《【連載版】無能令嬢と呼ばれ婚約破棄された侯爵令嬢。前世は『伝説の大魔』でした。覚醒後、冷遇してきた魔法學園にざまぁして、國を救う。》12

私の考えた<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の魔討伐作戦は簡単なもの。

地図を見ながら、荒野をいくつかのブロック分ける。

そして、私が風の魔法で荒野の上空を飛ぶ。

ブロックごとに、上から見かけた魔を攻撃魔法で一掃していく。

ごくごく単純なローラー作戦だ。

空を飛ぶのに使うのは、風の屬の飛行魔法。

私は、魔法に覚醒したその日から簡単に宙を舞うことが出來た。

討伐初日、地図を片手に砦から飛び上がる。

見張り臺の兵士達から歓聲が上がった。

飛行魔法は風の魔法の中でも最高位の魔法だ。

使い手がすごくないのだ。

「さすがだ、リンジー!

よし、手順の確認だ!

俺たちは該當の區畫に向かうぞ!

お前が攻撃魔法で上から魔を掃討。俺たちが地上から殘黨を確認して、魔法から逃げのびた魔を倒す!

それでいいんだったな!」

下からジョアキン・ギマラン公爵の掠れた大聲が聞こえてきた。

赤い荒野を走る砦の騎馬部隊。

ジョアキン様とその部下、そして、し離れて一人白い馬で走る仮面の騎士、ビッキー。

「その通り!私が魔法で撃している間は該當區域にはらないでね!危ないから!」

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「了解だ!」

「お姉様、地上の殘りの魔はお任せ下さい。どうかご無事で……!」

甲高いビッキーの聲が響いた。

うう、どうも場違いだけれど、彼もなかなかやるようだし。

ジョアキン様とその部下が同行しているから、きっとどうにかなるだろう。

私は魔法をり、砦の上空から<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の中央の方へと飛ぶ。

乾いた風が気持ち良い。

赤い巖と砂の荒野はどこまでも続いている。

所々に深い亀裂。魔のすみかとなっている斷崖だ。

東に飛び続けると、遠くにうっすらと新たな砦と城壁が見えてきた。

サンドル王國側の砦だ。

無茶苦茶な條件を出してきた國だが、<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の魔を一掃すればこの死の大地を引き取って、サンタ・ヴェレ諸島から手を引いてくれるのだ。

國の平和のため、<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の魔は私が殲滅する。

私は南に旋回し、今日の討伐エリアの上空へと向かう。

地図で位置を確認し、し地上に近づく……。

いるいる。

荒野を彷徨う、レッドスライムの塊。

「『凍れ』」

攻撃魔法で、空中からレッドスライムを撃。

氷と闇の魔法はスライムを凍らせ、すぐに試算させる。

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その様子を見て、大きな巖の影から飛び出してくるイエローリザード。

「『砕けろ』」

私の呪言で、イエローリザードのは弾け飛んだ。

余裕だ。

赤い荒野を低く飛び回って、その途中で見かけた魔を片っ端から掃討していった。

そして……。

赤く深い亀裂の中にも降りていった。

赤い大地に走る深い亀裂。上空から底の方は暗くて見えない……。

まるで大地の傷口だ。

下降し、ゆっくりと巖の間を舞って、亀裂の底に降りていく。

亀裂の底に降り立った。

亀裂は五階建の建位の深さで、橫幅は七、八メートルほどか。

底にもゴツゴツとした赤い巖場が続いていて、不規則に張り出した巖壁が、天から差し込むを阻んでいる。

薄暗い不気味な地の割れ目……。

そして。

暗闇にうごめく魔の群れ。

「ちょっと大きな魔法を使おうかな……。『の導きで、闇へと帰せ』」

私のは放った魔法で魔は浄化され、紫の霧になって消えていく。

よし。

この亀裂の中の魔はもう掃討出來ただろう。

「ん……?」

亀裂を出ようとした時。

の暗がりに、人工らしき影が見えた。

「……あれは何?」

私は慎重に近づいてみる。

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亀裂の底に置かれた、古い錆びついた金屬製のトーチ。

火は燈っていない。

そして、その下には風化してほとんど消えかけた魔法陣の跡……なにかの儀式の後だろうか。

そしてその奧。

まだ稼働している魔法裝置があった。

全てのを吸い込んでしまいそうな黒い立方

人間の頭くらいの大きさで、それは私のくらいの高さを靜かに浮遊していた。

ゾクリ、と首の後ろが粟立つ。

邪悪なものだ。

ジョアキンからは何も聞いていない。

これは一……?

