《婚約破棄された『妖の取替え子』》アレックスの畫策<2>
アレックスは実は々畫策していた。宗主國の諜報機関としての役割をも持つ魔法研究所で頭角を現していたアレックスは、セシルをルーベルグの王太子妃にするつもりはさらさらなかった。いや、ルーベルクの王や王太子がまともであればそういう未來もあったかもしれないが、あの王家及び王太子の馬鹿さ加減を見たうえで、空間屬を持つセシルを渡すわけにはいかなかった。そしてそれは宗主の判斷も同様である。
屬國の王族配偶者に空間屬保持者がいた例は過去一度、10歳前後から師事をけ年頃になって王族の婚約者となったという今回のセシルと同様のパターンだ。當時の魔法研究所ではかなりめたようだが、本人の意思が最重要とされた。自の屬が時により不可能犯罪をも可能とすることを王族に知られた場合、どういう扱いをけるかはわからない。それを自覚した上で自分の婚約者である王族を本當に信頼し伴とするならば、と最終的に當時の宗主から自らの自由意思において自分の伴及び國王に自の屬について話してもよいと許しを得た。
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以降その國は小國であるもの、常に王は自分を律し善政を敷いているという。おそらく王を継いだものには、宗主國が常に視る『目』を持っていることが伝えられているのであろう。宗主國としても、信頼できる國が増える分には助かるので、これは功例である。
だが、ルーベルク王國は無理だ、と早々に宗主及び魔法研究所は決を下した。毒杯を與えることを前提として王太子妃を王命とするような國は辺境國とはいえ、いずれ消えてもらうしかない。とはいえ今すぐ宗主國が表立ってく理由を見つけることはできないが、あの國に一時でもセシルを王太子妃として與えたいとは思えない。セシルの魔力量はかなり膨大で、またセシル自もかなり賢く、宗主及び魔法研究所で最初から契約済だ。かな発想力で、アレックスと共にもっと高度な魔法を生み出す可能をめている。宗主および魔法研究所にとってセシルは手元に置いておくべき逸材であった。だがセシルを宗主國に連れてくる際に、ルーベルグ王太子の婚約者であるという肩書は後々問題となる火種を抱えている。よって、早急に婚約の破棄・解消・撤回のいずれかを行わせなくてはならない、と話はまとまった。
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そこで、アレックスはこの婚約の反故に向け暗躍するよう宗主より命をけた。
ルーベルクの王家の考えを見るに、解消・撤回などはあり得ない。別な良縁を王子に與えたとしても、その場合は裏でセシルを囲う可能がある。それくらいならば、あの馬鹿王子を焚きつけて衆人環視の中で婚約破棄を宣言させようとアレックスは目論んだ。
魔法研究所以外では誰もが使えなくなっている魔法のいくつか―――今では伽噺くらいでしか出てこない魅了魔法や洗脳魔法など―――を、公爵家令嬢アリーナにこっそりかけておいたり、アリーナこそが王太子妃にふさわしいといった話し聲が學園の中庭などで王太子たちが寛いでいる時にしょっちゅう聞こえるようにしたりと、しずつではあるがしかし確実に王太子たちの心に積み重なるように、アレックスは學園で活していた。余談だが、この魅了魔法というものは本來的には本人が他者を魅了するためにある魔法である。今回アレックスは、他者を魅了の核とする今までにない新しい形の魔法を必要とした。これを実現させるために魔法研究所は約一か月間不眠不休で働かされた。勿論アレックス自もそれ以上にをにして働いていたが。『鬼、鬼畜』という同僚のびに、涼しい顔で『大事なセシルのため使えるものは何でも使う。それにセシルは既に契約してるんだから、いずれ君たちの同僚となるんだよ。未來の同僚のために頑張れ』とにこやかに黒く微笑みながら、自分より年上の同僚でも気にせず馬車馬のごとく使役したとか。
アリーナは自分が魅了魔法の力でバーナードを魅了しているなどとは知らないので、3年になってからバーナードが以前に増して自分にメロメロなのは自分の魅力だと信じていた。もともと王太子という肩書だけが魅力的でバーナード本人のことは何とも思っていないアリーナだったが、彼に気にられるため、満なをちらつかせながら彼を譽めそやし、その意に沿うように振舞って人の地位を得ていた。
そして、バーナードがセシルと婚約してから、なぜかバーナードが自分の言うことをかなり聞いてくれるようになったので、ここぞとばかりに卒業パーティでセシルとの婚約破棄を強くお願いする。側近たちも王太子の傍にいるためアリーナの魅了魔法の影響をけ、アリーナのみである婚約破棄を推奨する。
もともと馬鹿な王太子と一緒に學園にいた側近たちは基本的におべっか使い程度の能力しかない。王太子が賢い人間を嫌い、排除していたためである。唯一殘っていた常識的かつ良識のある乗馬好きの側近に対して、アレックスは彼の馬に強心剤を與えて遠乗り中に暴れるよう畫策し、結果複雑骨折により學園から一時退場してもらうことに功した。もともと自分ののにれたものを守るため敵に対しては躊躇のないアレックスは、相手に微塵も申し訳ないとは思っていない。それどころか、卒業パーティでやらかす馬鹿王子の傍にいないおかげで、厳罰に処されるだろう彼らの巻き添えを食らわなくて済むことを謝してほしいくらいだと本気で考えている。
というか、奴らは厳罰に処されろ、特に王太子、お前は絶対許さん。セシルは俺と共に魔法研究所に來るんだよ。お前なんぞに渡すか、コラ。ましてセシルに罵聲なんぞ浴びせやがって…と溜めていた怒りを呪詛のように呟きながらアレックスは謀る。本來アレックスはもっと大掛かりな策を弄することを好むのだが、今回はあくまで馬鹿王子がやらかすにしたいため、姑息な手段に終始せざるを得なかったことも、よりアレックスを苛立たせていたのかもしれない。
そうして、王太子たちを煽りに煽った結果、魅了魔法の影響をがっつりうけているバーナードは、學園のあちこちから聞こえる聲がアリーナを王太子妃とんでいるならこれは國民全の総意、ならばアリーナのみをかなえるのは當然だと思うようになり、卒業パーティで婚約破棄を行うことを決意する。
ちなみに卒業パーティを選んだ理由は、『婚約破棄は卒業パーティで』とアレックスがアリーナに洗脳魔法をかけておいたからである。後から撤回されないように爵位持ちたちが學園に來る場で宣言してもらうには、卒業パーティはちょうどよかった。セシルの人後にあるイベントがそれしかなかったからというのもある。バーナードから婚約破棄をけたら、すぐさま了承して神殿に貴族籍返還を申し出て、そのままこの國を出る―――それがアレックスとセシルの描いた流れだ。
一年をかけてしっかり罠は張った。魅了魔法が効きすぎたせいか、學園でセシルが嫌がらせをける結果となってしまったが―――あるいは魅了魔法関係なくアリーナの格が悪質なだけだったのかもしれないが―――、アレックスは以前渡した防壁機能の指を、魔法研究所でより改良を重ね一層度を上げたものに換えて、セシルが決して怪我をしないように渡してある。それでも萬が一調を崩したりした場合にはすぐに治癒できるよう、學園のいくつかの場所にこっそりセシル専用回復拠點を作るなど、アレックスは過保護なほど用心を重ねつつ、セシルの卒業の日を待ちわびていた。
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