《腐男子先生!!!!!》その6<前編>「一緒に泊まりましょう」

ちょっと語の時間を戻し、夏の終わりの話です。

いつかはこんな日が、くるのかなって思っていた。

雨で冷たくなったをあたためるように、頭からシャワーをかぶった。それでも指先の冷たさがなかなかひいてくれなくて、張しているんだ、と朱葉は思った。

ユニットバスは思っていたよりも広くて、けれどカーテンとドアの向こうに人が──桐生がいるのだと思ったら、逃げ場がないじがしてシャワーをあびながら耳を塞いでみた。

こんなことなら夏海にもっと相談しておけばよかった。

モモにたくさん聞いておいたらよかった。

知識だけならたくさん知ってるけれど、それは──所詮、二次元の話で。

こんな時、どうしたらいいのかなんて、わからない。

泡だらけのバスタブ、花のようなにおいも心をざわつかせるだけだった。

(ああ、どうしよう)

泣きたいような不安ばかりが浮かんできて、逃げ出したくなる。逃げ出せるわけもないのに。……ったのは、自分、なのに。

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初めての遠征先。

ダブルベッドの一室。

今日、朱葉は──このホテルに、桐生と泊まる。

夏の思い出総仕上げ、のはずだった。春から準備をしていた、推しジャンル推しカプのオンリーイベント開催。しかも関西での初開催だった。

「行くっしょ」

「行くっしょ」

基本オタク業での遠征は未経験の朱葉だったが、遠征貞を捧げるに一切の悔い無し、そんな気持ちだった。そしてそれには當然のことながら桐生もついてくることになった。

朱葉が大學生になってから、朱葉が參加するイベントでは、サークルチケットの一枚は必ず桐生に渡していた。売り子として座るわけではなかったが、イベントの行き帰りに車を出してもらうのは、正直、昔には戻れないとじるほどの快適さだった。

だから、このオンリーイベント、桐生と行くことに異存はなかった。ただ、そこで問題になったのは、遠征の異手段だった。

「え、関西でしょう。車だすけど」

けろりと桐生が言った。

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「一晩かければどんなに渋滯があってもつくし、朱葉くんは寢ていればいいよ。助手席が寢づらかったら後部座席でもいいし……なんなら寢袋を秋尾のところから借りて來ようか?」

けれどそれを朱葉は了承しなかった。

「それだと先生寢ないでイベントりすることになるじゃん!!」

絶対だめだよ! と突っぱねた。「いや、どこででも仮眠はとれるし……」と桐生はもごもご言ったが、一晩中桐生に運転させて、自分だけのうのうと寢ることは、朱葉にはどうしても出來ないと思った。

イベントのアフターには、コラボカフェもいって、聖地巡禮だってして、思い切り遊ぶつもりだったのだ。しかも、行きに乗っていく、ということは帰りも車だということだし、朱葉には免許がないので運転をかわることもできない。

絶対だめ、と言ったはいいものの、行き帰りの新幹線は、バイトをしているとはいえ朱葉の財布にも厳しい。そのお金で何冊の薄い本が買えるかと思うと、しぶりたくなってしまうのも當然のことだった。

譲歩して、間をとって、朱葉が選んだのは「夜行バス」という実に大學生らしい手段だった。

「先生は新幹線でもいいんですよ?」

「だめ」

今度は桐生が突っぱねた。

「早乙くんひとりで夜行バスは心配なので乗せられません」

というなんとも過保護な理由で、桐生もまた同じバスに乗ることになった。ちなみにバスは桐生が予約をいれるのだという。電源や無料Wi-Fiなど、細やかな條件があるようだった。(詳しいんじゃねーか、と朱葉が思ったけれど黙っていた)

「行きも帰りもバスで、大丈夫?」

桐生が朱葉に言った。「うーん……」とし、朱葉は考えたけれど、「大丈夫、です」と歯切れ悪く答えた。

ちょっとだけ思ったのだ、せっかくの遠征なのだから、安くはない通費と、時間をかけて行くのだから、一泊をして、二人でオタク観をしたらきっと楽しいだろう、と。

(でも、な──)

二人で一泊、ということを、どうしても朱葉は切り出せなかった。なんと言っていいのかわからなかったのだ。

朱葉と桐生は人同士だ。同じデザインの指を互いの薬指につけているのだから、そういうことだ。

大學生と社會人。いつ、そういうこと、があってもおかしくはない(のだと思う)けれど、未だにそのルートにったことはなかった。何もかもオタクの忙しさが悪いと言っていいだろう。朱葉もサークル活(個人大學とも)に加えてバイトがあるし、桐生だって決して自由時間が多い仕事ではない。そんな二人が二人きりになったところで、見なきゃならないものも、萌えなければいけないものも多すぎる。

