【第七話】

目が覚めるようにしい調度品に囲まれた部屋で、リリアベルはシャイロハーンと向き合って座っていた。

（どうしましょう。斷り切れず、來てしまったけれど……）

王宮の廊下での婚約破棄騒のあと、シャイロハーンに導かれるまま彼の滯在する別邸へ招かれた。

元婚約者が妹と結婚するという騒ぎだったので、自宅へ戻りづらいだろうと言われて、たしかにそうだとうなずいてしまったためだった。

「ひとまず落ち著いたか」

「はい」

本當は落ち著くどころではなく、張している。

だって、相手は宗主國の皇帝陛下だ。一介の小國の娘が親しくできるような相手ではない。

しかし、目前のシャイロハーンは決して居丈高な君主ではなく、むしろ親しみやすい雰囲気をまとっていた。

（不思議だわ。さっきからずっと桃のオーラが見える。どうしてかしら）

を示すオーラ――、辱めから助けてくれたときは、弱きものを守る一種の憐憫のようなを向けられているのだろうと思った。それなのに、なぜ今も同じを向けてくるのだろう。

「ここはブランカ公國に滯在するときにしか使わない離宮だ。人もなくたいしたもてなしはできないが、どうかくつろいでくれ」

言うと、銀盆を攜えた執事らしき男がやってきた。大理石のテーブルに二人分の白いカップを置いてくれる。

「飲むといい」

「ありがとうございます……」

遠慮するのも失禮かと思い、カップに手をばす。ほんのりと香るシナモンの香りに早くも癒された。

「ん……あたたかくて、おいしいです」

ミルクと蜂と香辛料がほどよく混ざったチャイは、お世辭でなく本當においしい。が側からじわじわとあたたまってくる。

知らず、笑顔を浮かべていた。

「よかった。気にったのなら、もっと持ってこさせよう」

すると、シャイロハーンもまた笑顔を浮かべた。整った面持ちに艶が加わり、ますます魅力的に輝いて見える。

「……っ」

がきゅっとするような不思議な覚がした。

（なにかしら、この気持ち。でも、嫌なじではないわ……）

鼓が速くなるような、息が苦しくなるような、未知の想いを持て余す。

そんなリリアベルを見つめるシャイロハーンは、桃のオーラをさらに濃くさせた。

（え……）

まるでを募らせるような反応に、戸ってしまう。

じっと見つめてくる彼の瞳には熱がこもり、甘く艶めいていた。

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