《私たち、殿下との婚約をお斷りさせていただきます!というかそもそも婚約は立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の斷罪劇》5
そう言いながらも、アドレアが扇を握る手は、フローラへの憎しみから強く握りしめられ白くなっていた。
アドレアは、フローラをリカルドと同様に憎んでいた。なぜならフローラの母親は王妃と生前とても懇意にしており、そのせいもあってリカルドがい頃はいつかはフローラと婚約をという口約束までしていたのだから。
「本當にあなたは小憎らしいこと。澄ました顔で、裏では一何を考えているのやら。あなたとリカルドは良く似ているわ。……本當に蟲唾の走る」
アドレアは吐き出すように言うと、フローラをじっとりとにらみつけた。が、その視線をそらすことなく真っ直ぐに見據えたまま表一つ変えないフローラに、アドレアの目元が赤く染まった。
アドレアとフローラはどちらも一歩も引かず、無言でにらみ合った。
アドレアは、嘲りの表を浮かべ鼻を鳴らした。
「かわいい息子が不幸せにならないよう守るのは、親として當たり前でしょう。いくらハリルがあなたとの婚約をんでいたとしてもね。だからあなたがおかしな行をしないよう、監視させていたのよ。ただそれだけのこと。でもあんなはしたない手紙まで見つかっては、さすがに言い逃れはできないのではなくて?」
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アドレアからすればフローラは目障りな存在でもあったが、ハリルにどうしてもこの娘がしいと頼み込まれて、仕方なく婚約を認めたに過ぎない。とはいえやはり息子といるフローラの姿を見ると、王妃とリカルドが思い出されて我慢ならなかった。
だから、どうにかして陥れて婚約を諦めさせようと畫策したのだ。
もちろんフローラは否定するだろうが、力のないただの小娘の聲など自分が圧力をかければどうとでもなると踏んでいた。だからこの期に及んでも、アドレアはフローラに対して威圧的な態度を崩すことはなかった。
フローラは、自分に対して無警戒なアドレアの読みの甘さにほくそ笑んだ。
「確か、文が三通と髪飾りでしたかしら。その証拠というのは。……そしてそれをあなたに渡したには、確か病の母親がいるらしいですわね」
そのというのは、アドレア付きのの中でも特に気の弱そうな年若いだった。そのが不貞の証拠をアドリアのもとに持ち込んだと聞いた時、フローラはすぐにぴんときたのだ。母親の病気の治療を盾に、無理矢理に協力させたのだろうと。
元々アドリアに忠実だったわけでもなく、言う通りにしなければ首にして二度とまともな職につけないようにしてやると脅した上、病気の母親の治療まで妨害されていたそのが口を割ったのは、當然のことだった。
フローラの言葉に、アルビアの目がいぶかしげに見開かれる。
そしてフローラはくるりと後ろを振り返ると、いまだミルドレッドの変貌に魂が抜けたようにうつろな表を浮かべたハリルに聲をかけた。
「殿下はその証拠を、アドレア様からけ取って確認されたのですよね?」
「……そうだ。皆差出人の名の違ういやらしい文面の手紙には、反吐が出た! あんな歯の浮くような汚れた文言、やはり兄上であるはずがない。やっぱりお前は不貞していたんだ! まったく呆れた売だよ! お前はっ」
その言葉を聞き、フローラは薄っすらと笑みを浮かべアドレアに向き直った。
「それらの手紙の筆跡鑑定も、髪飾りの出所もすでに調査は済んでおります。誰の筆跡で、誰が注文しけ取ったかも。それらの証拠品をアドレア様に手渡したの柄もすでにこちらで保護し、証言も得ております」
フローラの聲が、凜と響き渡った。
「は……? それは一どういう意味……」
アドレアの顔に、初めて不安のが浮かぶ。そしてフローラの側に衛兵がつと近づき小さな箱と數枚の紙きれを手渡すのを見た瞬間、明らかに揺したのが誰の目にも分かった。
「これがその手紙、そしてこちらが髪飾りですわ。特別高価な品ではありませんけれど、まさか調べられるなんて思っていなかったのでしょうね。これを店に注文した人、け取った人ともに、アドレア様のお付きのの名がありますわ。その人相についても店主の証言を得ております」
「……な、なんですって? あなた……」
アドレアの顔が、大きくひきつった。
まさか蝶よ花よと育てられた貴族家の令嬢がそんなことまで調べ上げられるなど、思いもしなかったのだろう。
だが、元々伯爵家はの頃から男の別なく文武両道をそのに叩きこまれ、いざ國の大事となれば伯爵家の私兵を持って実戦にも打って出るほどの家風である。フローラもミルドレッドも、その恵まれた外見とは裏腹に一通りの武を扱える程度には鍛えられているし、その神もまた然りであった。決してお嬢様然とした質ではない。
だからこの程度のことを調べ上げ裏を取ることなど、造作もなかったのである。
「すべて調べさせていただきましたわ。あなたが利用しただけでなくその母親もすでに當家で保護しておりますから、今さら口を封じるような真似をしても遅いですわ。それと、髪飾りをけ取ったもすでに拘束済みですしあなたの命で用意したと白狀しましたわ」
フローラの口からすらすらと自分の罪が暴かれると、アルビアは蒼白になった。その様子を見て、母親の仕業であることがようやく理解できたのか、ハリルの悲痛な聲が響き渡った。
「ではやはりあれらは、すべて母上のでっち上げだったのですか? どうしてそんなことを! あんなものなければ、私は……私はフローラを疑うなどしなかったのにっ!」
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