した魔法~生まれ変わった魔法が、15年ぶりに仲間と再會する~》27 クラクション

南棟と北棟を繋ぐ通路から、避難用として使われる廊下側のベランダに出る。

晝休みにプライベートで使っている生徒が多くいるが、まだ時間が早いこともあり、先客がいないことを確認して芙は修司を引き連れて座り込んだ。

「空いてて良かったぁ」

呼吸を整えながら背中を壁に預けると、橫に並んだ修司が首だけを芙に向けた。

「何かあっただろ、お前。森田じゃないけど、朝からボーッとして」

「うん……々、あったんだけど」

「お前が弟と俺に二掛けてるってのは、俺も聞いたぞ」

「そうなの? 何か々間違ってて……ご、ごめんね」

「事は分かってるつもりだから気にしないけど。その不機嫌なのは、弟が原因なのか? 何ならすぐ話してくれて良かったんだぞ。一時限くらい出なくたって」

「それは駄目だよ。二人で抜け出すのは良くないと思う。それに不機嫌なワケじゃないよ」

「変なとこ真面目だよな。まぁ、二人でってのは目立ちすぎるか」

そうだなと呟く修司に、芙はうんうんと首を振り、改まって話を始めた。

Advertisement

「町子の死の直前に、誰かが「死ぬな」って言ってくれたの。偶然あそこを通りかかったんたって。それで、救急車とか呼んでくれたらしくて、その人の名前を教えてもらったの」

町子が最期にけ取った聲。「死ぬな」の言葉だけで男かかすら曖昧だった。

けれど、夏樹に言われて、今その音が鮮明に蘇る。

――「死ぬな」

は顔を上げて、修司を真っすぐに見つめた。確信の事実。

「あれは、お母さんだったの。若かった頃の、芙のお母さん」

「……お前の?」

「うん。善利っの人だって言ってた。今は有村だけど、舊姓は善利(ぜんり)なの。珍しい苗字だから本人だと思うし、今思い出すとお母さんの聲だった気がする。だから、あの場所にいたお母さんに聞けば、杖に辿り著けるかもしれない」

都子がそうだったと思うと、芙として生まれてきた総てが運命なのだとじる。

言い切って芙は自分のをそっとで下ろした。修司はニヒルな切れ長の目をしだけ大きくして、「すごいな」と呟く。

「そんなことってあるのか。俺の家は類とは全く関係ない家だ。でもそれが本當なら、杖のみも出てきたかな」

「いよいよ、だよね」

「弟には自分が町子だって言ったのか?」

「ううん。大分怪しまれてるけど、結局言えなかった」

「言ってもいいんじゃないか? アイツなら時間がかかってもけ止めてくれると思う」

は「ううん」と首を橫に振る。

「やっぱり、夏樹には言えないよ。私は町子だったけど、町子の代わりにはなれないもん」

「そうか。でも、実家には電話で聞いてみてもいいんじゃないのか?」

「お母さんにはちゃんと會って話してくる。ごめんね、わがままばっかりで」

「そういうのは、わがままじゃねぇよ。ちゃんと考えて出した答えなんだろ?」

い頃、魔法使いだと暴れた芙。都子はそれをどんな気持ちでけ止めていたのだろう。すぐにでも名古屋に行きたいと思うのに、まだ週の半ばだ。

しかし、芙の高ぶる気持ちを靜めるように、ポケットのスマートフォンがブルブルと震え出す。確認すると咲だった。芙は畫面を修司に見せてから、著信ボタンを押す。

「はい、芙です」

「大変だよ、芙ちゃん! 大変なんだよ」

言葉通り、だいぶ切羽詰まった狀況のようだ。

「どうしたの? 咲ちゃん」

「ひ、ひろとが」

突然飛び出した名前はしだけ芙の心を揺らしたが、そんなに浸る間もないほどに、咲が言葉を続ける。

「弘人がそっちに向かってるんだよ」

「えええっ? こっちって學校だよ?」

「ごめんね、芙ちゃん。さっき電話で類のこと話したら、アイツ會いに行くって言いだしちゃって。私もすぐ追い掛けるから」

「どうした?」

驚く芙に、修司は怪訝な表を浮かべる。芙は通話口を手で塞ぎ、狀況を説明した。

「弘人が今こっちに向かってるんだって」

あからさまに不機嫌な顔で、「はぁ?」と凄む修司。

「咲ちゃん、修司が會いたくないって言ってるよぉ」

「ごめーん。もう諦めて。弘人は言い出したら聞かないから」

それは修司も同じなのだが。

「とにかくまだ授業あるでしょ? 適當にあしらって追っ払ってよ。お願いっ!」

と、咲は一方的に通話を切ってしまった。

どうしようと芙は橫目に修司の顔を覗くが、案の定彼は眉を寄せてしかめっ面を見せている。

そんな時、教室の方向からざわめきが起きた。

修司が「まさか」と立ち上がり、その方向へ駆け出す。

教室の窓側に集中して、外を見下ろすクラスメイトたちを掻き分けて、修司と芙はその黒い車を確認した。騒ぐ聲を突き抜けるような甲高いクラクションが挑発的で、芙は他人のフリをしたかったが、知らない人だとしらを切る狀況ではなかった。

「なんだ、アレが弘人なのか?」

會わないと言っていた修司も、ベランダの柵からを乗り出して、開いた扉から現れる人を待った。

南に向いた外階段の真下に停められた車の運転席から、最初に黒い足が見えて、次に予想通りの人が顔を出す。

春の日差しに輝く、満面の笑顔だった。四階まであるギャラリーに並んだ生徒たちの中から、弘人は迷いもなく芙に向かって手を振った。

    人が読んでいる<戀した魔法少女~生まれ変わった魔法少女が、15年ぶりに仲間と再會する~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください