《聖のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、國の命運が盡きませんか?》第一話 婚約破棄

【第一話】

今宵、ブランカ公國の宮殿では、盛大な仮面舞踏會が行われていた。

貴族たちはきらきらと著飾り、趣向を凝らした仮面をつけてダンスホールに集う。

一般的なダンスパーティーよりもシャンデリアの燈りがほどよく落とされているせいか、誰が誰なのかわからないスリルがある。

けれども、人のオーラが見えるリリアベルにとっては、仮面など無意味だった。

(アーサー殿下……あそこにいらした)

婚約者として挨拶をせねばと真面目に思って探していた相手は、廊下のアルコーブでくつろいでいた。

「アーサー殿下。わたくしです。リリアベルですわ」

仮面を外して聲をかける……と、彼の隣には小柄なが寄り添っているのに気づいた。

「っ、リリアベル、これは……っ」

アーサーは慌てたふうに右手を広げ、を隠そうとする。

だが、殘念ながらリリアベルにはそのが誰だかわかってしまった。

「ララローズ」

「お姉さま!」

跳びはねるように立ち上がったのは、二歳下の妹だったのだ。

は両手で仮面を押さえながら、うろたえる。

「あ、あの、ごめんなさい、この方はアーサー殿下でしたの……? 仮面をつけてらしたから、全然わからなかったんです」

「そうだとも。さっきたまたま同席しただけなんだ」

だが――、リリアベルには見えてしまうのだ。

(二人とも、のように赤いオーラをまとっている。噓をついているのね)

きっと初めてではない。いつも隠れて仲よくしていたに違いない。今日は仮面を著けているからと油斷していたのだろう。

こんなことがわかってしまう自分にも、絶した。

(こんなわたくしだから、誰からもされない。父も母も、アーサー殿下も)

古來より聖は、ブランカ公國に繁栄をもたらす存在だともてはやされてきた。

けれども、リリアベルの近な人々はこの能力を歓迎していなかった。

とりわけ婚約者のアーサーからは、自分の心が読まれているようだとひどく嫌われた。

(だからといって、力を隠すのも見ないふりをするのも、聖らしからぬこと)

生まれつき聖として厳しくしつけられてきた。誇り高い聖が取りすのも、噓をつくことも恥ずべきことだと教え込まれている。

悲しい気持ちをぐっと我慢をして、努めて冷靜に告げた。

「その場しのぎの噓はおやめください。殘念ですが、わたくしにはわかってしまうのですから」

すると、アーサーは拳を握りしめて激昂した。

「お前のそういうところが嫌なんだ! 真面目でいい子ぶって、堅苦しい説教ばかり」

「殿下、お鎮まりください。人が來ます」

「かまわない。この際だ、皆、ホールから出てきて聞け」

寶玉で飾られた仮面を外し、暴に床へ投げ捨てた。

何事かとやってきた人々は、麗と名高い公子の怒り顔を見てざわめく。

「わたしブランカ公國公子アーサー=ラセットは、今ここで、リリアベル=メロウとの婚約を破棄する!」

喧騒がいっそう大きくなった。

読んでくださってありがとうございました。

今回は初の西洋ものということで、短め作品にしたいと思います。數日で完させます。

お気軽にさくさくと楽しんでいただけましたら嬉しいです。

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