《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》96

ナターシャが森の中へと消えた後、クーリアは腰に著けた矢筒から2本の矢を取り出した。

「…これ…かな…」

クーリアはそう呟きながら、腰の橫に著けたポーチから小瓶を取り出す。その中は青いで満たされていた。

「あー……うん、まぁいっか」

小瓶に付いたラベルを見て、クーリアがそう呟く。その反応からして取り出したいとは違ったようだが、どうやら大丈夫らしい。

小瓶の蓋を捻って開け、2本の矢の鏃(やじり)をその中へとれ込む。

「…付いたかな」

クーリアが鏃を引き抜き、確認する。

小瓶を満たしていた青しトロっとした粘著があるだったので、しっかりと付著したようだ。

「よしっと」

小瓶の蓋を固く閉めてポーチへと戻し、クーリアはその2本の矢を弓に番えた。

「……《リブート》」

強化の呪文を呟くと、ヒュンッという風切り音を鳴らしながら2本の矢が同(・)時(・)に(・)放たれた。

「…《リモート・ロック》」

続けて追尾の魔法を発。真っ直ぐ並んで飛んでいた2本の矢は、それぞれ別々の方向へと軌道を変え、森の暗闇へと吸い込まれて行った。

「……ちっ」

しして、クーリアが舌打ちをする。

「1人躱された…」

クーリアの放った矢を躱されたようだ。

《リモート・ロック》は遠隔作の魔法の一種だが、止めることは出來ない。そのため、木々が集する場所で木の影に隠れられると當てられないのだ。

(暗闇で見えないと思ったのに…)

実際1人には當たっているので、クーリアのその考えは合っていたと分かる。が、そんな暗闇で見えにくい矢を躱すことが出來た敵。間違いなく手練だろう。

「…《リ・ゾーン》」

…だが、それをクーリアが予想しなかった訳が無い。

クーリアが呟いた呪文。それにより行使される魔法。それは、再(・)強(・)化(・)の魔法。

再強化された矢は突き刺さっていた木すら貫通し、その影に隠れていた敵へと命中した。

「…よし。捕獲っと」

殘っていたもう1人にも矢が命中し、クーリアがそう呟いた。

(…これは、わたしだけの

強化に強化を重ねる魔法は存在しない。後から掛けられた強化が打ち消してしまうからだ。しかし、クーリアはそれを可能にしてしまった。だが、それは使い方を誤れば強力な兵(・)(・)となる。それ故の匿。

(…単純な話なんだよね。付(・)け(・)加(・)え(・)れ(・)ば(・)いいだけなんだから)

考え方の違いだ。重ねるか、付け加えるか。

クーリアが最初に強化した効果は、『速さ』

次に付け加えた強化は、『力』

それぞれが異なるからこそ、付け加えるという強化が可能になるのだ。

「…なるほどね。確かに見られたくはない、か」

「っ!?」

ばっ!とクーリアが振り向く。後ろにはいつの間にかナターシャが立っていた。どうやら一連の行為を見られていたようだ。

「あぁ、ごめんなさいね。でも誰にも言わないから安心して」

「……まぁ、いいです。信用はしてますからね」

「あら嬉しい」

クーリアから信用していると言われ、ナターシャが本當に嬉しそうに微笑む。

……だが、次のクーリアの一言でその笑顔は消え去った。

「もし話したら、死ぬだけなので」

    人が読んでいる<出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないを望む>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください