《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》112

「こっちかな……?」

聞こえ続ける聲だけを頼りに、薄暗い森の中を進んでいく。

最初は風の音にさえ掻き消されてしまうほどの聲だったが、今ではよりハッキリと聞こえるようになった。それだけ近付いている証拠だろう。

『……ナイ』

「え…?」

その時。突然、明確に言葉と判斷できる聲がクーリアの耳へとってきた。

(なんだか…このまま進んじゃダメな気がする)

戻れなくなる。そうクーリアは直した。

聞こえた言葉に含まれていたは……憎悪。

すらも通さない、深い闇。

(何故……)

無論、その理由をクーリアは知りはしないだろう。だが……そのを何故か、クーリアは知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

「わたしは……誰? あなたは、一……」

思わずそう呟く。その聲は震え、薄暗い森の中へと吸い込まれた。

『……オイデ』

「っ!?」

明確に響いた、クーリアを呼ぶ聲。その言葉に、逆らえなかった。

クーリアの意志とは関係なく、足が進む。まるで、誰かに手繰り寄せられているかのように。

「っ」

クーリアは魔導銃を引き抜く。そして自分が向かっている方向へと引き金を引いた。

「當たった…?」

もとより見えない相手に撃ち込んだ為、當たったかどうかすら分からない。だが、引き寄せられる力は弱まり、クーリアは立ち止まることが出來た。

「なんだったの…」

引き寄せられる力は完全に無くなった訳では無い。つまり倒せてはいない。

『…ナイ。…ユルサナイッ!』

「っ!?」

ぶわりとがよだつ。深い憎悪とともに、強い敵意をそのに浴びた。

だが、それらのはクーリアに対して向けられたものでは無いようだ。

(……止めないと)

クーリアはその気持ちに駆られた。何に対しての憎悪と敵意であるかは不明だが、止めなければ大変なことになるのは目に見えていたからだ。

「すぅー…はぁー…」

深く息を吸い、吐く。

魔導銃に次弾を裝填する。本能的に魔導銃が効く相手ではないと理解していたが、それでも、だ。

(…自分って何なんだろう)

こうして聲を聞くことも。本能的に効かないとじることも。普通の人間ではない。

「…まぁ、もうどうでもいいか」

既にクーリアは、自の命が風前の燈であることを理解していた。明日まで生きることは、もはや葉わない。ならば、自分が何者なのかを知る必要は、最早ない。

死にたくはない。クーリアも、昨(・)日(・)ま(・)で(・)は(・)諦めていなかった。――だが、もう手遅れだと、クーリアの本能が告げる。

「…あ。リーヴォどうしよう…サラが飼ってくれるかな」

家に殘してきたリーヴォを心配する。帰ることは、葉わないから。

「…ごめんなさい」

小さな謝罪は、森に消える。

クーリアが走り出す。

決して振り返ることなく。

その後ろに、る雫だけを殘して。

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