《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》104

魔獣がいる場所から過ぎ去った馬車だったが、無論クーリアを置いていくという判斷などできる訳が無い。

「ヴィクター!止めて!」

「無茶言うな!」

「こっちは制するので一杯だよっ!」

當然だ。クーリアによる強化が施された馬車を、いきなり止めることなど出來ない。今現在でも、2人がかりでようやく制出來ている程だ。

さらに言えば、ここで止まれば他の魔獣に追い付かれる危険がある。止める訳には、いかない。

「あぁもうっ!あの子のバカっ!」

馬車が止まれないならとサラが飛び降りようとする。

……しかし、外に出ることは葉わなかった。

「なっ!?」

馬車をクーリアの防魔法が未だ覆っていたのだ。それが壁となり、外に出ることが出來なかった。

「…これは、わたしでも壊せないわよ」

ナターシャがその壁にれ、そう呟く。

クーリアの防魔法は一層ではなく幾重にも重なり合っており、鉄壁であった。

正直ナターシャが壊そうと思えば壊せなくはないものだったが、馬車そのものが吹き飛ぶ程の魔法が必要であった為に、壊せなかった。

「…恐らく、これはわたし達が王都に著くまで解除されないわ。展開している間、あの子に負擔が掛かり続ける。わたし達が早く王都に著くことが、あの子の為になるわ」

「………」

その言葉を聞き、サラが拳を固く握りしめる。

……だが、それはナターシャとて同じこと。本來ならば生徒であるクーリアを守らなければならない立場なのだ。それが、果たせない。

(……何が、冒険者よ。たった1人、守れないのに)

その時、ナターシャが元から何かを取り出す。それは、小さな1枚の石版だった。

「…それは?」

その存在に、リーフィアが気付いた。

リーフィアの言葉に反応し、サラも顔を向けたが、それが何かを知っているようだった。実際、もう既に興味を無くし、馬車の後ろ…クーリアのいる方を見つめていた。

「これ?魔導石版っていう、連絡道よ」

魔導石版は実力が認められた冒険者に配られる連絡用の魔道の一種。クーリアが持っている通信とは異なり、これ一つで様々な場所と連絡を取ることが可能な代だ。

「今の狀況を伝える必要があるから」

「…なるほど」

伝えるべきことはクーリアのこと……だけではない。王都近くに現れた、大型魔獣の存在も伝えなければならない。

連絡方法は単純。魔力を流しながら耳に當てるだけだ。その連絡先は…

「………おじいちゃん」

ナターシャの祖父。ドリトール・マクスウェルだった。

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