《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》114

しばらく進むと、開けた場所に出た。そしてクーリアの目に飛び込んできたのは、その中心に佇む、それ。

「ここ、は…」

突然目の前に現れたものを見て、クーリアが言葉を失う。それは、クーリアにとってとても見覚えのあるものだった。

のフレームで形作られた、ガーデンハウス。あのがいた場所。

(なんで、ここに…)

ここは森の最深部。クーリアの記憶が正しければ、このガーデンハウスは比較的王都に近い場所にあったはずだ。

「……これ、放置されてる…?」

しばらく眺めて、その結論に至る。形は保っているものの、ところどころ部品が欠落し、蔦が絡んでいる。放置されたもので間違いないだろう。となれば、これはクーリアが知るものとは別のようだ。

「でも、なんで…」

何故、放置されたのか。要らなくなった、という可能もあるが………

『…知リタい?』

「っ!?」

突如、聲が響いた。それはあの時、クーリアが聞いた聲で。

「ど、どこ!?」

クーリアの問いかけには答えず、代わりにガーデンハウスの奧の茂みが揺れる。咄嗟にクーリアが魔導銃を構えた。

『ココは礎(いしずえ)』

そんな言葉を紡ぎながら、茂みからソレが姿を現す。その姿は、何処と無くクーリアに似た、白い、小さなだった。

「礎…?」

『ワタシの、ケド、モう必ヨウナイ』

靜かに言葉が響く。

(わたしの、礎…? でも、必要ないって…)

「一、何を言って…いえ、あなたは、誰?」

『……』

は答えない。だが、その白い、細い指が、クーリアを指す。

「わた、し…?」

『アナタはワタし、ワタシハ、アなタ』

答えになっていない。

『オワラセル。今度コソ』

「…それは、させないっ!」

クーリアが魔導銃の引き金を引く。けれど……

『ジャマ、するナ』

「きゃっ!?」

暴風が吹き荒れ、弾丸すらも弾き飛ばしてしまった。

『何故ダ? オ前も、モウ分カってイルはずダ』

「……ええ、そうね」

終わらせる。その意味を。理由を。知っているから。いや、思い出した(・・・・・)から。

「でも」

クーリアが魔導銃をもう一度構える。

「わたしには、護るべきものがある。例え、わたしと(・・・・)戦うことになろうとも」

『……愚カな。勝テナイと分かっテイテモ、か?』

(そう。確かにわたしは勝てない。本(・・)に、勝てる訳が無い)

「愚かでもいい。でもわたしは……わたしは、もう(・・)、誰も失いたくない」

『………ダマレ』

「あなたも、そうでしょう? もう、こんなことに意味なんて」

『ダマレッ!!』

強力な、怒気が含まれた威圧。クーリアが思わず息を飲む。

『人ゲンナド、同じダ。あ(・)ノ(・)時(・)カ(・)ラ(・)変ワリなドシナイ』

「違う。人は変わる」

『……ナラバ、そノで知レ』

「――っ!?」

その瞬間、クーリアの意識が暗転した。

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