《私たち、殿下との婚約をお斷りさせていただきます!というかそもそも婚約は立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の斷罪劇》6
まもなく最終話です。
次回の更新は明朝九時頃を予定しております。
どうぞ最後までお楽しみいただけますように。
ハリルは、初めからフローラをこのような形で曬し辱めるつもりだったわけではない。
最初はリカルドとフローラが昔婚約の口約束をしていたと知り、リカルドが手にれるはずだったフローラを自分のものにすればきっと溜飲が下がるだろうと、婚約を申しれただけだった。けれどいざフローラを目の前にした時、このしく凜としたを自分のものにしたい、自分の妻にしたいと心からしてしまったのだ。
そしてそれは、ハリルの初でもあった。
だからこそ、母親から渡された不貞の証拠を見た時、見知らぬ男と通するのを見た時、ひどく衝撃をけ怒り狂ったのだ。兄だけではなくその婚約者となるはずだったこのもまた、自分を馬鹿にするのかと。だから妹に手を出した。妹に自分の婚約者を奪われた挙句に公衆の面前でみじめに捨ててやれば、しは自分の気持ちがわかるだろうと。
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なのに、それは母親の仕組んだ噓であり不貞の事実などもありはしなかった。ただ罠にはめられただけだったのだ。
ハリルはここが國中の貴族が集まる王家主催の夜會だということも忘れ、人目もはばからず嗚咽した。顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら呪詛のような言葉を吐き床を拳で毆りつけるその姿を、この場にいる皆が哀れみと軽蔑の目で見つめていた。
そして、もはやこの哀れな男がこの國の次期國王候補であるなどとはもう誰も思ってもいなかった。
異様な空気に包まれた場に、低く威厳のある聲が響いた。
「さて、アドレア。そなたに問いただしたいことがある。そなたがこれまで幾度となくリカルドを暗殺しようといていたこと、隣國の一部の貴族と通して私腹をやそうと國を裏切っていたこと。それに対して、何か申し開きはあるか?」
それまでただ黙って事態を見守っていた國王が、側妃であるアドレアに問いかける。それは、もはや問いなどではなく、いさぎよく罪を認め観念しろという意味であることは明らかだった。
アドレアがふらり、とのバランスを崩しよろめく。
思いもよらない事態に、會場がしんと靜まり返った。
そう。これは、斷罪の舞臺だった。
自分とを分けた息子のを満たすために國を利用し、裏切った側妃アルビアとその息子ハリルの罪を貴族たちの前で明らかにし、逃げ道を完全にふさぎ、斷罪するために用意された――。
リカルドがゆっくりと歩み出る。
「私がこの國を出たのは、暗殺を恐れたからでも王位継承者としての重責から逃げ出したからでもありません。あなたたちとそれに追従する一部の貴族たちを一掃するため、その準備を整えるためにわざと國を離れたのです。いずれあなたたちを斷罪の場に引きずり出し、この國の未來の憂慮を完全に取り払うために」
その朗々とした聲は力強く揺るぎなく、次代を擔う施政者になるに足る才をじさせる。その堂々たる姿に、貴族たちは息をのみ嘆した。これこそがこの國の未來を擔う次期國王となる王子だと、すでにここにいる者すべてが理解していた。
アルビアとハリル、それに追従していた一部の貴族たちをのぞいては。
「わ……私は何も知りません! それにリカルドは今こうして生きているではありませんかっ。この私がリカルドを殺すですって? そんなこと私にできるはずが……。それにそんな昔のこと、今さら証明できるわけがありませんっ。隣國ともつながっているなんてそんなこと……誰に何を吹き込まれたか存じませんが、そのようなことまったくに覚えはございませんっ」
そうは言いながらも、アルビアの顔は蒼白を通り越して土気に変わっている。せわしなく扇を開いては閉じ、ドレスのひだを落ち著きなく握りしめては滝のような汗を拭っていた。自分の置かれた狀況がもう言い逃れようのない切迫したものであることを、ようやく理解したのだろう。
ハリルはいまだ事態を飲み込めていない様子で、困した表を浮かべてアルビアの顔をうかがっていた。
「リカルド、話せ」
國王に促され、リカルドは淡々とアルビアに告げた。
「言ったはずです。それを調べるために私はあえて國を出たのだと。……隣國のダゴダ侯爵家とそれにつながるいくつかの貴族の柄はすでに拘束され、罪狀も明らかになっています。あなたは我が國の機報を隣國に売り渡し、その報酬として多額の金と隣國の領地をかにけ取っていたそうですね」
リカルドが証拠として、アルビアの印が押された契約書を國王に手渡した。それは紛れもなくこの國の側妃にのみ使用を許された印であり、証拠としてこれ以上ないものだった。
「アルビアよ、これでもまだ白を切り通すか。すでに隣國では全員が極刑に処されておる。ハリルはおそらくはそなたの言いなりにいただけだろうが、そなたたちは國を売ったも同然だ。そんな報が洩れてはゆくゆくこの國が滅びかねないことが、分からんのか!」
國王に一喝され、アルビアはその場に崩れ落ちた。
「自分らの運命はもう……わかっているな?」
それは、國王が直々に下した死刑宣告であった。
直後、ハリルがんだ。
「わかりませんっ! なぜっ、なぜなのですか。父上! リカルドばかり、なぜっ」
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