《婚約破棄された『妖の取替え子』》それから
あの婚約破棄の日から1年が経過し、セシルは今宗主國の魔法研究所でアレックスたちと共に、魔法研究所の隠れた一大イベント―――『妖の取替え子』事件―――に向けて、最終調整中である。両家及びその子供たちに不便をかけるのだから、試練が終わった後は妖の加護を得るという言い伝えの通りに、その後の彼らの様子もしっかりチェックして、困ったことがあればこっそりサポートする許可も宗主からもらってある。あとは、決行日を待つだけだ。
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あの日以降、多くのことが変わった。ルーベルク王國のラウンディード伯爵家令嬢セシルは王太子から婚約破棄及び貴族籍剝奪の命をけ、失意のうちにそのをくらました。おそらく自死を選ぼうとしたのではないかと言われている。そうして、彼の嘆き悲しむ様子を楽しんだ悪戯好きな妖が、彼を連れ去ったのではないかと。
その後、主神殿から全神殿向けに『異質』な屬に対する通達があり、合わせてセシル・ラウンディードが魔力なしではなく実は複屬持ちで稀有な魔力量を持っていたことがルーベルク王國で公となる。伯爵家でのセシルの扱いもメイドの証言などから報告され、伯爵家及び王太子たちの態度に非難が浴びせられた。特に王太子が何の権限もなく婚約破棄と貴族籍剝奪を告げたことは、王命に対する反逆と捉えられ毒杯を賜ることとなった。側近たちも主君を諫めず反逆に加擔したとして、各家は一段階降爵、そして彼ら自は廃嫡され平民となるという厳しいお達しが下った。複雑骨折の彼は、直近の三か月ほど領地で療養中であったため、連座を免れることが出來た。新しく立太子したのは王弟の息子で、立太子式も恙無く終了したとか。
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公爵家令嬢アリーナは婚約破棄を起こした一因として修道院送りとなったが、それ以外には特に表立った罰は與えられなかった。王命に背き勝手な宣言を行ったのはあくまで王太子及び側近であり、その場にいただけの人にどこまで責を取らせられるかは難しい問題だったからである。ただ、公爵家は降爵こそなかったものの、その発言力はかなり低下することとなってしまった。さらに、學園で行っていたアリーナの嫌がらせの容が正義ある令嬢たちからその親たちへと告げられ、あっという間に社界の噂となってしまい、アリーナがほとぼりが冷めたら戻ってこようとしてもかなり難しい狀態となっているという。
とはいえ、アレックス曰く『あの険我が儘令嬢が修道院で我慢できるはずないから、噂が落ち著いたら絶対還俗するだろう』と。一般的には問題を起こした彼に求婚なんてあり得ないが、下位の沒落貴族なら持參金目當てで求婚する可能は高いと言うが、セシルとしてはそんな沒落貴族の奧方になるのはプライドの高い彼が納得できないだろうから、それこそが逆に罰だと考えてしまう。
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また、ルーベルク神殿の神長も、以前主神殿から送られた書簡を放置して、伯爵家に連絡をれなかったこと、それによりセシルのの安全が守れなかったこととして、神長の分を剝奪された。実務に攜われないほど耄碌していた時點で、さっさと神長の位を譲り渡していたら、今回こうやって剝奪までされなかっただろうに、と可哀そうに思わないでもないが、神長の安易な決めつけのせいで自分の人生を変えられたセシルは、それも自業自得だろうと割り切っている。
ルーベルク神殿にだけ事前に事務書類のような形で書簡を送っていた理由は、魔法研究所が今回の魔力に関し一時解析が完了したので、人の一生を左右する大事な案件と思われるため、取り急ぎ第一報を送ったというにしたらしい。その後、再度容の確認を行い、査の上、全神殿に注意喚起及びお知らせという形で重要書簡として送付したと主神殿は説明している。
そして、伯爵家もまたセシルへの非道がばれて針の筵らしいが、それ以上に伯爵夫人が毎日泣きんでいるらしい。自分の娘になんてことをしていたのかと。
セシルとしては、何を今更としか言いようがない。
セシルがんでいた時にはばした手を振り払い、それどころか罵倒し時には頬を打ったこともあるような人間が、今更半狂になろうともそれはもはや他人でしかない。
他貴族から遠巻きにされてもいるし、何より伯爵たちが何も手につかず満足に仕事もしていない狀態だから、このままだと爵位返上もありうるかもね、とアレックスがいうが、伯爵家皆が後悔に苛まれていたとしても、もはやセシルの心は何もかなかった。
伯爵家が後悔していると聞けば、ざまあみろと思えるかと思ったのに。
セシルは自分の心が凪いでいるのが不思議に思う。もっと、高笑いしたい気持ちになると思っていた。ざまあみろ、とびたくなると思っていた。けれど、思ったのは『どうでもいい』。
8歳のあの日、妖の取替え子などではなく、自分は普通の人間ではないかということに思い至ったあの日、師を待とうと思ったあの日、自分の中で親兄弟はいなくなったのだと今になって思い至った。あれ以降、心を満たすのはいずれ現れてくれるであろう師だけで、実際に現れた後も、師は自分を見守り、育んでくれた。師こそすべて、それ以外はもう『どうでもいい』のだ、と。
婚約破棄されたあの日、移転魔法で魔法研究所まで連れてこられたセシルは、アレックスから『セシルはもう誰にも傷つけさせはしないからね。萬が一セシルに何かあったらその相手は生きていたことを後悔させてあげるから』とさらっと恐ろしいことを言われ、そのまま他の職員の前で勝手に嫁宣言をされた。
自分が師には抱いていたが、師はせいぜい妹枠程度のしかもっていないと思っていたセシルは、アレックスの言葉に真っ赤なまま聲も出せずにいたが、周りのヤジなどを聞くにアレックスは新居まで準備してセシルを囲う気満々であったらしい。
その日からセシルは毎日幸せで、背中に羽が生えたかのように心が軽い日々を過ごしている。
アレックスのことを師ではなく名前で呼ぶように言われ、恥ずかしくはあるものの名前を呼び、まずは婚約者として過ごすようになった。アレックスの家族である宰相家の皆とも顔合わせをして、婚約を喜んでもらった。お義父様、お義母様と呼ぶことも既に許されていて、お義母様とは時々買いに一緒に出掛けたりもしている。アレックスとその家族こそが自分の新たな家族だ。が繋がっただけの他人のことなど気にする暇はない。自分の存在を肯定してくれるアレックス家族と仲間である魔法研究所の皆、この場所でセシルはこれから生きていくのだ。
これで完結です。落ち著いたらアレックス側のお話を番外編でれたいと思っています。
もしも変わってしまうなら
第二の詩集です。
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