した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》26 その聲の主は

就寢後なかなか寢付けなかった芙(ふみ)には、朝までの時間がやたら長くじられた。

淺い睡眠からの疲労じさせないくらいに素早く支度し、朝食もとらないまま一人颯爽と學校へ向かう。

職員室前で夏樹を待ち構えるが、彼が現れたのは始業ベルの五分前だった。慌ただしい空気の中、夏樹は芙の顔を見るなり驚いた表を見せる。

「まさか朝っぱらから待っていたのか?」

待ち遠しさからの歓喜に「はい」と聲を弾ませる。待っていた時間は長かったが、それも吹き飛んでしまうほどの瞬間だ。

「わかったよ、れ」

二人になることを警戒してか、夏樹は芙を自分の機まで導する。両脇の機には別の教師がいたが、二人を気にする様子はなかった。夏樹は鞄を足元に置いて自分の椅子に座ると、特に表もなく芙を見上げ、淡々と彼の待つ答えを述べた。

「ばあさんに聞いてきたぞ。俺よりは覚えてた」

「はい」と頷く芙。昔の面影を殘した夏樹の顔が、僅かに強張る。

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「けど、あのダムで何があったかはいまだに誰も分からないんだ。ただ、倒れた姉さんを偶然通りかかった人が見つけて、警察に連絡してくれた。お前が言ってた木の棒もなかったし、ばあさんにも知らないって言われたけど、姉さんを見つけた人の名前は覚えてたよ」

「ほんとですか?」とが逸(はや)る。

「死ぬな」と言ってくれた聲の主だ。朦朧(もうろう)とした意識で聞き取った言葉が急に現実味を帯びてきて、芙張を走らせる。

しでも良いから杖に繋がる報がしい。

しかし夏樹が次に語った名前に、芙は思わず職員室中に響き渡る聲を上げてしまった。

「変わった名前だから憶えてたんだろうな。どこに住んでるかとかは知らないけど。二人いて片方だけ名乗ったらしい。の人で、名前は善利(ぜんり)」

「えええっ?」飛び出した驚愕の聲に重なる始業のチャイム。

「おい、職員室でぶなよ。だからこれが一杯なんだからな。ウチには絶対に來るなよ!」

人差し指を口元に立てながら早口に念を押して、夏樹は職員室を出るように反対の手をバタバタ振り、口へと促した。半ば放心狀態で教室へ戻る芙

「ちょ……ちょっと。善利って」

珍しいとはいえ、芙はその苗字の持ち主を知っていた。

夏樹からの報のせいで、午前の授業は全く頭にってこなかった。誰か町子を知っている人へ全てを話し、この衝を共有してほしいと思うのに、移教室やら何やらで修司にすら聲を掛けることができなかった。

晝休みになって、まだ冷めやらぬ興に修司を連れ出そうと立ち上がったところで、真子と亜子が購買のパンを手に慌てた様子で廊下から駆け込んできた。

「芙ちゃん、今変な噂聞いたんだけど! 修司君と付き合ってるのに、夏樹先生も狙ってるって本當? 先生狙いの先輩が怒ってるって聞いたよ?」

唐突な真子の言葉に、心ここにあらずでボーッとしていた芙が「へえっ?」と素っ頓狂な聲を零して我に返る。

「え? 何? どういうこと、芙ちゃん?」

お弁當を広げていたメグがガタンと椅子を引いて立ち上がり、詰め寄るように顔を寄せるが、芙はぶんぶんと首を振った。どっちも間違っている。

「誤解だよ。佐倉先生は……」

しかし弁解しようと言い掛けて、答えに躊躇った。キラキラと目を輝かせる三人から目を反らし、急いで答えを考える。

弟、ではない。親戚、と言えばこの場を凌ぐことはできるだろうが、夏樹の耳にってしまうとまた厄介だ。

適當に返事すれば楽なのに、噓をつくことを自分が拒んだ。

「ご、ごめん。會いに行ったのは、ちょっと先生に聞きたいことがあっただけだよ。ハッキリとは言えないんだけど、でも、好きとかそういうのじゃないから」

ぺこぺこと頭を下げる芙。真子と亜子は足りない表を浮かべたが、それ以上深くは聞いてこなかった。

「もぉ、期待しちゃったよ」

「ほんと。芙ちゃんはやっぱり修司君なんだね」

念を押す亜子。肝試し以降、皆の頭の中は芙イコール修司になってしまっている。

「いや、そ、それも……」

それもまた違うと否定しようとするが、途中でメグは席を離れ、教室の後ろで祐と晝食中の修司の所へ行くと、何か話した後、腕を摑んで彼を強引に引き連れてきた。

突然の狀況に戸う芙に、こちらも狀況を把握しきれていない修司のをハンマー投げのハンマーよろしく、ぶんと勢いをつけて解き放つ。

「おい! 何すんだよ!」

衝突寸前で踏み止まって、修司がメグに聲を上げるが、メグはにっこりと微笑んで半ばパニック狀態の芙にガッツポーズを送った。

「朝から何か変だと思ってたんだけど。特効薬だよ、芙ちゃん! 落ち著いて」

落ち著ける狀況とは真逆な気がするが。きゃあっ、と真子亜子の黃い悲鳴が沸く中、芙は赤面して修司の手を摑み、教室から逃げ出した。

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