《辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節らしい〜》(17)お姉様のお友達

「リリー。今日はとてもご機嫌なのね」

馬車の窓から外を見ていた私は、オクタヴィアお姉様の聲で我に返った。

どうやら、鼻歌を歌っていたらしい。

「最近、し暗い顔をしていたでしょう? だから、嫌なことがあるのではないかと心配していたのよ」

「えっと、きっと都會生活に慣れていないからだと思いますよ」

「……そうなの? それならいいんだけれど。王都の生活には慣れたのかしら」

「それなりに慣れました」

「それはよかったわ。……でも、あまり屋敷を抜け出さないでね。しくらいは大目に見てあげるけれど」

私をじっと見ていたお姉様は、私の頬に手のひらを當てながら、小さくため息をついた。

私がストレス解消目的で屋敷を抜け出していることをわかってくれている。でも、やっぱり心配をかけていたようだ。

まあ、それは當然だろう。

普通の貴族令嬢は、一人で屋敷を抜け出してふらふら街中を歩いたりしない。

ほんのし反省をしていると、お姉様はふわりと笑った。

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「お茶會なんて、リリーは嫌いだろうと思っていたけれど。しは楽しみに思ってもらえたのかしら」

「はい。だって今日お伺いするのは、お姉様のお友達なのでしょう? 嫌な人ではないはずだし、初めて伺うお屋敷にも興味があるんですよ!」

「それなら嬉しいわ。でも、今日はふらふらと歩き回らないでね。ローナは大らかな人だけど、代々軍人の家系なの。変なところに迷い込んで、うっかり表に出してはいけない話を立ち聞きしないようにしてね?」

……そ、そんなこと、するわけないですよ?

でも、うっかり私がやってそうなことだから、お姉様に向けた笑顔がちょっと引きつってしまった。

私たちをお茶に招いてくれたのは、ローナ・フォーリン様。

フォーリン伯爵家は王家の信任が厚い軍人の家系で、軍務大臣の地位にあるローナ様のお父様は、國王陛下のご學友だった方らしい。

訪問した伯爵邸も、王都の貴族の屋敷にしては壁が熱く、窓が小さい。大通りに面している側だけでなく、四方全ての塀が高くて頑丈そうだ。

守りがくて々しい雰囲気がする。有事にはこの屋敷が防衛の要になるんだろう。

でも、こういう屋敷は好きだ。

私が育ったアズトール領にし似ているから。

どうやら、お姉様も同じようにじているらしい。

ゼンフィール侯爵邸を訪問したときより、周囲を見る時の顔が明るかった。

そして迎えてくれたローナ様は、にしてはとても背が高かった。オクタヴィアお姉様と同じくらいで、骨格ががっしりしている。軍人の家系だから、ローナ様も武を嗜んでいるのかもしれない。

特別な人ではないけれど、とても魅力的な笑顔のだ。

「オクタヴィア。よく來てくれたわね。あら、今日は特にきれいに見えるわね。何だか堂々として見えるわよ?」

「きっとリリーがいてくれるからね。私、妹がいる時は前向きになれるのよ」

お姉様とローナ様は親しげに言葉をわしている。

私は順番が來るのをじっと待つ。

大人しくすると約束しているから、ふらふらと庭に向かわないように窓の外は見ないようにしていた。

でも待つまでもなく、ローナ様は私に目を向けた。緑の大きな目でじっと見つめられたと思ったら、いきなりギュッと抱き締められた。

「かわいいっ! どうせオクタヴィアの贔屓と思っていたのに、本當に可いわっ! リリーちゃん、私のことはローナお姉様と呼んでいいのよ?」

とても友好的なだ。

でも……お、おでちょっと息が苦しいです!

失禮にならない程度にもがいていると、オクタヴィアお姉様がこほんと咳払いをして、ローナ様の肩をポンと叩いた。

「ローナ。そんなに抱き締めたら、リリーが窒息してしまうわ。解放してあげてちょうだい」

「あ、あら。ごめんなさい。小さくて可い子だから、つい。さあ、こちらに座って。今日はフォーリン領のお菓子を用意しているのよ。ガレルという木の実を使っていて、ちょっとクセがあるけど味しいのよ」

ローナ様は私を抱き抱えるように椅子へと案してくれた。

それを見ながら、オクタヴィアお姉様は呆れたような顔をしているけど、そんな素の顔を見せているというということは、ローナ様とは本當に仲がいいのだろうな。

よし、今日は一杯に大人しく振る舞います!

……と思っていたけど、さすがに食べさせられすぎた。

ごめんなさい。もうお腹がいっぱいです。

なのに、ローナ様はまだお菓子を勧めてくる。かに戦慄していると、私たちがいる部屋の扉を叩く音がした。

「ローナ。しいいか」

返事も待たずにってきたのは、剣を帯びた若い男の人だった。

がっしりした型で、いかにもな武人だ。緑の目と亜麻の髪がローナ様と同じだし、遠慮が全くないから兄弟なのかな?

そんなことを考えながら見ていたら、その武人さんは扉から數歩進んだところでぴたりと止まってしまった。

ばかりのお茶會に怯んだのかもしれない。

「もう、お兄様! いきなりってこないでよ! 今日はお客様をお迎えすると言っていたでしょうっ!」

「……あ、いや、ごめん。その、しばらく軍部に詰めるから、屋敷には戻れないと伝えておこうと思って……今日來るのはオクタヴィア嬢と聞いていたし……」

どうやらローナ様のお兄様らしい。

ローナ様はオクタヴィアお姉様と同じくらいの年齢と聞いている。そのお兄様だから、二十二、三歳くらいだろう。

でも、妙に慌てているというか、挙が不振だ。

王家を守る武人なのに、そんな慌てっぷりで大丈夫ですか?

と思っていたら、ローナ様のお兄様は何度も咳払いをしてから私をチラッと見た。

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