《婚約破棄された『妖の取替え子』》セシル 過去<4>
王家は、妖の取替え子であるセシルについては靜観を貫いていたが、その魔力の多さは気になっていた。有事でもない限り魔法を人前で使うことなどないため公にはしていないが、昨今の王家の魔力量はかなりなくなってきていたためだ。下手をすると公爵家の方が、魔力量のある子供が生まれたりしている場合がある。
生まれてくる子供の屬は運と言われている。ならば、セシルのものが異質な魔力であっても、王太子バーナードとの間に生まれる子供の屬が通常のものであれば、母親のを引いて大量の魔力を持っていたりするのではないか、と求心力の下がってきた王家は考えた。ひとたび有事となった際に、膨大な魔力量で力を発揮する者が王家の者であれば、それはどれだけ英雄視されるであろうかと。ルーベルグは辺境の屬國であるため、基本的に有事となるようなことはないはずだが、それでも王家はいつの日か宗主國となる日を夢見ていないわけではなかったのだ。
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年頃になったセシルは、王家の影の報告によると伯爵家ではげられているようだが反抗もせず、唯々諾々と従っているらしい。授業をけている様子を見るにかなり賢いらしいが、伯爵や伯爵夫人の様子を見れば、高値で売り付けることが可能な相手を探しているようで、まともな婚姻相手ではなく、狒々爺や高利貸し商人のもとへ後妻や妾などとして差し出すことも考えているようだ。ならばその前に伯爵家からセシルをもらいけてしまおう。使わずに放っておかれる魔力であれば、王家に獻上すべきである。伯爵家にそれなりの見返りを與えれば、どのような扱いをしても文句はあるまい。
王家は、伯爵家の娘を王太子妃として長く置くつもりもなかった。とりあえず數人子をなしてもらって、あとは不慮の事故で消えてもらい、その後は周辺國の王などを改めて王太子に宛がうつもりでいた。最終的に王妃となるものの分としては、伯爵家の出では格好がつかないからだ。ただセシルを側妃なり妾に置かずに王太子妃とするのは、ルーベルグ國に側妃制度がなかったことと、萬が一生まれた子供が膨大な魔力を持っていた場合、妾の子供では王位継承権を持てないからである。子供の魔力が大したことがなければ、セシル共々消してしまえばよい、とすら考えていた。
同時に、王太子が現在學園で公爵令嬢と仲になっていることも王と王妃は憂慮していた。王家としては公爵家にこれ以上力をつけさせたくなかったこともあるが、なによりバーナードの前ではしおらしくしているが本來アリーナの格は傲慢で、茶會などで侍に対する苛烈な態度を見かけていた王妃は、アリーナだけは義娘としたくないと常々王に進言していたのである。
そうした王家の思のもと、領地で靜養という名で押し込められていたセシルとバーナードとの婚約が結ばれ、セシルは王都に無理やり連れてこられた。將來の王太子妃が病弱であるのは合が悪かったのであろう、王宮の醫師の診察をけさせられ、長年の領地での靜養の結果調は回復し萬全である、とありもしない虛弱快癒のお墨付きまで出された。すべては王命である。
最もセシルの魔力が異質であることや魔力量については匿されており、バーナードは知らされていなかった。だからこそバーナードは、伯爵家の噂としてあった通りにセシルには魔力はないものとばかり思っており、爵位も低く且つ魔力のないものとの婚約が腹立たしくて仕方がなかった。魔力持ち同士の子供しか魔力を持ちえない、ゆえに王太子であるバーナードの相手が魔力なしのはずがないであろう、などと考えることもなく。
実は、王は王太子時代に高熱で倒れたことがあり、當時生まれたばかりの現在の王太子以降、兄弟は生まれていない。
王には臣籍降下している王弟がおり、そちらには男児が複數いるため、王太子のスペアとして王位継承権を持つ男児が相応の教育をけているが、王太子は王の息子が自分一人であるために、従兄弟たちがそうした教育をけていることも知ろうとはせず、自分が何もしなくても次期王だと胡坐をかき、努力を疎んじる格をしており、すなわち頭の出來は非常によろしくなかった。
騎士を目指す一部の貴族令息は12歳から騎士養學校へ通うが、多くの場合は15歳からの3年間、貴族と平民であるが裕福な商人の子息令嬢、または特待生などが學園に通うこととなる。貴族にとって學園の意義は、基本は人脈や出會いを求めてではあるが、學力に応じて王宮の各部署への志願も可能となるため、學力もきちんと見定められる。だが、王立のためかバーナードの學力は忖度されていたため、常に上位クラスに席があった。
バーナードはそのクラスで馴染であった公爵家令嬢アリーナと再會して、その魅のボディに惚れぬいて人となっていた。アリーナが真実バーナードをしていたかは別として、バーナードはこれこそが真実のと思って日々薔薇に過ごしていた中で、いきなり王命で伯爵家の病弱な魔力なしと噂の娘と婚約が下されたのだ。彼が憤るのも仕方がないことだったのかもしれない。けれど、彼は王命という言葉の重さを考えることもせず、また周りも公爵令嬢という王家に次いだ地位にあるアリーナがいずれ王太子妃になると考えて彼に取りっていたため、別な人間が王太子妃になることを潔しと思えなかった。それゆえに、バーナードはセシルを疎んじ、アリーナ及び周りの人間もセシルに嫌がらせをすることに躊躇はなかった。
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