《自稱空気の読める令嬢は義兄の溺を全力でけ流す(電子書籍化進行中)》可げがない? 空気を読むってそういう事でしょう?
タイトルは、酷いこと言ってますけど、悪意があるわけではありませんのでスルーして下さいませ
「アニストン伯爵です。チェルシー様の遠い親戚にあたる方ですよ」
院長の口からは、思いもよらぬ言葉が飛び出した。
「今、執事に調べさせているところですが、ディパーテッド家に親族はいない筈ですよ」
「それは、伯爵からお話を聞いて下さい。私は席を外しますので」
けっして冷たいわけではない院長だが、常に冷靜で周りの空気を読むだった。祖母が孤児院の院長に選んだだけはある。彼はそのまま靜かに部屋を出て行った。
「チェルシーちゃん、こちらのソファに座ってちょうだい。まあまあ、そんなに顔を腫らして……どれだけ辛い目にあってきたのかしら」
がハンカチで顔を覆って泣きだした。何か勘違いをしているようだが、曖昧に笑ってけ流した。その肩を優しく抱きながら、男がソファに向かう。私を見て頷いたので、彼等とは反対側のソファに座った。
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「では自己紹介をしようか。私はダリル・アニストン。伯爵位を持っている。こちらは妻のメリッサだ。きみが、チェルシー・ディパーテッド嬢だね?」
「いいえ、私は、ただのチェルシーです。家名はディパーテッド家に押しかけてきた男爵一家の令嬢に奪われてしまいました」
「その件は、君の執事に聞いた。彼は実に有能だね。不完全な家系図から、すぐに私達に辿り著いた。時間がかかってしまったのは、私達の確認作業が滯ったせいだ。本當に申し訳なかった」
執事は、やはり優秀だった。勘當、駆け落ち、平民からり上がっての敘爵など、訳アリ件オンパレードだったらしい當家。當然、不完全な家系図からありとあらゆる可能を辿って、真っ當な伯爵家に行きついたというのだ。
アニストン伯爵家と言ったら、我が國では下手な侯爵家よりも力を持っている家だ。その実は、かつてディパーテッド家で放の限りを盡くして勘當された先々代の末の息子が當時の伯爵家に拾われて継いだ家らしい。どういう経緯で拾われたのか、実に興味深い。
「でしたら、私達には縁はありませんね。私はその方を勘當した家の末裔です。自分が落ちぶれたからってこちらから縁を切った方のお家に助けてもらうような蟲のいい事は考えておりませんので」
ソファから腰をあげ、二人に頭を下げる。そんな私の様子をぽかんと眺めていた二人だが、慌てたように立ち上がった。
「待ってくれ! 私達はきみを助けたいんだ!」
「そうよ! 子供はそんな難しい事を考えなくていいのよ?」
なんて人の良さそうなご夫婦であろう。顔から滲み出ている人の良さ。私の周りにはいなかったタイプだ。祖母のトリスタの事は尊敬している。厳めしい顔をして、い私に教育を施してくれた。世の中、甘いものではない。それが、私の心に刻みつけられた教えだ。
甘さの極みのような二人を見上げる。これは、なんだ。彼等は、どういう生きなのだ。二人とも、涙さえ滲ませているではないか。
勘當されたという何代か前の放息子。きっといい人だったに違いない。私のように、悪意のある人間に陥れられたのだ。きっとそうだ。たとえば、あの男爵家のような小悪黨に。あとで優秀な執事と合流したら、當時の狀況と証言などを集めてもらい、あの男爵家と関わりがなかったかどうか調べてもらおう。あの男爵家が関わっていればいいと思う。更なる復讐が出來るというものだ。
荷をまとめて、アニストン伯爵家へ向かう事になった。護衛のレジナルドにも聲をかけ、伯爵達の馬車に乗り込む。レジナルドは馬で向かう。
「なんという事でしょう。本當に、本當に辛い思いをしたのね、チェルシーちゃん。これからは、私を母だと思って甘えてちょうだいね」
「私の事は父だと思いなさい。どうか、私達の新しい家族になってほしい」
両親が亡くなってからの話をすると、二人は馬車の中で號泣した。可げがないかもしれないが、二人の強い反応に私の方は逆に引いてしまい、悲しい気持ちも引っ込んだ。しかし、空気を読み二人に合わせる。
「お母様、お父様、これからどうぞよろしくお願い致します」
泣け。泣け。脇腹を自ら抓り、涙を滲ませた。空気を読んだ私のおかげで、馬車はおおいに盛り上がった。
主人公、けっこう格悪いですよ。黒い。
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