《辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節らしい〜》(16)聞きたいこと

「私の思考が無防備なままだとして、もしかして他の人にも私の思考が丸聞こえだったりします?」

「相手によるだろうな。普通の魔力程度なら、特別に集中して魔力を練って、じっくり思考を読もうとしなければ読めないだろう。読みたくないのに読めてしまうのは、私くらいのものだろう。全てが頭にってくるわけではないがな」

「……つまり、お兄さんは普通じゃないってことですね。自慢ですか?」

「自慢するほどでもない。ただの事実だ」

全く謙遜していない。でも誇っているようでもない。冬は寒いとか、夏は暑くなるとか、その程度のことを話しているようだ。

このお兄さん、ものすごい自信家だ。

でも、きっとその自信が大袈裟でない人なのだろう。それに桁外れに金持ちそうなのはいいことだ。目は怖いけど。

私の日焼けに気を遣ってくれたし、超上質そうなマントを敷にしてくれたし、相談にも真面目に応じてくれた。表以外は悪い人じゃなさそうだ。

私はふうっと大きく深呼吸をした。すぐにきりりと目を開くと、すぐ橫に座っているお兄さんへとを乗り出した。

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「実は、お兄さんにお聞きしたいことがあります」

「……思考防護の方法なら、初歩的なことを教え慣れている人間に聞け。私はそんな低レベルなことはしたことがない。やり方など知らんし、教えるほどの知識もないぞ」

「あ、いや、それも聞きたかったですが、もちろん他の人に頼みます。それよりもっと重要なことを聞きたいんです」

私の言葉を聞き、お兄さんは僅かに眉をかして表を改めた。今から言おうとしていることは、まだ聴こえていないらしい。

……ううっ、張してきた。でも、これはぜひ聞かねばならないことだ。

もう一度深呼吸をして、私はさらにぐいとを乗り出した。

「お兄さんは貴族ですよね?」

「そうだ。お前は田舎から出てきたばかりだから知らないようだが、これでもそれなりの……」

「魔力がとても強いってことは、そう言うことですよね! と言うことで、お兄さんは獨ですかっ?」

「…………何だと?」

真剣に聞いたのに、お兄さんは一瞬きを止め、何度か瞬きをしてから顔をしかめてしまう。

私はさらに質問を重ねた。

「その表ということは、もしかして、もう結婚してしまってるんですか?」

「……していない」

お兄さんの目が真冬並みに冷たいけど、私も引く気はないし、負けるつもりもない。

だってこれは、極めて重要なことだから!

「では、婚約者はっ?!」

「……おい、お前はいったい何の話を始めたんだ? 私は他人の思考をわざわざ覗く趣味はないんだ。もうしわかりやすく話をしろ」

「つまりですね。もし婚約者がまだ未定なら、私の姉はいかがでしょうか! 人で優しくて將來的には爵位もちで、とにかく人で完璧ですよっ!」

勢いをつけてを乗り出したら、お兄さんにものすごく嫌な顔をされてしまった。さらに頭痛を堪えるように額に手を當てている。なぜ?

「……待て。なぜお前の姉が出てくる?」

「お兄さんはかなりの、いやものすごいお金持ちでしょう? それに自信満々なほどの魔力持ちで、かなりの貴族なんですよね? 目つきは悪いけどよく見たら顔立ちはいいし、背は無駄に高いし。別に変なことは言ってませんよね? 姉は私と違って魔力もかなり強いです。いかがですかっ?」

勢い余ってお兄さんの服を摑んで熱弁をう。

でも、無にも手は振り払われた。

「お兄さん?」

「お前のその熱は全く理解できないが、私は誰とも結婚する気はない」

「……そうですか。殘念です。でも気が変わったら、売り切れる前に人で有能な姉をどうぞよろしくっ!」

めげることなく言い切ると、お兄さんは呆れたようにため息をついた。

目を逸らしながら「子供の思考は理解不能だ」とかつぶやいているのは、聞かないふりをしてあげよう。

それに、ぶつぶつ言っているけど、私の言を怒っているわけではないようだ。その証拠に頭に小鳥が戻ってきて、ちょこんととまった。

ちょっと頭を傾げる小鳥さんは、とても可い。野生の小鳥がここまで懐くなんて普通の人ではない。魔力のせいなら、本當にとんでもない人ですよ!

これは超絶に優良件だ。

お姉様の好みはよくわからないけど、なくともクズ男よりずっと圧倒的にいい人と思う。

「お兄さん、もっと姉の話を聞いてください! また會ってくれますか!」

「……運がよかったら、會えるかもしれないな」

小鳥さんがどんどん集まってきているというのに、お兄さんはそっけない。でも最初の時ほど怖くはない。それに、さっきから目を逸らしているけど、口元がちょっと笑っている。

ふふふ。

これは全くの脈なしではないかもしれませんね!

とニヤニヤしていたら、ギロリと睨まれた。怖い……と直していたら、お兄さんは徐に腕にとまっていた小鳥を片手で包み込んだ。

そのまま、私の頭にポンと乗せた。頭に小鳥の腳があたり、ちょっとチクチクする。

おお……野生の小鳥に頭に乗ってもらったのは初めてだっ!

思わず歓聲を上げると、小鳥はちょっとパタパタと翼をかした。……大きな聲を出してごめんなさい。

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