「厄介なを見つけたな」

背後から聲がした。

心臓に悪い。

「突然現れるのはやめてくれる?」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

振り返ると、見慣れた姿。

神出鬼沒の黒髪の旅人がそこにいた。

ヒョロリとした柳のような立ち姿、ばした黒髪。錬金師の服。

彼は暗がりからのっそりとの差す場所へ歩み出て、面白そうに黒い立方を見やる。

「リンジー。お前が心配で様子を見ていたんだが、とんでもないを見つけたな。

それは高度な錬金で生み出された裝置だ」

「全くもう、あなた私のストーカーなの?どこにでも現れるんだから。

……ところで、これはなんの裝置なの?それにこの古い魔法陣は……」

「魔を召喚する裝置。魔法陣だな」

え?

私はバッと黒い立方、続いて魔法陣を見た。

「魔を召喚する……?」

「そうだ。魔法陣は相當古いな、もう風化していていない。

だが『箱』はいている。

定期的に魔を召喚する裝置だ――この<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の魔の多さ。一部はこの裝置が生み出したかもな」

「そんな。誰が一……」

「さてな。誰かはわからないが……相當な錬金の腕がなければこの裝置は生み出せない。ただではなさそうだ」

「破壊するわ」

私は黒い立方に向けて手をかざした。

「こんなもの、百害あって一利なしだもの」

私の放ったの砲弾が黒い箱を砕いた。

それはあっけなく砕け散り、四散した。

「荒っぽいな。破壊すると呪詛をけるような裝置じゃなくて良かったな、リンジー」

黒髪の男は苦笑い。

これは壊しても大丈夫。そう本能が告げていたのだ。

――ここは自由國境地帯。レジュッシュ王國とサンドル王國に挾まれたどこの國にも屬さない土地。

何者かが理由あってこの裝置を置いたのは間違いないけれど、一誰が……。

ふとジョアキン・ギマラン公の顔が浮かぶ。

出陣前、砂風が吹く赤い大地を煙る目で見つめていた彼。

これまでの魔討伐でたくさんの部下を亡くしたと聞く。

彼がこれを置いたとはお前ないけれど……。そうすると、無茶な渉を仕掛けてきたサンドル王國側が設置した

いや、今は考えても仕方ない。

後でジョアキンに報告するとして、引き続き魔討伐だ。

「亀裂の魔と裝置は片付けた。私、いくわ」

黒髪の男は肩をすくめて目を閉じた。

「好きにしろ。だがリンジー、用心しろよ。

キナくさい。

この魔法陣、裝置。

それぞれ置かれた年代がずれている。

誰かがご丁寧に召喚の魔法陣が古びてきた後、進化させた魔発生裝置を置き直しているんだ。

それだけ永きに渡って、この地に魔を呼び出す意図のある輩が、いるってことだ」

「肝に銘じておくわ……」

私は飛んだ。

亀裂から抜け出し、ぐるりと今日の該當區域の上を旋回する。

それを合図に、馬に乗った騎馬隊……ジョアキン公爵とその部下達が近づいてくる。該當區域を周って魔の討伐が終わったか地上から確認してくれているのだ。

「いいぞ、リンジー!魔はいない!」

ジョアキン公爵の荒野の砂で焼けたハスキーな聲が響き渡った。

今日の討伐。無事功。

私は砦に戻り、ジョアキンに裝置のことを報告した。

ジョアキンは驚いた様子で、その後は黙って私が裝置を破壊したという話を聞いていた。

……設置したのは彼ではないな。

彼の丸だしな驚く顔をみればわかる。

彼は、魔法陣のことも、裝置の存在も知らなかった様子だ。

「ありがとうリンジー。

この件は王にも報告しておく。サンドル王國に差し金だとしたら妙な點もある……この渉がはじまる前から魔法陣があったとすると、妙だからな。

これ以上は推測を重ねても仕方ない。

地上掃討部隊の俺の部下の一部にも、似たようなものがないか、見つけたら報告するように伝えておこう。

明日からは、予定通り作戦を決行していく。いいな」

「ええ。私も似た裝置を見つけたら報告するし、破壊していくわ。

今やるべきことに集中しましょう」

ジョアキンの公務室で、私とジョアキンが深刻な顔をして話し合っていた。

ドアが激しくノックされた。

「お姉さま!」

この聲は……ビクトリア姫……じゃなかった。仮面の騎士ビッキー!

