《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》82※

クーは馬車の幌の上から、固定砲臺としての役割を擔ってもらっている。これは前から決めていた役割だ。

クーの武は、短弓。一応近、中距離とカバーできる武ではあるものの、やはり接近戦は危険がある。よって、この役割。

……もう1つ理由があったりするけれど、まだそれは言わないでおこう。

「さて。…この距離はクーの短弓は屆かないわね」

とはいえ、わざと馬車に近づける訳にはいかない。だから、2人で叩く。

「じゃあ、決めていた通りに」

「はい」

リーフィアが杖を構え、魔法を行使する。

「《ウィンドカッター》!」

數本の不可視の刃が、木(・)々(・)に襲いかかる。

ウィンドカッターによってその太い幹が切斷され、木々が倒れた。

「キキィ!?」

それと同時に、驚きの聲を上げながら魔獣も落下してくる。わたしはこれを待っていたのだ。

「はぁぁっ!」

一気に駆け寄り、その首を切り飛ばす。

「…そこっ!」

後ろを振り向きつつ、投げナイフを投擲する。すると見事に魔獣の眉間へと突き刺さり、絶命したのか木から落下してくる。

「あとは…っ!リーフィア!」

あともう一というところで、その魔獣がリーフィアへと襲いかかろうとしていた。

わたしは咄嗟に聲を上げたが、遅かった。

リーフィアへと魔獣の手が迫り………しかし、その手は屆くことなく地面へと落下した。

「大丈夫?!」

「は、はい…お姉ちゃんのおかげです」

見ると部分に矢が突き刺さっている。クーの仕業だろう。

「…にしても、よくこの距離を」

わたしだったら、確実に外していた。…ううん。外すだけならまだいい。すぐ近くのリーフィアに當たっていた可能だってあるだろう。それを、クーはやってのけた。

「…ごめんなさい。足を引っ張ってしまって」

「謝ることじゃないわ。リーフィアが無事だっただけでもう安心よ。でも、次からはちゃんと周りの把握もね」

「は、はいっ!」

とはいえ、わたしにも落ち度はある。しリーフィアから離れすぎた。

「さぁ戻りましょう」

「そうですね」

とりあえず魔獣の死を掘って地面へと埋める。解は技として持ち合わせてはいない。男子の選択授業には含まれているため、ヴィクター達は出來るだろうが、そもそも時間が無い。

「よし。行きましょう」

「はい」

は燃やす。そうしないと他の魔獣が寄ってきてしまって、帰り道に待ち伏せされてしまう恐れがあるから。

リーフィアと共に馬車へと戻る。先にヴィクター達も無事に倒せたようで、もう既に出発の準備が整っていた。

「待った?」

「いや、さっき準備が終わったとこだ。直ぐに出るぞ」

「ええ」

早く進まないと、先程の戦闘の音で魔獣が寄ってきてしまうからね。

「あ、そうだ。クー、これ」

「ん?……あぁ、別にいいのに」

クーに渡したのは、魔獣へと命中した矢。鏃は無事だったし、矢は消耗品なので回収してきた。もちろん投げナイフも。

「持っときなさい。いつ何があるか分からないんだから」

「……そうだね」

クーが矢をけ取り、歪みがないか確認した後、腰に著けた矢筒へと仕舞った。は拭いといたからね。

「あと何本?」

「えっと…14、かな」

用意していたのは15。なかったかしら……

「まぁ無駄撃ちはしないように気をつけるよ」

「…そうね。最悪村で買いましょう」

一応その判斷も視野にれつつ、わたしたちの馬車はガタゴトと揺れながら、森を進んで行った。

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