「ほう……」

モモが一どういう「書き手」であるかは、桐生にもすでに言っていた。積極的に見せるようなものでもないが、取り上げて隠すようなものでもないはず。真面目な顔で味するように桐生が見て。

「なかなかのものだな」

と言った。

「わかるもんです?」

漫畫とは違うのに、パラパラとめくっただけで。

桐生は頷く。

「ああ、手練れだ。薬からモブレ、からの手、睡眠もあれば催眠もある……」

「サイミン……」

「名前を呼ばれると言うことを聞いてしまうとか、そういうの」

「名前……」

エロというのは奧深いものだと、朱葉はしみじみ思う。

その間に桐生が本を閉じ、しみじみとのたまわった。

「殘念ながらここまでの劣の踏み込み方は俺の好みではないが、彼がぱぴりお先生の師となってくれるならさぞかし読み応えのあるものが出來ることだろう」

「いや、描くとは言ってないですし」

「描かないとも言ってない!!」

「駄々っ子かよ!!」

「未來のことは常に誰にもわからないじゃないか! ただここに、ここにある申し込み用紙、サークルカットに! R18ってその3文字を書いてくれさえすればこの世に事象の確率が──!!!!!」

冬コミの申込用紙を持って迫ってくる桐生に、朱葉が「ああもう!」と青筋を立てて、思わずぶ。

「和人さん!!!! ステイ!!!!!!」

その一聲に、桐生は目に見えて直し、そのまま、ふらっと倒れ込むように、椅子に座った。

「…………」

その様子を見ていた朱葉が、言う。

「なるほどサイミンって、こういうことですね?」

名前を呼ばれると、いうことを、聞いてしまうというやつ。

「違う……違うが……」

桐生が顔をそむけながら、

「心臓に、悪い」

と息も絶え絶えに言うので。

これはからはここぞという時につかっていこう、と朱葉は思った。

夏はの季節とはいえど。

にも々、あるものだ。

ラブは!死んだ!!!!!!!!!!(*^。^*)

でも、楽しかったで~~す!

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