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「私、今日は砂ぼこりに負けず亀裂から地上に逃げてきたイエローリザードを仕留めましたわ!」

部屋になだれ込んできて、嬉しそうに報告してくれるビッキー。

仮面の奧のキラキラしたブルーの瞳が、私の瞳をじっとみつめてくる。

「そ、それは頑張ったわね。えらいわビッキー」

「うふふ!お役に立ててうれしいですわ。

この仮面の騎士ビッキー、リンジーお姉様に剣を捧げました。全てはお姉様のために」

「全く、仲良い事はいいことだが、々元気が良すぎるな」

私達の様子を見て、苦笑いして飽きれるジョアキン。

ええ、ビッキーは本當に元気が良すぎます……私もついたじたじになっちゃう。

イエローリザードを仕留めるのはさすがの腕、といったところだけれどね。

「ジョアキン様の部下ももっと鍛えた方がいいんじゃないですか?

ジョアキン様はし離れた所におられたから見ていなかったかもしれませんが、私がイエローリザードを仕留める間、ジョアキン様の部下は飛び出てきた魔に驚いてもたもたしていましたもの」

あああ。余計な事を。

「それは我が部下が失禮した。仮面の騎士ビッキー。明日以降部下も俺も気を付けるようにしよう。

何か詫びになる事が出來ればいいのだが……」

面食らった後、口をパクパクして困った様子のままなんとか言葉をひねり出すジョアキン。

「ええ、そうして下さると助かるわ。ジョアキン・ギマラン公。

お詫びなどは結構です。それより、私は高貴な。あなたや部下が私をいやらしい目で見ない事を希したいわね」

「いやらしい目!?そんな目で見ていないぞ!貴殿のような若い、いや、俺には若すぎて異に見えないというか……」

「よく言うわ。地上掃討の打ち合わせの時も、馬に乗っている時も、じろじろと不躾な目で見てきていやらしい!」

「お、おいおい。そんな目でみてないぞ!俺は荒野を馬で走るのは初めてだと言うから心配してだな!それで見守っていただけで決していやらしい目などでは」

そんなじで二人の口論はヒートアップ。

いやいや、ビッキー嬢、自意識過剰すぎません?

ジョアキンも真正面からけ止めて顔が真っ赤。

いかにも真面目で純おじさんってじだ。

ビッキーは本気で言っているのか、冗談で言っているのかわからないけれど、軽口で喧嘩して二人はそのかけあいを楽しんでいる様子に見えた。

私はその茶番のようなやりとりを眺めていたら、つい笑って吹き出してしまった。

「笑うなんてひどいお姉様!ジョアキン様にセクハラしないように言ってくださいませ!」

「俺はこの砦で一番セクハラとは縁遠い男だぞ!

な會議以外、砦の部下と話す時は外の目があるようドアは基本開けているし、兵士と話す時は二人きりにならぬよう心掛け、酒の席でも下ネタはひかえ、砦では良い上役、よい公爵であろうとひたすら法令遵守を心がけているのだ!

リンジー、なんとか言ってやってくれ!」

「あはは!もう二人共必死すぎ!」

私が笑うと、ジョアキンとビッキーは顔を見合わせ、きょとんとした後、私の笑い聲につられて笑いはじめた。

いつ以來だろう?お腹を抱えて笑ったのは。

大丈夫。

この二人が仲間なら、<赤荒野の斷崖(レッドクリフ)>の魔討伐作戦はうまくいく。

今日見かけた裝置のことも、討伐作戦へのも、笑っているうちに吹っ飛んでしまった。

大丈夫!

できる事をやり抜きます。

(続く)

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