いや、それは、単純に、言い訳だったのかもしれない。

(「いつまでも待つから」)

桐生が朱葉にそう言った、その言葉に甘えて、かわし続けてしまっているのかもしれない。大人と子供の差は、何年生きてもまらない。

そんな話自分からはどうしても切り出せず、金曜の夜に夜行バスにのり、イベントに參加して、土曜の夜に夜行バスで戻るという旅程を組んだ。

はしんどいかもしれないけれど、明けて日曜日にゆっくり休めば快復が出來るだろう。

しかし、旅には不測の事態がつきもので。

『臺風××號の接近にともない、週末は各種通機関に影響の出るおそれ──』

不穏なニュースが、旅行直前の朱葉と桐生を直撃した。

「先生、どうしよう!?」

『どうしようもこうしようもないでしょう』

電話口の桐生は落ち著いていた。

『幸い今のところ行きのバスには運休が決定してない。決定してしまっていたら仕方が無いから車にスイッチするしかない。朝一の新幹線もくかどうかは保証がないんだから』

「でも、でも……」

『ぱぴりお先生、イベントを休む?』

新刊も稿した。ペーパーもつくった。サークルチェックも念に済ませた。コラボカフェに予約もいれた。

「休まない……」

攜帯電話を握りながら朱葉が言う。

「休みたくない~~!!!!」

うんうん、と電話越しに桐生が頷く気配。

『ここは、行くしかないっしょ』

休むのも勇気。行くのも勇気だ。同じ勇気なら、行くことを、朱葉は決めた。

なにがどうなるかわからないから、著替えとかは持ってくるように。そんな指示をけて、朱葉は張しながら夜行バスに乗り込んだ。

桐生が予約していたバスは値段の割に設備も充実していて、朱葉は期待と不安でどきどきしていたけれど、きはじめればじきに眠りにわれていった。

バスは遅延もなく目的地にたどりついた。

普段よりも風は強かったけれど、雨は降っていなかった。

「遠征だー!」

楽しい気持ちのほうがまさって、し眠そうな桐生と、異國みたいなモーニングをたべて會場に向かった。

天候により見合わせた參加者もいたのだろう。なくはあったが、オンリーイベントはとびきり楽しい時間だった。あまりに楽しい時間だったから、外の雨風の音なんて、まったく気にならなくなっていた。

「うわー……」

閉幕まで參加をして、外に出ると、晝とは思えない真っ黒な空に夢もさめるような気持ちだった。雨もかなり強い勢いで降り始めていた。

「よし、朱葉くんまず戦利品をビニールの袋で二重にすることからはじめよう」

「先生先生、やっぱりこれ、宅急便で送った方がよくないですか!?」

風の音に負けないように朱葉が聲をはりあげる。「馬鹿をいうな!!!」と桐生の激がとんだ。

「俺は!!! 腕がもげようとも! 肩がはずれようとも!!! 決して戦利品をから離さない男だ!!!!」

さいですか、と朱葉は思った。

そして、おそれていた事態が、おきたのだった。

通機関が、全滅……!」

間の悪いことに、臺風は夜にかけて関西圏を直撃するようだった。電車もバスも、軒並み運休が決まった。

「先生、どうし……」

「コラボカフェも今日は閉店みたいだな。殘念だけど仕方ない。とりあえずバスの払い戻しは俺の方でしておくから。明日のバスの晝の分に切り替えて待とう。それが無理でも明日の午後になれば新幹線もくはずだから」

てきぱきと桐生が指示する。

「で、でも、一晩、どうするんですか!?」

「──よし、とれた」

スマホをいじっていた桐生が、朱葉に一通のメッセージを送った。

「送っていくよ。ここのホテル、今空きをおさえたから、急ぎ俺の名前でとったけど、フロントで書き込むのは朱葉くんの報でいいよ。俺もついていくし」

お金はクレカで払っておいたし、とそつのない言葉。

「泊まればいいから、って……」

送られてきたメッセージには、ビジネスホテルだろうか、ダブルベッド一室、一名様利用、と書かれてあった。

「先生は、どうするんですか……?」

おそるおそる、朱葉が聞けば。

「俺は男だし別になんとでもなるよ。今から空きをはってみるし、駄目なら駄目で、カラオケボックスでも、漫畫喫茶でも」

「そんなの、だめだよ!!!!!」

朱葉は思わずんでいた。外は強い、風の音。それに負けないように、大聲で。

「一緒に、泊まりましょう……!?」

──夏の終わり。

嵐はまだ、おさまりそうにない。

ドキドキの後編に続く!!!!(まだ書いてないからしりません)

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