《した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》プロローグ
街がシンセサイザーの音楽に溢れ、世紀末の予言に危懼(きぐ)していた頃、佐倉町子(さくらまちこ)はその魂の最期を迎えようとしていた。
ダムへと下りる一面の草原は昨日降った雪で白一に染まっていた。
足元の位置さえままならず、ブーツにり込む雪の冷たさも既に覚が麻痺している。
町子は左手での滲(にじ)むを押さえ、途切れそうになる息を必死に吐き出しながら、右手に握る杖のを確かめる。
仲間が揃いであつらえてくれた一張羅(いっちょうら)のワンピースもボロボロで、折角の白が赤の斑(まだら)模様に染まってしまった。
(ごめんね、咲(さき)ちゃん……)
「本當に、戦わなきゃ……いけないの?」
目の前に立つ年・桐崎類(きりさきるい)に問うが、返事はない。
山間のダムに人影はなく、言葉も足音も広すぎる白の空気に一瞬で飲み込まれていく。
彼を追ってついてきた。
足元の白に赤が混じっていく。
こんな最期をんだ訳ではないのに、死の予は確実に現実へ変わろうとしている。
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「類……返事してよ」
彼もまた、肩から腹にかけて傷を負っていた。灰のローブに黒いシミが広がる。しかし臆するもなく、ただ町子をぼんやりと見つめているだけだ。
「ねぇ、類!」
町子の聲に返事をするかのように、その音が靜寂(しじま)を切り裂いた。煙を吐くような空気音――魔翔(ましょう)だ。
(こんな時に)
キンと鳴る奴等の聲。その気配に町子は嫌気がさすほどに青く染まった空を仰ぐ。
大きさは中堅クラス。數は二匹。顔のないバスケットボール程の丸々としたに、天使を連想させる白く不釣合いな羽が付いている。
「アンタたちに連れて行かれるわけにはいかないの」
空中を弾むように上下する二匹の魔翔。いつもの町子なら一発で倒せる相手だ。それなのに躊躇(ちゅうちょ)してしまうのは、彼らと戦うことで死を迎える覚悟を決める事ができないからだ。
あと魔法を撃てる力は一発分しかない。
(どうして?)
魔翔は魔法使いを狙うはずなのに、二匹とも町子だけに向いている。類も同じ筈なのに。
ひゅうと吹く風に、が寒いと震えた。
――「火の魔法使いが戦闘時に寒いとじたら、死期が迫ってる証拠だよ――」
気をつけて、と冗談混じりに仲間がそう言っていた。
「……町子……」
(かす)れた類の聲。
攻撃を待つように飛びう二匹の魔翔を警戒しつつ、町子は絞り出すように彼の名を呼んだ。
「るい……もう、やめようよ」
さっきまで平然としていた彼の額に汗が滲(にじ)む。そして類の手が上がり、握られた杖の先が町子を真っ直ぐに狙った。
「本気なの?」
「逃げろ!」
一言んだ彼の聲と同時に杖の先が弧を描き、緑の魔法陣を作り出す。
キィと魔翔が唸(うな)る。
魔法は彼らにとっての餌だ。
「だめぇ!」
恐怖に顔を引きつらせ、町子は空に掲げた右手をぐるりと回した。
真紅の魔法陣が現れ、反時計回りにゆっくり回転しながら魔翔と類を捉える。
「こんなの、嫌だ。でも……駄目だよ、類。災いを起こしちゃいけない」
彼を止めるためにここまで來たのだ。自分だけ無駄死にするわけにはいかない。だから。
「行けっ!」
渾(こんしん)を込めた最後の力。真紅の魔法陣を貫くように飛び出た炎が暴れ出す。緋の波が空間を喰らい、彼と二匹の魔翔を包む。
類のが反り返る様を視界の端に捕らえたのが、彼を見た最後。緑の魔法陣から出た刃のような鋭いが町子の腹を斜めに切り裂いた。
倒れた地面は冷たかった。
顔が半分雪に埋もれ、白い視界が吐き出したにみるみる赤く染まってしまう。
「ひろ……と……」
最後に彼に會っておけば良かった。
こんな山奧で死んだら、誰にも見つけられないまま春になってしまうかもしれない。
薄れる意識を捕らえながら――町子は地面に落ちた杖を握り締めた。
しかし、一緒に掻(か)いた雪の冷たさも、全の覚も、しずつ鈍くなっていく。
全てが失われていく中で、町子はその「聲」を聞いた。
「死ぬな」
それは夢だろうか。鼓(こまく)の奧を震わせる聲に、一瞬だけ意識が戻った。
しかし目を開ける力すら殘っていない。
ただ、最後に聞いたその聲をとても心地良くじて、町子はその闇をけれた。
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