《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》117

サラ達のきが止まる。

「クー……?」

サラがおずおずと問いかけ、近付こうと1歩足を踏み出す。だが、その肩をナターシャが摑んだ。

「待ちなさい」

「でもっ」

「よく、見なさい」

そう言うナターシャは、悲しみと怒りがじったような表を浮かべ、クーリアを見つめていた。

サラがナターシャからクーリアへと視線を戻す。するとクーリアの俯いていた顔が上がり、2つの紅い(・・)瞳が怪しげにりを放ち、サラ達を抜いた。

「っ!?」

サラが驚きの余り息を飲む。

「……まさか、こんなことになるなんてね」

「クーに、一何があったんです!?」

知っているような口ぶりをするナターシャに、サラが思わず詰め寄る。

「……『魔力暴走』よ。『魔力崩壊病』が進行し、重癥化した時に稀に起こると言われているわ」

魔力崩壊病は言わば魔力の制が効かなくなるということだ。その為、制を失った魔力が暴走し、その人自を飲み込んでしまうことがある。それが、魔力暴走だ。

魔力暴走となった人の特徴は総じて、『紅い瞳』を持つ。だからナターシャは、クーリアが魔力暴走を起こしていると判斷した。

「っ!? 伏せてっ!」

ナターシャが焦ったように指示を出す。その直後、サラ達の後ろにあった木々がなぎ倒された。

「今のクーちゃんは理を失っているわ。本気でわたし達を殺しにくるわよ」

「そんな……」

そう話している間にも、クーリアの攻撃は止まらない。

クーリアが扱う魔法は無屬。それは攻撃には不向きな屬だ。だがクーリアは、魔力の塊を高い制力で刃のようにして放ってくる。攻撃力は高い上に、不可視の魔法だ。

(噓でしょっ!?)

サラはこの攻撃方法を今まで見たことがない。それ故に対応が遅れてしまう。

「痛っ!」

魔力の刃――魔刃がサラの腕を掠めた。し掠っただけでも、激痛が走る。

「《結界》!」

リーフィアが結界を全面に展開し、クーリアの攻撃をけ止める。だが、それも長くは続きそうにない。現に結界は、クーリアの魔法をけて悲鳴をあげていた。

「どうすればクーを助けられますか?」

「……魔力をできる限り消耗させるしかないわね」

暴走の原因となっている魔力を減らせれば、理を取り戻す可能は(・・・・)ある。だが、それは賭けだ。さらに言えば、サラ達はそれまでクーリアの魔法を躱し続けなければならない。

(これは流石に無理よ……)

サラはクーリアの実力の一端を知っている。だからこそ、クーリアの魔法を躱し続けるということの不可能さを、嫌という程理解していた。

そうして悩んでいるうちに、結界が音を立てて砕け散る。だが、すぐさまリーフィアが追加で結界を展開する。しかし、リーフィアの消耗は激しかった。

「リーフィアちゃんは後方で魔法の援護を! わたしとサラちゃんはクーちゃんの魔力消耗を最優先に。それと……」

ナターシャはサラに2発の魔導弾を手渡した。

「これは……?」

「…魔封弾と呼ばれるものよ。もしクーちゃんが理を取り戻さなかったら……これを撃って」

「撃てば、どうなるんです…?」

しかし、サラは撃てばどうなるかを何となく察していた。

「……死ぬでしょうね」

魔封弾。それはその名の通り魔力(生命)を封印する弾だ。対人専用に開発され、戦後その製法を匿された止弾である。

「……」

「でも、クーちゃんに人殺しをさせない為にも、ここで止めなくちゃならない。……あなたには、人殺しをさせてしまうけれど」

魔封弾は魔導銃で撃ってこそ真価を発揮する。だが、ナターシャは魔導銃を持っていない。サラの銃はサラしか使えない為、サラにしかできないのだ。

「……わかり、ました」

サラは震える手で、1発の魔封弾を回転弾倉の最後に込める。

(……こんな形で、本気のクーと戦いたくなかったわ)

結界が、割れる。

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