した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》6 偶然そこに

(加代……?)

近所に住んでいた、町子の馴染だ。

昔よりしふくよかになって眼鏡を掛けているが、目の黒子(ほくろ)が記憶を蘇らせる。

懐かしさが込み上げるが名乗る事はできず、芙(ふみ)は斜めに提げた鞄の紐を両手でぎゅっと握り締めた。

「佐倉さんの知り合いで」

「夏樹くんの? そうなんだ」

が頷くと、加代はを回して家を仰ぎ見た。

「夏樹君が大學にる時、引っ越してしまったの。その後にウチがここに來たから」

加代は神妙な面持ちで視線を返し、「ごめんなさい」と謝る。

「その後の事は、詳しく聞いていないのよ」

申し訳なさそうにする佳代に、芙は「気にしないで下さい」と両手をの前に広げた。

大學學と言えば七年前だろうか。大好きだった町子の家があった場所に住んでいたのが、彼で良かった。建は無くなってしまったが、嬉しいとさえ思ってしまう。

「ありがとうございます」

そう頭を下げ、芙は坂を下りた。手掛かりはないけれど、みが消えたわけではない。

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一度駅に戻って、今度こそ弘人の家へ向かう。

調べた通りのバス路線。しずつ変化した町並みをしばらく眺めていると、大きな貯水池に記憶が蘇ってきた。

バスを下りて、細いカーブをり込んだ奧に、予想通りの大きな家があった。

緩い坂に並ぶゴツゴツした石垣のを、指でなぞった事がある。変わらないなと手を這(は)わせて、芙は閉められた門の前で、大きく息を吸い込んだ。

しているのが良く分かった。あのまま生きていてくれたら、彼は今三十一歳だ。

「こんにちは……じゃなくて、久しぶり! ……違う。えっと……別の人が出て來たら、どうしよう」

寸劇でもしているかのように一人小聲で呟きながら最初の言葉を探すが、テンポの速い心臓の鼓がそれらをポンと打ち消してしまう。

とりあえず會ってから決めようと決意して門の橫にある小さなインターホンを押すが、遠い位置で響いたブザーは住宅街の靜かさに掻き消え、シンと靜まり返ってしまった。

彼に會いたくてここに來たのに、しだけホッとする自分に気付いて、芙は呆れて頭を押さえた。

晝過ぎの駅は予想以上に混雑していた。

駅ビルのファーストフード店にり、お晝を食べる。一応『お嬢様』なのだが、基本自由主義な都子の教育方針と町子のおで、こんな場所での一人ランチも手のだ。

特に果が上げられないまま予定が全て消化されてしまい、八方塞(はっぽうふさがり)の狀態。

窓際のカウンター席で道行く人の流れを見つめながら、ぼんやりとハンバーガーを食べている自分が虛(むな)しくじる。

今頃弘人に會えて、懐かしさに浮かれている自分を想像していたのに。

ここは、町子が弘人と歩いた町だ。二人の思い出がありすぎて、ガラス越しに通り過ぎていく人たちを妬ましいとさえ思ってしまう。

急に目頭が熱くなって慌てて鞄を開くが、タオルやハンカチを忘れてしまっていた。

困った果てに芙は手の甲で涙を拭う。それでも、とめどなく流れる滴がトレーを濡らした。

通り行く人々が芙に目を向けるが、足を止める事はない。席の左右に座る客も視線を逸らすようにを外側に傾けた。

や優しさを求めたいわけではない。だから早く涙を止めたいのに、我慢しようと思う程、それは意思を反して流れ続ける。

ぐっしょりと濡れた袖を瞳から離すと、ふと窓越しに視線がぶつかった。

が一気に頬を赤く染めたのは、その相手が『ニヒル』なクラスメイト、熊谷修司だったからだ。

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