《私たち、殿下との婚約をお斷りさせていただきます!というかそもそも婚約は立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の斷罪劇》8
これで完結です。
最後までお付き合いくださった皆様、本當にありがとうございました!
しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
何とも言えぬ後味の悪さに、皆一様に沈黙し場の空気は沈んでいた。そこに、重臣の一人が國王に恭しく聲をかけた。
「陛下。用意が整いましてございます」
うむ、と小さく頷き國王がリカルドに視線を移すと、それにリカルドもまた小さく頷き返す。それは、次なる舞臺のはじまりの合図だった。
高らかなラッパの音とともに會場の大きな扉がゆっくりと開き、そこから次々と他國の要人たちが華やかな裝をにまとい場してくる。皆何が始まるのかとどよめき、ざわざわとその様子をうかがった。
要人たちが次々に玉座の前に歩み出て、挨拶をするための列を作る。それが一通り終わった後、國王がリカルドを呼んだ。
それに応え、リカルドがゆったりとした足取りで近づくと玉座の前にひざまずく。先ほどまでのざわめきが噓のように、場がしんと靜まり返った。
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「今日この時より、我が國の次期王位継承者はこのリカルドとなる。この場を借りて、その命を與えるものとする。異存のある者はあるか! あれば今すぐに申し出よ」
國王の威厳に満ちた厚みのある聲が、朗々と響いた。當然のことながら、それに異を唱える者などいようはずもない。
靜寂に包まれていた會場から拍手が起こり始め、それは大きなうねりのある波のように広がり、轟音のような大きな拍手とともに満場一致で認められた。
「リカルド、そなたをこの國の未來を擔う王子として正式に認める。その日までこの國のためをにして大いに勵め。良いな」
リカルドが恭しく首を垂れ、に手を當て忠誠を誓った。
「そして伯爵家長、フローラ。ここへ」
続いて呼び出されたフローラがリカルドのし後ろに控えると、リカルドが優雅な仕草で立ち上がりその細く小さな手を取った。
「フローラ、あなたに正式に婚約を申し込みたい。い頃より私はあなたを妻にしたいとずっと願ってきた。どうか私の手を取り、ともにこの國の未來を支えてはくれないだろうか」
リカルドの甘い表をにじませた真摯なその姿に、フローラの頬が染まる。まだなど知らぬい頃、初めてその手を握ったその瞬間に、フローラもまた唯一の人だとじていたのだ。とうに返事は決まっていた。
フローラは、輝くばかりの笑みを浮かべて片足を引き頭を垂れた。
「謹んでおけいたします。恥ずかしくないよう、この生涯を賭してお支えすることを誓います。リカルド王子殿下」
湧き上がる大歓聲と拍手が、渦のように會場を包み込んだ。
「さあ! これからこの場はこの國の未來を祝う宴の席となる。皆存分に楽しんでいくがよい」
その一聲で、楽隊が楽を手に取り一斉に軽やかな音楽を奏で出す。
「フローラ。さぁ手を」
リカルドにわれて、フローラはし恥ずかしそうにけれど嬉しそうに頬を染めて中央に歩み出る。二人は観衆のあたたかい視線に見つめられながら、くるりくるりと軽やかなきで踴り出す。
「いやぁ、この先もどうやら安泰なようですな。憂慮を見事取り払ったその手腕、見事でございました。今後とも我が國とも末永くお付き合い願いたいものですな」
「誠に。実に鮮やかでございました。我が國ともなにとぞ懇意に願います」
各國の要人たちから似たような言葉が飛び出し、國王はそののわずかに走る痛みを覆い隠し威厳のある表で頷いた。
いつの世も、國が傾けば民が犠牲になる。今回の斷罪は、隣國との政治問題が絡む事態にまで進んでしまったために、なんとしても隣國との悪しきつながりなどないことを各國に証明し、この國の未來が盤石であることを各國に示す必要があった。そのために痛みを伴う結果にはなったが、それも國を思えば致し方ない。
國王の視線の先で、未來の國王とその王妃が幸せそうに笑う。あの二人ならばきっとこの國を安寧に守り続けてくれるに違いないと、國王は安堵する。
一瞬も視線を外すことなく熱い視線で見つめ合うリカルドとフローラを、ミルドレッドがうっとりと夢を見るような表で見つめる。そこに一人の青年が近づき、聲をかけた。
「ミルドレッド嬢」
振り向いたミルドレッドの前に立っていたのは、すらりとした長の銀髪の青年だった。そのなりからすぐに隣國の第二王子と気づき、ミルドレッドは慌てて腰を折った。
「はじめまして。どうか私と一曲踴っていただけませんか?」
甘く微笑まれ、ミルドレッドの顔が赤く染まった。まるで夢を見るような表で相手を見つめたままホールへと手を引かれ、ダンスのに加わるとくるりくるりと踴り出す。
気づけばリカルドとフローラが、隣で踴りながらミルドレッドと隣國の第二王子に笑顔を向けていた。
「フローラお姉様!」
ミルドレッドがはにかみながら、弾んだ聲でフローラに呼びかける。
「ミルドレッド。実はこの男はね、君の絵姿を見て以來ずっと君に焦がれていたんだよ。やっと君に會えるとそれはもううるさくて大変だったんだ。し抜けたところもあるがいい男だし、結婚相手としてお薦めするよ」
リカルドがそう言って、からかうような表を浮かべ笑った。
「リカルド、余計なことを言わないでくれ。本気なんだぞ」
王子が慌てたようにリカルドを制するも、その顔は赤い。それに釣られるようにミルドレッドの顔もまた真っ赤に染まる。照れ合う初々しい二人に、フローラとリカルドが邪魔をしないようにとまた離れていく。
「妹の婚禮姿も、そう遠い日ではなさそうね」
長く続いた重い役目から解放され、晴れやかな顔でフローラが笑う。
「私としてはぜひその前に、君と幸せになりたいな。私も、この日をもうずいぶん待ち焦がれていたからね」
心からのをその目に乗せて熱く見つめられ、フローラは目を潤ませうなずく。
その夜、國の未來を祝う宴は遅くまで続いた。音楽が軽やかに鳴り響き、いつまでも明るい表と笑い聲とがあふれていた。
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